のれん償却とは?償却期間、会計処理、仕訳方法をわかりやすく解説

この記事の監修:M&A専門家
四辻 弘樹
S M B C日興証券・みずほ証券の投資銀行部においてM&A、ファイナンス、I P O等に携わる。その後は上場企業のテモナにおいてCSOとして事業戦略、M&A、新規事業開発に従事。現在はM&Aアドバイザリーの他、資金調達支援、IPO支援に加えCFOとしての活動。

本記事では「のれんとは」「のれん償却とは」をわかりやすく解説します。

また、償却期間や会計処理の方法、会計基準の違いについても事例を交えて紹介します。メリットやデメリットを正しく理解して、M&Aにお役立てください。

のれんとは?

のれんとは?

のれんは、もともと売り手企業が持っていた純資産よりも高い価格で買い手企業が買収した際に発生する差額をいいます。主にM&Aの際にしか使用されない用語です。「営業権」や「超過収益力」とも呼ばれていますが、帳簿の勘定項目にそのまま「のれん」として計上します。

のれんと呼ばれている理由は、飲食店の入り口などにかけられているあの「暖簾(のれん)」から来ています。実際に、のれんがかかっているお店とそうでないお店をイメージしてみるとわかるでしょう。のれんがかかっているお店は、第一印象がよくなったり、ブランド力を示したりできているのがわかります。そこで、会計の世界でものれんの考えを取り入れ、目に見えない企業のブランド力や成長力といった資産価値を示す用語として使われ始めたのです。

そして、なぜ売り手の資産以上の価格で買収されるのかについては、目には見えない「将来性」や「事業内容への評価や信頼」も含まれているからです。たとえば、企業が持つ資産は、土地や製品などの固定資産だけではありません。

  • 人材
  • ブランド力や知名度
  • 社風や企業文化
  • ノウハウや特殊な技術
  • 優良な顧客や取引先
  • 市場シェア など

固定資産以外に、ほかの企業から見て魅力的に感じられる部分は、無形資産として買収価格に反映されるのです。そのため、仮に売り手の純資産が1,000万円だったとしても、買い手が将来性を評価し1,500万円で購入した場合は、500万円ののれん代が発生します。

ただしのれん代は、規模が大きくなると数千万円〜数億円と買い手企業に大きな負担をかけるのも特徴です。そこで、のれん代を減価償却(のれん償却)をして負担を減らしながら事業を存続していく方法が一般的となっています。

減価償却とは?

減価償却とは?

「減価償却」は、ある程度の規模になれば必ずといってよいほどおこなわれている計上方法のひとつです。事業の拡大などで高額な資産を購入した場合、その金額を一括で計上するのではなく、分割かつ複数年にわけて「費用」として計上します

分割計上していくことで、損益が大幅な赤字になることを防ぎます。また、適正な決算書とすることで、投資家なども経営環境を正しく把握できるのです。たとえば、事業拡大のために新規設備を5億円で購入し15年かけて返済していくと決めた場合は、15年間に分割して減価償却をおこないます。

また、返済期間は資産購入によって生み出される利益をもとに設定されるため、この例でいえば、15年間は新規設備で利益を確保できる見込みがあると判断してよいでしょう。言い方を変えれば、この新規設備は最低15年間は価値が担保されているともいえます。

のれん償却とは?

のれん償却とは?

「のれん」と「減価償却」の意味を理解できれば、のれん償却についてもわかります。M&Aによって発生したのれん代を、分割で経費計上していくのが「のれん償却」です。

通常の固定資産購入とは異なり、のれんはブランド力や人材など無形資産から発生するものだとお伝えしました。そのため、のれん償却をおこなうことは、企業が無形資産の価値をどのようにして消費したかを証明する結果ともいえます。

のれんの価値をどの程度の期間で消費したかによって、会計上でも事業の存続性を適正に判断できるのです。

たとえば、1,000万円の資産価値を持つ企業に、2,000万円の価値をつけて買収した場合を考えてみましょう。この場合ののれん代は、1,000万円です。

1,000万円がどの程度の効力を発揮して、回収できるだけの利益を生み出してくれるかを考えます。

仮に、毎年100万円の利益を生んでくれると判断したのであれば、減価償却期間は10年です。これを投資家の視点で見てみると、10年かけて回収するならその企業は10年間は新たに買収した企業の力で事業を存続させていく見込みがあると判断できます。

反対に、1年で1,000万円以上を回収できる見込みがあるなら、減価償却は不要でしょう。

のれん償却のメリット・デメリット

のれん償却のメリット・デメリット

では、のれん償却のメリットとデメリットを見てみましょう。M&Aを検討するうえでは、のれん償却のよい部分だけでなく、デメリットも把握しておく必要があります。

のれん償却のメリット

減価償却でもあったように、事業買収にかかった巨額ののれん代を一括で赤字計上する必要がないのが一番のメリットでしょう。

万が一のれんの価値が購入後にゼロになった場合は、減価償却をしていないとのれん代のすべてが損失となるのです。のれん代が500万円あったとして、減価償却をせずに計上した場合には、そのまま損失に500万円が上乗せされます。これでは、利益よりも損失が上回ってしまう可能性もあるでしょう。

そこで、何年もかけて少しずつ費用を計上することにより、多額の損失が上乗せされるのを防ぎ、予算に沿った経営を続けていけます。

また、固定資産と同様にのれんの価値も永遠ではないため、年々価値が減っていくことを想定し、余裕を持った経営を実現できるでしょう。

のれん償却のデメリット

一方で、のれん償却のマイナス面としては、費用が増して利益が減ることが挙げられます。のれん償却費は、予算通りの利益を出せなかったとしても毎年発生するものです。

たとえば、毎年100万円ののれん償却があった場合、利益が30%減少した年でも変わらずに100万円が費用計上されてしまいます。

そのため、経営状態が不安定になると償却費も大きな負担となり、利益率の悪化につながるでしょう。

また、高額買収したのにもかかわらずのれんの価値を活かせなかった場合も、償却費を回収できず、資産価値を下げる会計処理(減損処理)が必要となります。減損処理については後ほど解説します。

毎年決まった額を償却できる代わりに、経営が厳しかった年には痛い出費となってしまうのがのれん償却のデメリットです。

のれんの償却期間と償却方法

のれんの償却期間と償却方法

ここからは、さらに深掘りして「のれん償却」における具体的な償却期間と方法を解説します。目安として事例も交えながら解説しますので、ぜひM&Aを実際にする場合を想定しながらお読みください。

のれんの償却期間

のれん償却の期間は、日本会計基準において「20年以内」と定められています。20年といっても、これには「20年以内」かつ「のれんの価値が保たれる期間」の2つの意味が含まれているのです。

のれんの償却期間は、買収した企業が自由に決められます。たとえば、8年で減価償却が終わると見込まれるなら、償却期間は8年と設定できるでしょう。一方で、10年でのれんの価値が消費されることが見込まれているのに、20年の償却期間を設けたら、余計な費用を長々と計上し続けることにつながります。

そして、償却期間は一度決めたらその後は変更が認められません。短く設定すれば毎年の負担も大きくなりますし、反対に長くすれば費用として計上する期間も長期化します。

そもそも無形資産に価値をつけるのは容易ではありません。買収先企業の持つ魅力やアピールを冷静に見極め、自社との相性や買収後の経営環境など、幅広い情報から未来を予測して定めます。

ゆえに、どの程度で買収費用を回収できるのかを熟考してから、償却期間を設定する必要があるでしょう。

ちなみに税務会計上では、のれんは「資産調整勘定」とされ、償却期間は「5年間」と決まっているため、会計基準とは年数が異なると覚えておきましょう。

のれんの償却方法

のれん償却は、ほとんどの企業が「定額法」と呼ばれる方法で償却しています。定額法は、償却期間のはじめからおわりまでずっと同じ金額を計上していくものです。

いくつかの例を見てみましょう。

①1,000万円ののれん代を10年で償却する場合は、毎年100万円の償却額

②2,500万円ののれん代を12年で償却する場合は、毎年約208.3万円の償却額

③900万円ののれん代を5年で償却する場合は、毎年180万円の償却額

どの規模の金額でも、毎年同じ額を償却するとわかります。

したがって、毎年の償却金額も考慮したうえで償却期間を定める必要があるといえるでしょう。

のれん償却の仕訳と会計処理方法

のれん償却の仕訳と会計処理方法

では、実際にのれん償却の仕訳と会計処理について見てみましょう。ここでは、以下の企業(A社)を買収したとして実際に計算します。

  • 現金資産 1,000万円
  • 貸付金 600万円
  • 買掛金 300万円

A社が持つ資産は、現金と貸付金を合わせた1,600万円から負債である買掛金300万円を引いた1,300万円です。1,300万円の資産価値があるA社を、将来性などを加味して1,800万円で買収したとします。ここで差額が発生するため、のれん代は500万円と計算できます。

仕訳は、500万円を買収時に「借方」へそのまま「のれん」としてまず計上しましょう。次に、買収後の決算期に「借方」へ「のれん償却」として毎年計上します。

のれん償却額は、「のれん代÷回収にかかる年数」の計算で求められます。ここの金額は、何年かけて償却するかによって変動するため、今後の事業規模やどの程度で回収できるかをよく考慮してから決めましょう。

今回のケースに当てはめて考えます。

A社買収によるのれん代500万円を10年かけて償却するなら、のれん償却額は年間50万円です。そのため、借方の「のれん償却額」へ償却が完了するまで毎年50万円計上します。

また、のれん償却額は損益計算書の「特別損失」に計上されますので、覚えておきましょう。

ちなみに、買収金額が企業の資産価値よりも低かった場合は「負ののれん」として計上します。A社の例でいえば、A社の持つ純資産1,300万円よりも低い金額である1,000万円で購入した場合などです。1,000万円で買収すると負ののれん代は300万円と計算でき、仕訳は「貸方」扱いとなります。

損益計算書では、特別利益の項目に「負ののれん発生益」として300万円計上しましょう。

また、負ののれんは安く変えてお得なイメージですが、それだけリスクのある買収をしたとも判断されます。

実際にあった例で言えば、RIZAPが挙げられるでしょう。
経営リスクのある企業をいくつも買収し、負ののれんを発生させて事業が好調に拡大していることを示しました。

のれん償却の会計自体は単純なものですが、償却せずに利益となるかは、のれん代次第だとわかるでしょう。

「日本会計基準」と「国際会計基準(IFRS)」の違い

「日本会計基準」と「国際会計基準(IFRS)」の違い

ここまでは、日本会計基準をもとにしたのれん償却方法や会計処理について紹介しました。

しかし、のれん代をあえて償却しない処理も方法もあります。というのも、のれん代は「日本会計基準」と「国際会計基準(IFRS)」のどちらを採用するかによって、償却するかどうかが変わるのです。

結論から言えば、日本会計基準では償却し、IFRSでは償却しません。両者の特徴をそれぞれ見てみましょう。

「日本会計基準」におけるのれん代の扱い

日本会計基準は、これまで紹介したとおり、のれん代を無形固定資産として計上します。そして、20年以内に減価償却できるよう回収年数を設定して、毎年決まった額を計上するとお伝えしました。

会計処理も複雑ではないため、多くの企業が採用しています。

ただし、償却額を毎年計上することで営業利益に影響が出るのも事実です。利益が償却額よりも少なかった場合は、実質的に利益も減少し利益率も悪化します。

ゆえに、利益が下がることを考慮して、IFRSへ切り替える企業も増えてきているのです。

また、のれん償却年数を変更できないこともデメリットのひとつでしょう。回収年数は、買収時ののれんが持つ資産価値や自社の企業規模、今後の業績予測などから決めます。適切な期間を設定しないと、利益を圧迫してしまうこともあるのです。

そのため、日本会計基準は、のれん代を毎年一定額で償却する処理のしやすさが魅力ではあるものの、利益が減少するデメリットもあると知っておきましょう。

「国際会計基準(IFRS)」におけるのれん代の扱い

一方で、国際会計基準であるIFRSではのれん代を償却しません。その代わりに、のれん代を「資産」として計上し続けます

償却をしないため費用として計上する必要がなく、利益額に影響しないのが大きな特徴です。

ただし、のれんの価値については、きちんと検証していく必要があります。日本会計基準では、のれんの価値が下がることを見越して、償却していますが、IFRSではのれんの価値が不透明です。そのため、毎年「減損テスト」をおこなって、価格が低下するかをチェックします。

減損テストは、回収可能金額と帳簿価格(会計上に記録された企業の評価額)を比べて、どちらが高いかを判断するテストをいいます。
監査法人など外部の専門家に依頼して、こまかくチェックしてもらうのが一般的です。

減損テストの結果、回収可能金額のほうが高ければ、のれんの価値はまだ「著しくは低下していない」と判断されるでしょう。しかし、反対に回収可能金額が低くなった場合には、のれんの価値が低下したと見られ、減損処理が発生します。

減損処理については次の項目で解説しますので、このままお読みください。

つまり、IFRSはのれんを償却しないことで利益の減少を防ぐ代わりに、のれんの価値が下がると減損処理する必要がある会計基準だとわかります。

しかし、実のところ、IFRSでものれん代の償却を義務付けるかについての議論が近年進められています。そのため、将来的にはどちらの会計処理でものれん償却が必要となる可能性もあります。

実際に2004年以前は、IFRSでものれん償却がおこなわれていました。償却派、非償却派とどちらの意見にも合理性があるため、いまだに議論が実施されている状態です。
もしIFRSを検討中なら、今後の動向をよく確認しておきましょう。

のれんの減損処理とは?

のれんの減損処理とは?

IFRSの説明にも出てきた「のれんの減損処理」とは何でしょうか。

減損処理は、残念ながらあまりよい言葉ではありません。M&Aをおこなううえでは、できれば避けたい事態ともいえます。

減損は、M&Aで企業を買収したものの思ったよりも費用対効果が見込めず、買収資金を回収できないと判断された場合におこなう手続きです。収益性が減ったことによる損失から「減損」と呼ばれています。

たとえば、のれんの価値が減少する要因としては、以下が挙げられるでしょう。

  • 買収後に社名や組織を変更した結果、大幅に売上が下がった
  • 買収した企業のノウハウを活かし新商品を開発したが、想定以上に売れなかった
  • 買収した企業の統制がうまく取れず、以前よりマネジメント環境が悪化した
  • 買収後に修繕や改善が必要な部分が多く見つかり、これまで以上に費用がかかった
  • 買収成立にだけに着目しており、その後の経営計画をうまく立てられなかった

つまり、想定外の事態により買収後の企業価値が半分以上も下落した場合に、減損は発生します。

そこで、のれんの価値が下がったことを会計にも反映させて、現在の正しい価値に修正するのです。具体的には、「特別損失」として計上します。実際に、多くの企業が特別損失でのれん代の価値を修正しています。

ただし、決算書への影響を不安に感じる場合は「営業外費用」として処理する場合もあるでしょう。

参考として、例をもとに減損処理方法を解説します。もともと100万円だったのれん代が、半分の50万円まで価値が下がった場合を想定して考えてみましょう。

この場合は、「借方」項目の「減損損失」へ「特別損失もしくは営業外費用」として50万円を計上すれば完了です。

そもそものれん代は、数値化するのが難しい無形資産です。明確な価値は買収時にはわかりませんし、何年その効果を保ってくれるかは買収した企業次第なところもあります。

そのため、本来の価値を見誤って高い金額をつぎ込んでしまったり、事業の引き継ぎで失敗したりすると、期待どおりの効果を得られず、大幅な減損を招いてしまうのです。

償却によって一定額を毎年計上するか、もしくは、減損テストによって発生した減損を計上してのれん代を修正していくかは、どの会計基準を採用するかによって変わります。いずれにしても、買収時の判断ミスやその後の事業運営で問題が起こると、損失が増えてしまうことには変わりがありません。

減損とならないよう、のれん代の価値は適正であるかを慎重に検討する必要があるでしょう。

M&A相談ならウィルゲートM&A

M&A相談ならウィルゲートM&A

ウィルゲートM&Aでは、のれん代が発生するM&Aについても熟知しています。

ウィルゲートM&Aはこれまで6,700社以上の企業支援をおこなった実績があります。また、多くの経営者様ともコネクションがあり、数にすると9,100社以上とつながりを持っています。そのため、他社ではなかなか出会えない貴重な情報も共有が可能です。

また、着手金や相談料、仲介手数料もいただいておりません。完全成功報酬制なため、余計な費用をかけずに買収を検討できます。

のれん代が発生するかどうかも、デュー・デリジェンスによりしっかりと調査しますのでご安心ください。デュー・デリジェンスは、買収対象の資産価値やリスクなどをこまかく調査することです。

特にWeb・IT業界に関する支援を得意としており、これらの業界でしたら買収後の経営に関してもお役に立つアドバイスが可能です。

もしM&Aを検討中でしたら、お気軽に無料相談をご利用ください。

のれん償却 まとめ

のれん減損 まとめ

のれん代は、買収企業の無形資産を高く評価したことで発生する差額のことで、のれん代の価値は、純資産が少ないベンチャー企業でも大幅に金額を上げられる可能性があります。

また、のれん償却は20年以内に定額を償却していくことで会計管理を複雑にせず、堅実的な経営を実現できる点が特徴として挙げられます。大規模なM&Aでは、のれん代を費用として計上しないIFRSへ移行する企業が増えていることも紹介しました。

しかし、いずれの会計方法であっても、そもそもの「のれん代」について、慎重に評価しないと後々の経営に大きな影響を与えます。そのため、売り手も買い手も買収時には「何年で償却できるか」「のれん代はどのくらいの価値が保てるか」を慎重に判断する必要があるでしょう。

売り手は、自社を高く評価してもらうアピールが必要ですし、買い手は、本当に将来性が見込めるかをよく考えなくてはなりません。

しかし、M&Aで無形資産を正確に評価するのは困難です。そこでM&A仲介会社にサポートしてもらうのがおすすめです。

ウィルゲートM&Aでは、9,100社を超える経営者ネットワークを活用し、ベストマッチングを提案します。Web・IT領域を中心に、幅広い業種のM&Aに対応しているのがウィルゲートM&Aの強みです。M&A成立までのサポートが手厚く、条件交渉の際にもアドバイスを受けられます。

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