バリュエーションとは、投資対象としての企業についてより深く理解し、その価値を見出す営みのことです。敵を知り、己を知れば、百戦危うからず、まずは企業価値をしっかり把握するバリュエーションについて理解しましょう。
この記事では、バリュエーション(企業価値評価)とは何か?目的と種類、算出方法を紹介します。
バリュエーションとは、バリュー(価値)をとらえる営みです。M&Aにおいては、投資案件に関わって、その対象である企業などの価値を評価することを称します。
バリュエーションは英語の「valuation」をそのまま外来語として用いている言葉で、日本語の訳としては「企業価値評価」となります。企業の価値をとらえることばかりでなく、株式などの金融商品でも用いられることがあります。この実務はCFO(最高財務責任者)が主に行い、M&Aなどにおける投資対象の経済性の評価となります。
バリュエーションをすることで、M&Aの対象となっている企業の経済的な価値は金額換算されます。企業の「値段」として明確に見える化されることで、投資において重要な判断基準として機能するようになります。M&Aにおいては、投資の申し入れの際の具体的な買収価額の提示や、そもそもM&Aを進めるかどうかの判断基準の一つとなります。
バリュエーションにおいては、企業の持つ総合的な価値が測られます。それは企業の負債価値と株主価値の総体であり、事業価値と非事業価値の総計でもあります。つまりその価値は、企業が行う事業の収益性、企業の持つ有形無形の資産、また抱えている負債や債務保証など、さまざまな要素が関係してきます。そこには自ずから現在のキャッシュフローばかりでなく、将来予測としての可能性をも見て取ることが可能で、その企業の持つ本来的な価値を見る指標として高い普遍性を備えています。
バリュエーションは明確な目的を持って行われます。さまざまな情報を駆使して行わなければならないため「なんとなく漠然と企業価値を測る」ということはあり得ないからです。
目的としては、主に2つの目的が考えられます。
M&Aはいわば買い物です。買い物では商品を見定めますよね。しかし企業に「値札」はついていません。その価値は意図的に測定しなければなりません。対象となっている企業の価値を、総合的、具体的にとらえることができれば、その将来性を含めた価値が判断できるようになります。バリュエーションを行うことで、そうした企業の「値段」を見定め、売買の判断基準にできるのです。また実際に投資につながらずとも、企業の経営戦略を練る判断基準として機能することも期待できます。
M&Aにおいては資金を提供するステークホルダーへの説明は欠かせません。企業の買収価額などに透明性や合理性を持たせ、価額決定の客観的根拠を示しておくことで、後々の提訴などの法務上のリスクを避けられます。バリュエーションによって、企業価値は合理的に数値化され、第三者的な視点での客観的な価値が明示されます。このことによってM&Aを進める上での説得力を格段に高められます。
また、立場によってもその価値の見方、つまりバリュエーションの目的は変わってきます。企業を存続させたいと考えている場合には、事業継続の将来性をとらえることが重要になってきます。逆に企業を清算したいと考えているなら、現在の企業価値をとらえることが重要です。これはM&Aでいえば、前者は買収する側にとってのバリュエーションであり、後者は売却する側にとってのそれといえるでしょう。同じバリュエーションであっても、その立場によって目的やとらえ方が変わることも押さえておかなければなりません。
バリュエーションには、その将来性を主に見ていくものや、資産状況を主にとらえようとするものなど、そのアプローチの仕方から代表的な3種類の手法があります。2つ以上の手法を併用することも行われ、その場合はそれぞれの比重を設定する必要があります。比重の設定に一般的な基準はなく、バリュエーション目的や対象企業などに応じて適切に考えなければなりません。
では3つの手法を、それぞれ詳しく見ていきましょう。
インカムアプローチは企業収益の将来性やキャッシュフロー予想を主な指標とする手法で、M&Aや事業への投資などの際の資産価値評価としてよく用いられます。金融機関などが行うリスク予測でも採用されることが多く、スタートアップにおける一般的な投資判断の基準としても用いられます。
企業の将来的な価値を、M&Aのシナジー効果も含めて遺漏なく評価できるのがメリットですが、あくまでも未来予測をもとに計算するため評価実施者の主観が反映されやすく、結果が事実と乖離する可能性が高くなるデメリットがあるので客観性の担保が重要です。
主な算出方法には以下の3種類があります。
キャッシュフロー予想を現在の価値に置き換えてとらえ、それをもとに企業価値を評価します。主にM&Aで用いられることが多く、「のれん」といわれる将来的に期待される企業の無形の資産を合理的に価値評価できる方法として知られています。
実際によく用いられるのがこの計算法で、フリーキャッシュフローを割引率(資金の準備コスト)で除したものを最低5年後まで合算し、これにターミナルバリュー(5年後のキャシュフローに1とインフレ率より低い0~1%の永久成長率の和を乗じ、割引率と永久成長率の差で除した数値)を足して求めます。
フリーキャッシュフローは、税引き後営業利益(NOPAT、税引前利益に法人税実効税率を乗じたものを税引前利益から減じたもの)と減価償却費を合算し、ここから設備投資と運転資金増加額(売掛金に棚卸資産を合算したものから買掛金を減じたもの)を減じることで求められます。
割引率は負債資本コストと株主資本コストを加重平均するWACCという方法で算出されます。負債資本コストは金利や社債の利息など、債権者へのリターンとなるものです。支払利息を有利子負債の期中平均で除して求められます。
株主資本コストは配当金やキャピタルゲインなどがあり、株主へのリターンです。これはCAPMという計算式(安全資産のリターンであるリスクフリーレートに、リスクフリーレートよりどれだけ高い利回りが出るかを表すマーケットリスクプレミアムに個別資産が市場にどの程度反応するかを表すベータ値を乗じたものを合算する)で求められます。
投資対象の持つ将来的な収益見込みを、現在の価値に置き換えて企業を価値評価する方法です。不動産などが持つ収益性の予測で主に用いられます。
将来予測される株式の配当予測をもとにして企業価値をとらえようとする方法です。配当額は経営施策などさまざまな要因で大きく変動し、大企業では計算しきれないため、未上場の企業や株主が少数に限られる場合によく用いられます。株式の価値は、期待される配当額を資本コストと配当金の成長率の差で除して計算します。
コストアプローチは、企業の純資産をもとに企業価値を評価しようとするもので、ネットアセットアプローチとも呼ばれます。企業の資産や負債の現在の状況をもとにするので、技術力や顧客のネットワーク、ブランド力など簿外の価値が含まれないというデメリットはありますが、貸借対照表の数値のみで客観的な企業価値の現状が算定できるという簡便さ、迅速さがメリットです。業績悪化などで清算する企業の価値評価に多く用いられますが、純資産額以外の判断材料が少ないベンチャー企業や中小のM&A案件での活用もよく見られます。
主な算出方法は3通りです。
会計上の帳簿に記載された資産や負債の評価額をもとにします。実際の会計上で資産の客観的な価値が見やすいという点で優れていますが、時価と比較すると大きく差異が出る可能性があります。
帳簿上の評価額ではなく、市場価格に変換した時価をもとに株式価格を算定する方法です。3つの中では最も頻繁に利用される計算方法です。具体的には次の式で求められます。
時価資産合計額ー営業債務ー有利子負債=株式価格
時価資産合計額には次のような勘定科目が含まれます。かっこ内はそれぞれのチェックポイントです。
資産や負債を一定程度時価で修正して算定する、いわば上記の2方法を折衷した計算方法です。含み損益が比較的大きくて市場価格がわかりやすい、有価証券などの金融資産や不動産などについてのみ時価を取り入れる考え方です。
3つ目の手法は、同種の企業や業界と比較して企業価値を評価するものです。上場している企業は株価の現況で評価できます。しかしスタートアップ企業などの場合、評価対象企業の決算内容に、一定の率を係数として乗じて価値を評価します。このときは係数の根拠が重要なポイントになります。比較対象とする企業や業界がない場合にそもそもこの手法を使えなかったり、無理やり類似性を求めて算定して適正さのない評価を下してしまったりする可能性があります。しかし、うまく適用できれば現状が赤字経営の企業でもプラスアルファの価値を見出すことができたり、スピーディーに価値評価ができたりする点で優れた手法です。
主に4つの計算方法が知られています。
KPI(重要業績評価指標。売上や利益などのこと)に対して、類似した上場企業の株価や純資産、利益などを参考にして一定の係数を乗じ、相対的な価値を評価します。実際の市場価格が反映されるため客観性が得られると考えられており、スタートアップの際の資金調達によく用いられます。
実際にはこの手法が多く用いられ、具体的には次のようにバリュエーションが行われます。
主な評価ポイントは売上高倍率(事業価値÷売上高)、営業利益倍率(事業価値÷営業利益)PER倍率(株式価値÷親会社や株主に帰属する当期の純利益)、PBR倍率(株式価値÷純資産)EBITDA倍率(事業価値÷EBITDA)の5つです。
ちなみに「事業価値」は企業価値から非事業用資産を減じて求められ、「株主価値」は企業価値から有利子負債の価値を減じて求められる数値です。
EBITDA倍率は、特にM&Aで評価基準としてよく取り上げられます。EBITDAは、税引前利益に特別損益や利息の支払額、減価償却費などを足して求める営業利益に似た概念のもので、損益計算書から求められます。事業価値をEBITDAで除した数値は、類似した企業ではほぼ同じになると考えられ、数社の類似企業のEBITDA倍率をM&Aの対象企業に当てはめることで、その企業価値を評価しようとするわけです。
上場企業でしか採用できませんが、株式の市場価格を参照する方法となります。前日終値、終値の1カ月平均、3カ月平均、6カ月平均などをもとに計算します。
類似したM&Aの取引が成立した際の買収価額に基づいて計算するやり方です。実際に成立した取引のマルチプルを計算して適用します。しかし、評価対象の企業と類似した成立案件がない場合には使えません。
国税庁が公開しているデータベースを利用する方法です。評価対象企業と類似した企業を選択し、複数の要素での比較を行い、その批准割合をもとに企業価値を評価します。
バリュエーションは気軽に行えるものではありません。周到な準備と帳簿などの資料の整備、市場動向の把握、専門家の確保などが必要だからです。バリュエーションは適切なタイミングと目的のもとで行われます。ここではその実施のポイントを見ていきます。
バリュエーションは、M&Aなどの実施にあたり、一般的に次のようなタイミングで行われます。
投資としては最も早い段階で行われるバリュエーションです。契約を進めてよいかどうかの判断を行うものですが、この段階で開示されている情報は少なく、特に慎重な判断を伴って行われる必要があります。
デューデリジェンスは専門家の助力を得ながら、投資対象になっている企業の企業価値や財務上や法務上のリスクの存否など、現況を把握するための調査です。投資対象に関する情報の開示が進んでいることを受け、デューデリジェンスの結果も反映しながらより正確なバリュエーションが実施できます。
投資を最終決定するための取締役会などで、念のための確認としてバリュエーションについて提示する必要があるときに行われます。この段階ではすでに契約の詳細に至るまでが詰められていますので、概要的な内容にとどまって実施されるのが一般的です。
一般的にバリュエーションを行うのは企業の売買のときです。そこにはできるだけ高く売りたい売り手と安く買いたい買い手の思惑が当然からんできます。買い手側のデューデリジェンスの結果、売り手側のバリュエーションを大きく下回る結果が出ることは珍しくはありません。これは不良在庫や何らかの要因による資産の時価の低下、見通しのない事業計画など、いわゆる減価要因があることによります。買い手としてはM&Aのシナジーも加味して、増価要因、減価要因を見直してバリュエーションし直すことになります。
また前述したとおり、バリュエーションの手法によっても結果は大きく違ってきます。特にIoTやAI技術など、成長著しい分野では、将来的な技術価値やエンジニアなどの人的資源が適切に評価されずバリュエーションを損じてしまい、資金調達に行き詰まることも見受けられます。スタートアップ企業に対する投資を検討する際には、こうした見えざる価値にも適切な評価を与えていくことが重要です。
M&Aを始めようとするとき、大きな壁の一つが投資対象の企業価値をどう測るか、すなわちバリュエーションだといえるでしょう。投資がきちんと回収できるかどうかは、投資対象の企業価値を正確に把握することにかかっているからです。
しかしこのバリュエーションを的確に進めるのはなかなかに難しいことです。専門家に相談したいと思っている方はウィルゲートM&Aをご検討ください。利用者数1400社以上の実績を持ち、特にWeb、IT業界に関しては事業運営についても専門的なノウハウを持ち、的確な助言が得られます。
バリュエーションは投資の成功の鍵となる重要な行為です。投資対象の企業の企業価値を正確に把握できれば、投資を進めるにしても断念するにしても自信を持って判断できるからです。どのように投資をすすめるか、バリュエーションをどのタイミングでどのように実施するか悩む方は、ウィルゲートM&Aにご相談ください。
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