M&Aのステップの1つであるデューデリジェンスですが、人事や財務・法務など、さまざまな分野に分かれています。
今回は、人事デューデリジェンスとは何か、その目的と調査項目などを含め、手続きの流れと注意点まで詳しく説明します。
デューデリジェンスという言葉を耳にしたことはありますか。多くの方になじみのない言葉ですが、M&Aを成立させるために非常に重要なステップの1つです。
デューデリジェンスは英語で表記すると「Due Diligence」で、DDと略することが多いです。こちらを日本語に訳するとDueが「正当な、しかるべき」、Diligenceが「勉強」なので、Due Diligenceは「正当な調査」だといえます。
M&Aでのデューデリジェンスは主に買い手の依頼のよって売り手の状況を調査することが一般的です。調査分野は多岐にわたり、財務や事業の将来性など、今後の事業継続にかかわる分野はもちろん、人事や法務のような社内システムに関係する分野も調査対象です。
買い手はM&Aを成立させることにメリットがあるのか、リスクはないかを事前に把握する目的で売り手のデューデリジェンスを行います。また、デューデリジェンスが正当な企業価値算出にもつながるので、お互いに納得してM&Aを締結するための判断材料にもなります。
人事DDとは、先ほど説明したM&A時の企業DDの一部です。主に対象企業の人事制度全般と組織、労務管理などを調査します。DDを買い手で直接行うには専門性などが不足する場合が多いので、M&A仲介会社などに依頼することが一般的です。さらに人事DDは人事専門家のコンサルティング会社や社会保険労務士などに委託されます。
M&A成立後は両社間のPMI(post merger integration)を行います。PMIとは、両社の経営統合のための手続き全般を指します。人事制度や組織などにおいても、両社のPMIが必要ですので、買い手としては事前に売り手の人事状況について把握しておく必要性があります。
M&Aというと多額のお金が動くことでもあり、どうしても財務や事業状況などに関連する分野のDDが先に連想されます。しかし、M&A成立後の組織統合のためにも、人事DDの重要度は高いといえます。
人事DDを行う目的とその重要性について話していきます。
すべてのDDの目的は、M&A成立後の経営統合時発生し得るリスクを避けることです。人事DDはその中でも人材に関係するリスクを避けるためのステップです。また、人事PMI過程を通じて、両社間にどれほどのシナジー効果を出せるか見極めるのも、この人事DDの目的です。
PMIで人事制度を買い手側のものに統一せず、売り手の人事制度の中で優れたものを積極的に受け入れると、経営統合後により発展した人事制度を設けられるでしょう。また、退職金の未払いや不当解雇など、将来的な負債やリスクとなり得る要素も発見できます。
このようにリスクを洗い出し、PMIに反映することで、M&A成立後も新体制でスムーズに経営をスタートできます。
繰り返しになりますが、人事DDは企業の人材に関係するリスクを洗い出すためのものです。これらのリスクを早期に発見し、M&Aの妥当性を検討できることはもちろん、リスクへの対策もできるので、人事DDは必ず行うことが推奨されます。
リスクの中には、売り手の現従業員が抱えている不安や不満も含まれます。勤務環境の急な変化で不安を感じ、売り手企業が保有している優秀な人材が退職する可能性もあるでしょう。また、以前より福利厚生制度が充実しなくなると、きっと不満の声が挙がるはずです。
買い手としては、M&A後に売り手が持っている優れた技術や事業価値など、できる部分はフルに活用したいはずです。一目では把握しにくい人的資源を調べる人事DDを通じて、売り手の優秀な人材のつなぎ止めなどにもつながるでしょう。
では実際人事DDではどのような項目を調査するでしょうか。深掘りすればするほど調査項目は増えてくるのですべてを説明することは難しいですが、ここでは代表的な6つの項目について説明します。
人事制度は広い意味で従業員の労務管理およびそれに対する待遇の仕組みを言います。かなり広範囲にはなりますが、主に確認すべき項目は下記のとおりです。
各等級別、職種別の勤続年数や退職率を調べてみるのも有意味な人事DDになるでしょう。従業員の目線から売り手企業を評価できるうえ、もし退職率が高いとその原因を把握して対策を立てられます。
労働協約や労使協定などで定められている就労条件を確認することも重要です。従業員と企業間に交わされる労働協約や労使協定に法律に触れる部分はないか、チェックする必要があるでしょう。また、売り手の就労条件が買い手企業のものとはどう違うか、事前に確認しておくと後の人事PMIにも役立つはずです。
企業によっては労働協約にM&A時の従業員への告知義務が定められているケースがあります。M&Aを成功へと導くためには、従業員への告知タイミングも慎重に検討する必要があります。
売り手の従業員と会社の間で交わされている労働契約書も確認すべきポイントです。多くの企業が労働契約書のひな形を用意しており、入社する人の職務や経歴などによって詳細のみを変更して使用します。買い手企業の労働契約書ひな形と照らし合わせ、どの部分は残して、どの部分は統合していくか検討しておく必要があるでしょう。
また、例外的な勤務形態で、労働契約書も変則的な従業員がいるケースもあり得ます。そういう場合はなぜ特別な契約形態を取り決めたのか、将来のリスクにはならないか、綿密にチェックしておいた方がいいでしょう。
特に主力事業において優秀な成績を出している従業員を把握しておくといいでしょう。そういった人は経営統合後もぜひ残ってほしい人材であるため、もし退職などの動きがあった場合、早めに対策できます。
また、従業員への人件費もしっかり確認しておく必要があります。特に退職金制度は会社によってさまざまで、その金額もかなり大きいです。売り手企業の方が買い手より手厚い退職金制度を持っている場合、それを事前に把握できないとM&A成立後思わぬ出費で頭を悩ませることになるかもしれません。
売り手企業が作成している組織図などをもとに、ヒアリングなどを通じて社内の組織構造を把握します。企業によって組織名や業務分担などが異なるため、必ずしも買い手と同じような組織構造を持っているとはいえないためです。
また、企業によっては1つの部門に権限が集中しているケースもあります。メーカーにおける研究開発部門などがその例です。力の集中はM&A後の経営統合や新事業での相乗効果の妨げになり得るので、把握して対策をしておきましょう。
会社には正規雇用の社員だけでなく、期間雇用社員も存在することが一般的です。期間雇用社員が一定割合以上の人数になっていないか、彼らの契約条件や契約延長状況、解雇状況なども確認しておくといいでしょう。正規社員の方が少ないからといって、必ずしも悪い企業というわけではありません。しかし、あまり正規社員が少ないと、比較的に解雇がかんたんな期間雇用社員を意図的に多くしている可能性もあるので、要チェックです。
5年以上の契約期間だったのにもかかわらず、正規社員への転換が行われなかった件数が多いと、不当解雇だった可能性を念頭に置いて詳しく調べてみる必要があります。
実際人事DDはどのように行われるか、なかなかイメージがつかめませんよね。DDの中にはさまざまなステップがありますが、今回は3段階に簡略化してご紹介します。
DDの依頼主である買い手企業が仲介会社などと相談し、調査の方針を決める段階です。人事全般の中でも、特にどの項目を重点的にチェックするか、どこまで調査するかなど、事前にすり合わせを行います。
方針がある程度固まったら、売り手側に基本的な人事データを依頼します。ここには従業員数や報酬などが含まれます。一般的にこの段階で両社間の秘密保持契約を締結します。売り手側に求める情報には従業員の個人情報など、取り扱いに注意すべき情報も多く含まれているためです。
売り手から提供を受けた各種情報を確認、分析する段階です。売り手の就労条件や就業規則などが法の基準に合致しているか、買い手の人事制度とどれほど乖離があるかなどを調査します。この段階で請求資料のリストを作成し、お互いわかりやすく整理することが一般的です。
ある程度情報確認が終わると、質問事項のリストを作成し、売り手に回答を求めます。売り手の回答をもとにミーティングを行い、両社間の違いなどをすり合わせていきます。
情報の分析が終わり、報告書にまとめたものを買い手の方に報告します。M&A成立後にどのように新しい人事制度を作っていくかなど、理想的な人事制度が提案されます。もちろんすべて理想どおりにすることは難しいため、実現できるものとできないものに分けて検討する必要があります。
新人事制度への移行のため、以前より賃金が下がってしまう従業員が発生する可能性があるなど、リスクについてもこの段階で確認、検討します。
DDを行うにあたって気になるのは、やはり費用の部分でしょう。DDは自社で行うよりは専門家に委託することが多く、その範囲を広げれば広げるほど、費用もかさみます。
人事DDにおける相場はいくらか、そして主にどのような部分にDD費用がかかるかについて調べてみましょう。
M&A仲介会社に依頼する場合、人事DDだけでなく、すべてのDDにおいての相場は一般的に2~5万円/日程度です。企業規模が大きい場合や相手が海外企業である場合を除き、総額数十万~数百万程度といわれています。
弁護士や公認会計士など、資格を持つ専門家にDDを依頼する場合はより高い費用が発生します。例えば、弁護士は実働時間で報酬が計算され、1時間当たり2~5万円程度の費用が掛かります。1日5時間だけでも10~25万円の報酬が支払われるわけです。
人事DDのみならず、DDを行う際にはどの部分に集中するかを明確に決めて効率的に調査を行うことが、費用削減の面でもおすすめです。
DDにはかなりの費用が発生するため、本当にこの費用を支払う価値があるか疑ってしまう方もいるでしょう。しかし、売り手の人事全般を確認するためには、労働基準法など、関連法や知識が頭に入っている人でないと実施が難しいものです。多くの場合、DDを実施する人はその分野の専門家で、プロにサポートしてもらう人件費だと思うと、決して高い費用ではないはずです。
また、DDを行うためには売り手企業の支店や工場に訪問するなど、出張も発生します。その際の交通費や実働費用なども、すべてこのDD費用に含まれます。
人事DDを適切に実施しないと、M&A交渉中に交渉が決裂するほどのリスクが突然発見される可能性があります。だからといってDDの範囲を広げすぎると費用も大きくなるので、ちょうどいいバランスを見つけることが大事でしょう。
また、M&Aスキームによっても発生可能性がある人事関連リスクは異なります。合併や会社分割によるM&Aでは、売り手が従業員と交わしている雇用契約の内容は変更されないまま引き継がれます。そのため、買い手の人事制度とは合わない契約項目が存在します。同じ会社に勤務する従業員でも労働条件が異なるケースが生じるため、管理の面でも大変でしょう。
事業譲渡によるM&Aの場合、売り手の契約条件をそのまま引き継ぐ強制力はありません。しかし、優秀人材を引き留めたいとき、以前の労働条件保証が残留の条件になるケースもあるので、そういうケースでも同社内に複数の労働条件が共存することになります。
M&Aは経営者だけでなく、従業員にとっても大きな変化です。M&A後の両社の従業員に安心して働いてもらうためには、人事面でのトラブルを最小限にすることが大事です。M&Aスキーム別に起こり得る人事リスクについては、早めに専門家に相談し、発生を防ぎましょう。
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DDとはM&Aの事前ステップの1つで、主に売り手企業の現状を調査し、適正な企業価値を算出するためのものです。その中でも人事DDは人材と関連するすべての項目が調査対象となり、人事制度から労働契約書、人材そのものなど、調査分野は多岐にわたります。
人事DDを適正に行わなかった場合、事業統合時の人事PMIにも大きな影響が出ます。両社の異なる人事制度のすり合わせがうまく行われず、従業員の不安や不満が高くなる可能性もあります。その結果、両社のシナジー効果を出すことはおろか、多くの優秀な従業員の退職まで起こり得ます。
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