ディスカウントTOBとは?意味やメリット・デメリット、事例を解説

ディスカウントTOBの種類

上場企業の合併・買収(M&A)を行うTOB(株式公開買付け)は、一般的に市場価格より高値で実施されます。ディスカウントTOBは市場より安く株を売買しますが、この記事ではその意味やディスカウントTOBの意味やメリット・デメリットを解説します。

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ディスカウントTOBとは

株式公開買付け(TOB)とは、主に企業買収を目的として、株式市場の外で上場企業の株式を購入することを指します。TOBを行う際は、買付け期間・株数・価格を公表しなければならず、価格は市場価格を上回ることがほとんどです。成立すれば経営権を入手できる一方で、不成立となるケースも少なくありません。

TOBが不成立となる主な要因は、大株主が買収側に反発して防衛策を発動することです。敵対的TOBとそれに対する防衛は、同族経営企業への買収や文化が異なる企業による買収の際に発生し、第三者割当増資や株式分割が防衛策として用いられます。

通常のTOBは市場価格より高値で行われるため、市場価格が急騰しない限りは、応じる株主は得をします。それに対してディスカウントTOBとは、市場価格より安値で株式公開買付けを行う手法です。

ディスカウントTOBの意味

ディスカウント(discount)とは「割り引く」という意味の英単語であり、日常的に使われる「ディスカウントストア」などと同様の意味です。ディスカウントTOBも、買収側が市場価格より割り引かれた価格で株式を取得しようとする公開買付けを意味します。

しかし、多くのTOBが市場価格より高値で行われる「プレミアムTOB」では株主が得をするのに対し、ディスカウントTOBは株主の利益となりません。たとえば、市場価格が1,000円の株式に対して900円でディスカウントTOBが実施されたら、TOBに応じず市場で株式を売却したほうが多くの利益を得られますね。

もっとも、ディスカウントTOBでは株主側も市場価格より安い売却価格に同意した上で行われます。なぜなら、多数の一般株主が対象となる通常のTOBと異なり、ディスカウントTOBは特定の大株主だけを対象に行われる事例が多いためです。

買収側A社が被買収側B社の親会社C社からディスカウントTOBでB社株を買い受ける契約を結んだ事例を考えましょう。C社には市場価格より安くなるかわりに確実にB社株を手放せるメリットが、A社には市場より安く株を取得できるメリットがあります。

A社とC社の間でディスカウントTOBが行われる事例では、一般株主も株を持ち続けるため、B社株は上場廃止となりません。TOBは上場廃止と完全子会社化を目的に行われる事例もありますが、何らかの理由で市場で株式を流通させたい場合にも、ディスカウントTOBが選択されます。

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ディスカウントTOBの種類

ディスカウントTOBには大まかに見て以下3種類の事例があります。

  • 自己株公開買付け
  • 大株主による売却
  • 株式の整理・企業集団における再編成

買収側と被買収側が事前に協議するディスカウントTOBの性質上、いずれの事例も敵対的TOBへの対抗策となります。また、株式の発行が投資家からの資金調達となるのに対し、ディスカウントTOBはコストをかけて市場から株式を引き上げる動きです。それぞれのディスカウントTOBがどのような理由で行われるのか見ていきましょう。

自己株公開買付け

自己株公開買付けを理由とするディスカウントTOBは、文字通り自社の株式を大株主から買い戻す事例です。市場からの資金調達を目的とする株式発行と正反対の行為でありコストを要しますが、ディスカウントTOBにより市場価格より安価に株式を取得できます。

企業がディスカウントTOBで自己株公開買付けする主な理由は、敵対的TOBの防止や配当金の節約などです。自社株を50%以上所有すれば買収のリスクは減少しますし、自分自身に配当金を支払う必要はないため支出を減らせます。株を保有し続ける一般株主にとっては、1株あたりの利益が増えることがメリットです。

大株主による売却

ディスカウントTOBの多くの事例では、大株主を相手とする株式公開買付けが行われます。大株主がディスカウントTOBに応じる理由は、連結子会社の売却といった事業再編や、スムーズな株式売却による資金確保などです。

大株主である親会社が市場で株式を売却すると株価の低下を招き、目標とする金額を確保できないうえに、株主にも損害を与えるおそれがあります。一方でディスカウントTOBに応じれば、市場価格よりは安いものの、確実に株式を売却して資金を手にすることが可能です。

買収側にとっても、ディスカウントTOBにより市場価格より安く企業の株式を購入できるメリットがあります。

株式の整理・企業集団における再編成

株式の整理・企業集団における再編成は大株主による売却に含まれますが、ディスカウントTOBの買収側と被買収側が同じグループに属すことが特徴です。身内同士で株式の売買を行うため、ディスカウントTOBによって株式の取引価格が市場価格を下回っても損失は生じません。

代表的な事例は、上場企業A社の創業者で大株主でもあるX氏が、自身が持つA社株式を資産管理会社B社に移す目的で行わせるディスカウントTOBです。X氏は市場価格を下回る価値でA社株を売却しますが、B社の所有者もX氏であるため損はせず、市場を介さずスムーズに株式を移転できます。

傘下のグループ企業再編を目的にディスカウントTOBが行われる事例もあります。持ち株会社Y社の傘下に食品会社C社があり、C社の傘下に不動産会社D社があると想定してください。Y社はD社を直接の子会社としスムーズに事業を行う理由で、ディスカウントTOBでC社からD社株を買い付けます。

グループ内での株式移転の場合は、上場企業の株式でも公開買付け義務が除外され、市場外で売買できる特例があります。何らかの理由で特例を受けられない場合が、グループ内でディスカウントTOBが実施される事例です。

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ディスカウントTOBのメリット・デメリット

市場価格より高値で株式を公開買付けする通常のTOBと比較すると、安値で買付けるディスカウントTOBは特殊な事例です。なぜディスカウントTOBが実施されるのか、メリットとデメリットから考えていきましょう。

メリット

ディスカウントTOBを実施する買収側から見ると、市場価格より安く株式を購入できることが最大のメリットです。それに対する株主は、市場で株式を売るより安く株式を手放すことになり、金銭的なメリットが大きいとはいえません。

金銭的メリットがない株主がディスカウントTOBに応じる理由は、買収側が同じグループの企業や創業者の関連企業であるなど、友好的関係にあるためです。株主は市場価格より安いとはいえ、確実に現金を手に入れられますし、市場で株式を売却しないので暴落のおそれもありません。

市場価格より安い価格で公募されるディスカウントTOBに一般の株主が応じる事例は多くありません。これを逆手にとって、買収側と大株主が1対1で株式を売買することで、多数の一般株主を相手にTOB手続きを行う煩雑さを解消できるメリットもあります。

デメリット

ディスカウントTOBのデメリットとしては、書類作成や弁護士費用・広告費用が通常のTOBと変わらないことが挙げられます。また、一般の株主がディスカウントTOBに応じることは妨げられないため、安く株を手放す売主に金銭を補償するなど、便宜を図ることは許されません。

ディスカウントTOBは上場企業に対して行われるため、応じる売主が他の株主から善管注意義務違反に問われる可能性もあります。同様に、売主に損失が生じることは間違いないため、親会社などに反対されるおそれがあることもデメリットです。

また、ディスカウントTOBに対抗するため、他社に通常のTOB(プレミアムTOB)を実施される事例もあります。株を高く売れる通常のTOBに応じたほうが売主にはメリットが大きいため、確実に株を入手したい買収側にとってはデメリットです。

ディスカウントTOBを行う際の注意点

ディスカウントTOBは買主と売主が1対1で行う事例が多いものの、市場価格より安いTOB価格を設定することを除けば、通常のTOBと変わりません。よって通常のTOBと同様に書類を作成して新聞広告を出し、最短20営業日の公募期間を設ける必要があります。

手続き以外の注意点として、ディスカウントTOBに応じる売主以外の少数株主が理解してくれるかという問題があります。市場より安い価格で株式を売買するディスカウントTOBは、市場価格が割高であると認めることにほかならないためです。

少数株主の理解を得るためには、ディスカウントTOBが成立して買収側が株式を持つことで、被買収企業や売主にもメリットがあると明確にする必要があります。買収側と被買収企業の事業統合によるシナジー効果など、企業価値向上の明確化が代表例です。

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ディスカウントTOBの事例5選

次に取り上げるのは、ディスカウントTOBが実際に行われた事例です。企業の実名を挙げて経緯と結果を明らかにすることで、ディスカウントTOBを具体的にイメージできるようになり、制度の理解が深まります。

なお、ディスカウントTOBのメリットとデメリットをわかりやすく解説するため、敵対的ディスカウントTOBや不成立となった事例も紹介します。

事例1…オリエンタルランドによる自社株買いディスカウントTOB

第1の事例は、東京ディズニーリゾートの運営会社である株式会社オリエンタルランドが実施した、自社の株式を買い入れるためのディスカウントTOBです。2020年1月30日にオリエンタルランドが発表し、同日に株主である三井不動産株式会社が応募の意向を示しました。

応募予定株式数は1,500,000株、買付価格は2019年12月30日から2020年1月29日までの平均価格より約10%安い13,830円であり、同日の終値14,130円を約2%下回っています。

オリエンタルランドによるディスカウントTOBは取得期間を1月31日から3月2日までを買付期間として実施され、成立しました。3月2日の終値は12,910であり、結果的にTOB価格を上回っています。

当初は三井不動産以外の応募者が現れないと想定されましたが、予想以上に応募者が多く、あん分比例方式により応募者の株式が買付けられました。三井不動産が事前に協議してオリエンタルランド株をすべて手放すことがディスカウントTOBの目的だったと考えられますが、三井不動産の売却分は1,500,000 株のうち約1/3にとどまりました。

参考:株式会社オリエンタルランド「自己株式の取得及び自己株式の公開買付けに関するお知らせ」

事例2…実業家による「ぱど」株式のディスカウントTOB

株式会社ぱど(現・株式会社Success Holders)に対するディスカウントTOBは、経営不振に陥っていた企業の株式が、大株主により市場価格より安く売却された事例です。

「ぱど」は同名のフリーペーパーの発行を手がけます。2017年にはトレーニングジム運営のRIZAPグループ株式会社の連結子会社となりましたが、2019年11月に実業家の畑野幸治氏によるディスカウントTOBが行われました。

RIZAPは2019年3月期に通期連結で約194億円の最終赤字を計上しており、同じく赤字に陥った子会社の「ぱど」などの事業を再編する必要がありました。畑野氏による買付け期間は2019年11月7日から12月4日まで、買付け価格は1株あたり170円です。

東証JASDAQにおける2019年12月4日の「ぱど」の終値は208円で、ディスカウントTOBの買付け価格を上回っています。「ぱど」の株主であるRIZAPとサンケイリビング新聞社がTOBに応じて成立し、畑野氏は「ぱど」株式の72.56%を取得して筆頭株主となりました。

参考:畑野幸治氏による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ(株式会社 ぱど)

事例3…コカ・コーラBJHによるリコーからの自社株買いディスカウントTOB

コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス株式会社(以下、コカ・コーラBJH)は、日本コカ・コーラ株式会社から委託を受けて清涼飲料水を出荷・販売する企業です。コカ・コーラBJHの前身の一つである日米飲料株式会社は、1960年に事務機器・光学機器メーカーのリコー株式会社を創業した市村清氏により設立されました。

創業者が同一であるため、リコーは2018年2月時点でコカ・コーラBJH株の8.3%にあたる約1700万株を保有していました。コカ・コーラBJHが2018年2月21日に発表したディスカウントTOBの買付け価格は3,275円で、同日の同社株終値は4,005円です。

買付け期間は2月22日から3月22日までであり、リコーは保有していたコカ・コーラBJH株をすべて売却しました。コカ・コーラBJHがディスカウントTOBによる自社株買いで資産価値を向上させられたと同時に、リコーは売却益約560億円を得られたのです。

参考:コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス株式会社「自己株式の取得および公開買付けに関するお知らせ」

事例4…三菱商事による三菱自動車株のディスカウントTOB

不祥事によって打撃を受けた企業を、同一グループの企業が救済する目的で行われたディスカウントTOB事例です。2016年4月、三菱自動車が長年にわたって燃費試験データを不正に操作していた問題が発覚しました。同年に日産自動車が三菱自動車に出資して筆頭株主となりました。

2年後の2018年3月、三菱商事は2月21日から3月20日までを買付け期間として三菱自動車株のディスカウントTOBを実施しました。売り手は三菱グループの三菱重工業と三菱東京UFJ銀行ですが、三菱商事が三菱自動車株の20%以上を保有するため、持ち分法適用会社となり迅速に経営判断を行えるようになります。

三菱自動車株が2月21日の終値で838円であるのに対し、ディスカウントTOB買付け価格は749円です。3月20日の終値は773円まで下落しましたが、市場価格より安い価格でディスカウントTOBが成立しました。

参考:三菱商事株式会社「三菱自動車工業株式会社株式(証券コード 7211)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」

事例5…飲食サービスTBIのホリイに対するディスカウントTOB

株式会社TBIホールディングス(以下、TBI)は、イタリア料理店「Bee House」など多くの飲食店を展開する企業です。同じく飲食サービス業のホリイフードサービス株式会社(以下、ホリイ)株を取得する目的で、2017年4月18日から6月2日までディスカウントTOBを実施しました。

4月18日時点でホリイ株の終値は547円ですが、TBIが提示した買付け価格は430円と大幅に下回っています。結果的に、ホリイ創業者で当時代表取締役会長だった堀井克美氏のみが、TBIによるディスカウントTOBに応募して52.5%の株を売却しました。

市場価格を大幅に下回るディスカウントTOBは、他の株主や役員から異論が出るおそれもあります。スムーズにディスカウントTOBが成立した理由は、買収側と被買収側が飲食サービス業同士でありシナジー効果が期待できることと、被買収側のホリイの業績が低迷していたことです。

参考:M&Aマガジン「ホリイフードサービス(3077)株式をTBIホールディングスがTOB」

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ディスカウントTOBまとめ

市場価格より安く株式を買付けるディスカウントTOBは、売り手と買い手の双方にメリットがある場合に実施されます。安値でスムーズに株式を売却すれば、被買収企業とのシナジー効果による企業価値向上が期待できるためです。

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