企業がM&Aや増資を行う場合、対象企業の適正な価値・価格を把握する必要があります。
上場企業の場合、日々市場に評価されてその時点での株価が算出されていますが、非上場企業の場合は市場に株式を公開していないためこのような方法をとることができません。
そのため、非上場企業の株価を算定する場合には、都度適正な株式の価値を把握するために、いくつかの手法を用いて株価算定を行う必要があります。
この記事では、株価算定の目的や方法、株価算定にかかる費用などについて徹底解説します。
株価とは「株式の価値」を略した言葉で、株価算定とは非公開企業の株価を様々な手法によって、適正価格を算定することを指します。
上場企業の場合、日々株式市場において売買がなされており、その取引の金額によって株価が決まっています。非上場企業の場合には株式を公開していないため、株式市場において決定される株価は存在しません。
しかし、非上場企業においても、ある特定のタイミングでの適正な株価を把握する必要がある場面が存在し、実務上さまざまなアプローチ手法を用いて株価を算定します。
適正な株価を把握することで、株式の取引を行う場合の判断材料の1つとなります。どのような場面で株価算定が必要となるのかは、後ほど解説します。
株価と似ている概念に「企業価値」というものがあります。企業価値と株価は混同して認識されている場合が多いですが、異なる概念です。
企業価値とは、B/S(貸借対照表)の負債と純資産(株主資本)をベースとして算出される「現在から将来に向かっての収益力」を表す指標です。
計算式としては、
「企業価値 = 株主価値×(株価×発行済株式総数) + 負債価値」
となります。
一方、株価は簡単に表現するとその会社の株式の「買値・売値」を表しています。市場評価や投資家・買い手の心理的状況などの対象企業からみた外部要因でも変化する指標のため、必ずしも対象企業の企業価値と同一ではありません。
理論上の株価は次のような計算式で表現することができます。
「株価(理論値) = (企業価値−負債価値) ÷ 発行済株式総数」
簡易的なイメージとして、B/S(貸借対照表)における負債と資本を合わせた総資産が企業価値、企業価値から負債の部分を除いた資本の部分を株価と表現することができます。論理的に算出できるのが企業価値、最終的に取引される金額が株価といえます。
成熟した業界、成熟した事業モデルでの株価算定の場合には、常に成長過程にいることは考えられず、投資家などからの評価も落ち着いていることが多いことから、成熟した業界、事業をメインにしている企業の株価と企業価値は近しい数字に落ち着くことが多いです。
非上場企業においては、主に以下のような場面で株価算定が必要になります。
これらの場面で株価算定を行う必要がありますが、状況やケースによって株式の算定方法は異なり、方法もさまざまです。
そのため、絶対的に正しい唯一の株価を算定する方法は存在しません。株価算定とは、あくまで相場感を表現したり、できるだけ論理的に株価の基準をシミュレーションして表現したりしたものだと覚えておきましょう。
買い手となる企業の既存事業と、売却の対象となる企業に大きなシナジーが見込める場合には、株価算定結果よりも高値で買収することもあるでしょう。
しかし、ベンチャーキャピタルからの出資や第三者割当増資の際に、実態からかけ離れた価格で取引してしまうと、次のファイナンス施策が受けにくくなることがあったり、不当なほどの安値で株価を決定して株式の売買を行うと、会社法・税法において問題が生じたりするおそれがあります。
このような理由から、特にM&Aや事業承継、資金調達目的の取引の場合、透明性・公平性の観点から、専門家の第三者による株価算定が重要になります。
先述したように、株価算定の目的は「適正な株価の把握」です。
しかし、株価算定が最終的な目的になることは多くありません。株価算定によって適正な株価を把握し、M&Aや資金調達など、本当に行いたい取引の交渉をスムーズに行うことが最終目的になり、最終目的を達成するための資料として株価算定が活用されることがほとんどといえます。
株価算定が必要となるケースの中から、よくある場面での具体的な株価算定の活用目的について解説します。1つずつ詳しく見てみましょう。
M&Aの検討、株式の取引実行の際に、売り手側企業と買い手側企業双方の価格交渉の判断材料の1つとして株価算定が必要になります。
M&Aの場合、売り手側企業は「できるだけ高く」、買い手側企業は「できるだけ安く」という心理が働き、価格の折り合いがつきにくい傾向があります。
価格を合意できなければM&Aは成立しないため、取引に利害関係のない第三者の専門家が算出した、適正な株式の価値・価格を元に、価格交渉を行なっていくことが求められます。
売り手側、買い手側の社員が自社の株価を算定することは、計算方法を知っていれば不可能ではありません。
しかし、特にM&Aの取引を目的とした株価算定の場合には、どれだけ公平に算出していたとしても、買い手側・売り手側双方ともに自社に有利になるように恣意的な計算をしていると疑われやすく、提出された算定結果も公平性に欠けると考えられやすいため、M&A取引の利害関係者ではない第三者の専門家に株価算定を依頼することをおすすめします。
ストックオプションとは、会社が発行する新株に対し、あらかじめ決定していた権利行使金額で株式を購入できる権利のことです。日本語では新株予約権と訳されます。
上場を目標にしている中小企業、すでに上場している企業において、社員のモチベーションを高めたい場合などによく用いられます。
ストックオプションは、権利行使価格(該当する株式を購入できる金額)を低く設定すれば、上場を果たした後に高値で売却することで得られるキャピタルゲインが大きくなる可能性が高く、権利行使者に大きなインセンティブを与えることにつながります。
しかし、さまざまな法律や財務・税金面のルールによって、ストックオプションの権利行使価格の設定には制限が存在しているため、専門家の株価の算定による適正な株価を把握する必要があるのです。
経営者にとって会社の資金繰り改善や資金調達は非常に重要な仕事です。
資金調達には、金融機関などからの借入を行うデッドファイナンスと、投資家やベンチャーキャピタル(VC)から投資を募るエクイティファイナンスがあります。後者にあたる、VCやエンジェル投資家などの第三者から投資を募る際に株価算定の必要があります。
適切な株式数・適切な株式価格で株式を発行して資金調達を行うことができなければ、経営陣の持株比率が著しく低下して経営の意思決定がしにくくなったり、企業の現在価値よりも非常に高い価格での資金調達を行ってしまい、その後の資金調達がしにくくなったりするなど不利益を被ることがあります。
また、VCからの資金調達ラウンドごとにチグハグな出資を受けていると、投資家同士で揉めたり、不公平感のある持分比率になってしまう事態が発生したりするため、株価算定対象企業が本業以外に大きく時間を取られてしまうことにもなりかねません。
当事者となる株価算定対象企業が不利にならないようにするためにも、第三者による適正な株式価値を把握してから出資を募る必要があるのです。
複数の株主が存在することによる意思決定の遅延や株式分散のリスクを解消するために、少数株主から株式を買い取る(スクイーズアウト)場面においても適正な株価を把握するために、株価算定が必要になります。
M&Aの際と同じように、買い手側の株主は「できるだけ安い価格」、売り手側となる少数株主は「できるだけ高い価格」で取引を成立させたいという思惑が働きます。
不当に安い金額で無理やり交渉を進めていくと、少数株主側から異議申立の訴訟を起こされる可能性があり、時間や訴訟費用をロスしてしまう可能性、そもそも取引が成立しない可能性もあります。価格に関する判断材料の1つとして株価算定が必要になるのです。
株価算定には、大きく分けて3つの手法が存在します。これらの中から目的や状況に応じて適切な手法を用いて算定することが重要です。
1.マーケットアプローチ
2.インカムアプローチ
3.コストアプローチ
実務上はどれか1つの手段だけで株価算定を行うのではなく、複数の手法によって算定を行う方が、手法ごとの短所を補うことができるため、より公正かつ透明性の高い客観的な算定結果になりやすいとされています。
さらに、上記3つのアプローチ手法は、さらに細かく分けることが可能であり、株価算定の方法は非常に多くのパターンが存在します。ここからは各株価算定手法の特徴やメリット・デメリットを解説します。
マーケットアプローチとは、マーケット(株式市場)における、類似企業・類似取引での株価を元に算定する手法です。
算定対象と類似事業を展開する上場企業の業績に対して、どの程度の株価がついているのかを把握し、算定対象の事業との比較によって株価を算定するため、ここでご紹介する株価算定の手法の中で最も客観性の高い株価算定方法とされています。この手法は、基準となる上場企業などが存在するため、算定対象の企業に利益が出ていないような場合でも算出することができます。
しかし、上場している株式の価格は短期間で大きく変動することもあり、事業の状態だけではなく国際情勢などにも影響を及ぼされやすいものです。株式市場の短期的な影響を受けやすい算出方法であるという部分がデメリットといえます。
マーケットアプローチにはさらに細かく4つの手法があります。1つずつ解説していきます。
市場株価法とは、過去数カ月分の平均株価を算出し、それを基準として株価算定を行う手法です。多くの場合、過去1〜3カ月の株価を使用します。
市場の株価は投資家のさまざまな思惑を反映しており、短期的に変動しやすいものです。しかし、市場株価法は数カ月分の平均値を用いることによって、短期的な変動の影響を受けにくいところがメリットといえます。また、過去の市場価格の平均値を用いるため、恣意的な数字操作ができず、計算方法による結果の違いもほとんどないことから、客観性が高いのが特徴です。
ただし、市場株価法は株式の市場価格が存在する上場企業にしか適応できず、日本の9割以上を占める非上場企業には適用できない点がデメリットだといえます。
類似会社比準法は、株価算定対象会社と類似する上場企業を基にした株価算定方法です。実務上マルチプル法とも呼ばれる方法です。
類似会社比準法では、基準とする類似企業のPERとEBITDAを指標として用いることが多く、M&Aの実務では実際の本業の収益を表すとされるEBITDAが好んで用いられる傾向があります。
PERとは、株価が1株当たりの当期純利益の何倍になっているかを表す指標で、利益から見たときの株価の割安性を表す指標です。一方でEBITDAとは、金利の支払い前、税金の支払い前、有形固定資産の減価償却費用と無形固定資産の償却費用控除前の利益を表す指標です。PERを用いる場合も、EBITDAを用いる場合も株価が利益の何倍になっているのかが重要となる算出方法です。上場企業の数値を用いた算出方法であるため、わかりやすく客観性が高いことがメリットといえます。
しかし、上場企業を比較対象にするため、類似する上場企業が存在しない場合には類似会社比準法は利用できないところがデメリットです。
類似取引比準法とは、株価算定の対象会社が予定している取引に類似する過去の取引や事例をもとに株価を算定する手法です。過去に用いられた類似事例を基準にするため、こちらも比較的客観性の高い株価算定手法といえます。
しかし、M&Aなどの取引については公開されていないものも多く、会社の規模や業種、取引時点での事業の状態など、類似事例を見つけることが困難なことが多いです。そのため、この手法を用いること自体が難しいという結論に至ることが多く、実務上では、先述した類似会社比準法(マルチプル法)が多く用いられています。
類似業種比準法とは、株価算定対象会社と同じ業種に属する上場企業を参考にして計算をする株価算定手法です。類似会社比準法に近い考え方ですが、類似業種比準法はM&Aではなく、ほとんどが相続の場面での株価算定で用いられる手法です。
類似業種として用いる上場企業の株価や配当、利益、純資産を基準として対象会社の株価を算定していきますが、相続税の計算に主に使用されるため、国税庁が発表する「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」に記載されているデータとの整合性も必要になってきます。
類似業種比準法は、ほとんどが非上場企業の株式の相続の際にしか用いられないため、そこまで認知度が高くない評価手法です。
非上場企業株式の相続が株価算定の目的に該当する際には、不当な金額で相続をしてしまうと思わぬ税金が発生する可能性があり、後々追加徴税を課される可能性もあります。相続税に精通した税理士に相談することをおすすめします。
インカムアプローチとは、株価算定対象企業の将来性を基準とした株価算定の手法です。株価算定対象企業が将来期待されるキャッシュフローや利益等をベースに、将来的に発生すると考えられるリスクを考慮して算定される割引率で割ることで、算定時点での株価を算定します。
先述したマーケットアプローチと後述するコストアプローチは「現在」と「過去」に着目する手法ですが、インカムアプローチは「将来」に着目した株価算定手法です。将来的な成長性を株価(企業価値)に加味できるため、成長中の企業のM&Aなどにも広く用いられています。
将来性を加味できるメリットがある一方、将来性という不確定要素を多く含むため、算出根拠や用いるデータによっては、客観性・正確性を欠いた、現実とはかけ離れた算定結果となる恐れがあるのがデメリットです。そのためインカムアプローチを用いた株価算定の場合には、客観性・正確性を担保するため、利害関係のない第三者の専門家に依頼することをおすすめします。
インカムアプローチはさらに細かく3つの手法に分けることができます。1つずつ解説します。
DCFとは、「ディスカウントキャッシュフロー」の頭文字をとったもので、株価算定の対象企業が将来生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)を基準にする株価算定の手法です。株価算定対象企業が将来生み出すと予測されるFCFを、WACC(加重平均資本コスト)の算出によって導き出される割引率によって割引、株価の価値を算定していきます。
ちなみに、フリーキャッシュフローとは対象企業が自由に使える資金のことを指しており、さまざまな算出方法がありますが、一般的には次の計算式で求められます。
FCF = 営業CF(営業活動で獲得したCF) – 投資CF(事業維持のために必要なCF)
DCF法は、株価算定対象企業の将来の成長性や対象企業特有の状況を反映できるため、最も理論的で合理的な株価算定方法だといわれており、M&Aの実務面でも広く用いられています。しかし、算出に用いる根拠データなどによって算出金額が大きく異なる可能性があること、CFの予測や事業に対するリスク予測には非常に高度な知見が必要になることから、専門家に株価算定を依頼しなければ算出自体が難しい算出方法といえます。
収益還元法とは、株価算定対象企業の予想利益額を用いて株価を算出する手法です。具体的には、将来獲得すると予想される1年分の利益を「資本還元率」という指標で還元し、株価の算出に使用します。この際の利益には、1株当たりに予想される税引後純利益を用います。
収益還元法は、毎年売上・利益が同じように推移していくことを前提に計算していくため、毎年の売上・利益や事業のリスクを細かく検討するDCF法の簡易版とされており、DCF法で算出する株価よりも精度が落ちるとされています。また、過去の実績ではなく、将来に目を向けているためDCF法と同様に不確実性への懸念点は払拭できません。
しかし、複雑な計算と高度な専門性が必要とされるDCF法よりも収益還元法のほうが簡易に算出できる点はメリットといえるでしょう。
配当還元法とは、将来的に株主が得ることのできる配当金をベースに算出する株価算定の手法です。配当金は、経営陣の戦略・運営によって大きく左右されるため、将来の成長性を反映しているとはいえない部分があり、M&Aの実務ではなく、一般的には非上場企業の相続の場面で用いられています。
インカムアプローチの中ではDCF法より配当還元法の方が比較的簡単に算出できるところがメリットですが、経営陣の運営方法によって算出根拠が変わってしまうという不確実性の高さがデメリットだといえます。
コストアプローチとは、株価算定対象企業の純資産額を用いて算出する手法です。ネットアセット・アプローチとも呼ばれます。
貸借対照表上の純資産額をそのまま算出根拠に用いることもあるため、専門知識もそれほど必要がなく、非上場企業でも非常に株価算定がしやすい点が大きな特徴です。
また、貸借対照表に記載されている数値を用いるため客観性の面でも非常に優れている手法といえます。しかし、コストアプローチでは過去〜現在までの収益性のみを基準にしているため、株価算定対象企業の将来性に対して全く考慮していないという側面があります。
そのため、将来性を見込んだ当該株式の価値を検討するM&Aとはあまり相性が良くない株価算定手法であり、M&Aの実務でも利用される場面は多くありません。
ただし、赤字の非上場企業では、将来性や利益を基準に株価を算出することが困難な場合があり、そういった場合にはコストアプローチで株価を算出する場合もあります。コストアプローチは細かく4つの手法に分けられています。1つずつ解説します。
簿価純資産価額法とは、その名の通り決算書に記載された純資産額(簿価)を用いて株価を算出する手法です。つまり、貸借対照表(B/S)に記載された純資産をそのまま株主価値としてみなす株価算出方法です。貸借対照表に記載された純資産額を発行済株式総数で割ることで1株あたりの株価が算出できるため、株価算定の中でも非常に簡便な算出手法といえます。非上場の赤字企業や清算予定の企業の場合、簿価純資産価額法が用いられることがあります。
しかし、純資産に含み益や含み損が多く出ている場合には、簿価純資産では正確に評価できないため、後述する時価純資産価額法で評価する方が株価算定の正確性は高いといえます。
時価純資産価額法とは、簿価純資産価額法で決算書上の数字をそのまま用いた、純資産の数値を時価で算出し直して株価を算出する方法です。
法人で所有している土地や建物などの不動産や株式は計算するタイミングによって価値が変動するため、貸借対照表上の価値よりも大きく変動している場合があり、株価算定を行う時点での適切な価値を算出するためには、簿価純資産価額法ではなく、時価純資産価額法の方がより正確といえます。
再調達原価法とは、現在株価算定対象企業が保有している資産や負債を、再取得するのに必要な費用をベースに株価を算出する方法です。株価算定の対象企業と全く同じ状態の会社をゼロから作るのに総額いくらかかるのか?とイメージするとわかりやすいでしょう。
非常に理解しやすく、算定しやすい手法のため、簡易なM&Aの実行可否の判断に用いられることが多いですが、正確な株価を算出する手法としては多くは用いられないことに注意が必要です。
清算価値法とは、会社を清算する場面に特化した方法です。正味売却価額をベースとして株価を算出する手法になります。
正味売却価額とは、対象企業が保有している資産全てを売却した際に得られる金額から、返済する必要のある負債額を引いた金額のことを指しています。つまり、正味売却価額とは会社を全て清算した際に残る価値のことを表しています。
会社を清算することに特化した株価算定方法であるため、事業の将来性も事業上のリスクも考慮せず、過去の業績推移も関係なく算出できることから、今現在の資産と負債のみで行える簡易な株価算出方法といえます。
株価算定は、算定対象企業の担当社員が計算することも不可能ではありません。しかし、株価算定手法の選択や実際の計算の手間や専門性、客観性・透明性に疑問を持たれる可能性が高いこともあるため、簡易的に把握する目的以外には、一般的に公認会計士や税理士、M&A仲介会社などの専門家に依頼することが多いです。専門家に株価算定を依頼する場合、50〜200万円ほどが相場となります。
しかし、算定対象となる企業の事業モデルや財務諸表の複雑度合い、依頼する専門家の得意分野、後ほど解説する株価算定資料の細かさによっても価格が変動するため、上記の金額以上の費用を請求されることもあります。
また、M&A仲介会社などではM&Aの成立による完全成功報酬でサービスを展開しており、株価の算定はM&A案件の一環として捉え、無料で受けつけている場合もあります。株価算定の依頼前には、必ず専門家に費用を確認することをおすすめします。
株価算定方法の理解だけでは、株価算定を正しく行えない可能性もあります。株価算定を円滑かつ正確に実行するためにも、株価算定の流れを把握しておくとよいでしょう。
ここからご紹介するプロセスは、あくまでも一般的な株価算定の流れです。対象事業や業種、株価算定の目的によっては下記にはないプロセスを加えたり、順番が前後したりします。一般的な株価算定の流れを1つのプロセスごとに細かく見ていきます。
まず初めに行うことは株価算定の目的の確認です。
ここまで見てきたように、株価算定にはさまざまな手法があり、目的ごとに使うべき最適な手法が分かれています。株価を算定する目的は、M&A・VCやエンジェル投資家からの資金調達・企業の清算など、対象企業によってバラバラでしょう。株価算定の目的を明確にすることで、収集するべき情報、書類の種類や取るべき算出方法が変わってきます。まずは算定目的を明確にしてから、実際の株価算定に必要な情報を集めていくプロセスに入っていきます。
最初のプロセスで確認した株価算定目的に対して、適切と思われる株価算定手法を選択します。先述したように、複数の株価算定方法から計算を行うことも可能ですので、1つの手法にこだわる必要はありません。むしろ複数の手法を用いて株価を算定したほうが精度が高くなる可能性が高いといえます。
ただし、複数の算定方法で計算すれば時間がかかり、算出のために必要となる資料や情報の量も多くなります。複数の手法で専門家に株価算出を依頼すると、請求される株価算定費用が高くなる可能性もあります。複数の手法によって対象企業の株価算定を行うとしても、株価算定の目的に合わない手法での計算はしないようにすることが大切です。そのため、専門家に丸投げをするのではなく、株価算定手法を専門家とともに検討できるレベルの知識は持っておくほうが良いでしょう。
次に、実際の株価算定の計算で用いるための資料や情報を収集します。具体的に必要な書類は後ほどご紹介しますが、決算書に加え、有価証券時価明細、株主名簿など、普段の業務ではあまり触れることのない資料もあります。手に入れるまでに数カ月かかるような資料もありますので、できるだけ早めに資料や情報の収集を始めることが重要です。また、決算書など毎年作成されるような資料は、複数年分の提出を請求されることも多く、毎年の決算書作成を依頼している税理士や会計事務所との連携も重要になります。
株価算定に必要な資料・情報が集まったら、いよいよ実際に株価の算定計算に入っていきます。計算ミスなどの可能性を排除するため、Excelなどを用いて計算プロセスを明確にしておくことと、複数回同じ株価算定方法で計算することをおすすめします。また、精度の高い株価算定の結果を求める場合には、複数の算定手法での計算を行うことが必要になります。
DCF法など、専門的な知識が必要な計算手法や株価算定にかかる手間を考えた場合、株価算定は専門家に依頼する方が無難といえます。専門家に依頼した場合には、株価算定の計算式だけではなく株価算定結果資料として綺麗に整理された資料の提出もしてくれますので、対外的に信頼性の高いデータとして出せるものになるでしょう。
非上場企業の株式を売買するM&Aや事業承継は年々増加傾向にあります。そのため、株価算定のニーズも日を追うごとに高まっています。それに加え、会社の引き継ぎや買収が増えるに伴い、不正会計や合併後の訴訟など、取引された株価に対するトラブル・係争も増えています。
上場していない企業の株価は、上場企業の株式のように明確な金額の根拠があるわけでもないため、取引の透明性・公平性を担保する必要があります。そのため、当事者が提出した情報ではなく、取引の利害関係にない第三者の専門機関による評価が重要性を増しており、取引の意思決定にも専門家が提出した株価算定資料が使用される場面も少なくありません。
株価算定方法は、ここまで見てきたように、非常に多くの種類があり、計算方法が複雑なものも少なくありません。どの算定手法が最も効果的か、最も適切な手法はどれかなど、考慮すべき点は専門的かつ複数あります。対象企業の担当者では知識、スキル面、作業量において限界があり、算定目的となる取引における客観性や信頼性も高くはなりにくいです。
とはいっても、税理士や公認会計士、M&A支援会社であればどんな専門家でも良いわけではありません。業界や業種、株価算定の実務の経験など、株価算定の目的に合わせたスキルや経験を持つ専門家に依頼することで、より信頼性と納得度の高い株価算定が実行できるでしょう。
株価算定に必要な書類には、以下のようなものが挙げられます。
用意するべき書類は株価算定に用いる算定手法や目的、対象会社の事業モデルや業界によっても変化します。IT分野の事業であれば、ユーザー数やアクセス数が分かる資料が必要になることもありますし、医療系の事業であれば、レセプトのデータが必要になることもあります。上記以外にも書類が必要な場合もありますし、資料の種類によっては準備に時間がかかるものもありますので、余裕を持って資料を準備することをおすすめします。
ちなみに、専門家に依頼して株価算定を依頼する場合には、より算定結果の精度を高めるため、損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書などの決算書類や、事業計画書などは3期分(3年分)ほど求められる場合もあります。できるだけ前もって相談・準備をしておくとスムーズです。
株価算定書は、株式を上場していない企業の株取引の意思決定の根拠とするため、算定対象企業の価値や評価を計算して一株あたりの評価額を報告する資料です。株式算定報告書、株式価値算定報告書などとも呼ばれますが、中身が大幅に違うということはなく、株価をどう計算してどういう結論に至ったのかが記載されています。M&A、IPO、資金調達など、上場していない企業における株取引の場面では必ず必要になる資料であり、ここまで見てきた株価算定のプロセスが完了次第、株価算定書の作成が必要になります。
株式の取引を行うごとに会社の価値は変動していき、決算書の数値も株価算定を行うタイミングごとに変化していきます。そのため、ほぼ同一の取引内容であると考えていたとしても、株価算定目的の取引が発生するごとに、株価算定を行い、株価算定書を作成する必要があります。
株価算定書に主に記載される内容は以下のとおりです。
もちろん、上記以外の項目が必要な場合は必要な項目を挿入して、株価算定書を作成していきます。1つずつ詳細を見ていきます。
株価算定書を作成した企業や専門家の名前を記載します。
株価算定書は株価の透明性・妥当性が必要となる資料となるため、取引の当事者ではなく、第三者の専門家が作成したことが重要になる場面があります。後ほど解説しますが、取引の当事者同士で裁判になった場合には、株価算定書が証拠として扱われる場面も出てきますので、できるだけ目的の取引に利害関係のない専門家に株価算定を依頼して、算定書を作成してもらうほうが、証拠としての妥当性も高くなっていきます。
株価算定書を作成した(株価算定を行った)目的について記載します。
先述したように、M&Aを実行するための算定なのか、会社を清算するための算定なのか、会社を相続するための算定なのかなど、株価算定を行う目的によって、用いるべき計算式や情報は変わってきます。また、依頼した株価算定の目的によっては、作成者が該当する取引の利害関係者となっている場合もあり、算定結果の透明性や公平性、妥当性に欠けるという判断が下される場合もあります。株価算定を行う目的と、この後に記載される算定方法の整合性や妥当性が担保されている必要があります。
株価算定書に記載される項目の中でも、非常に重要なのが評価基準日です。
株価や企業価値は、運営する事業の状態や保有する資産の状態に大きく左右されます。また、マーケットアプローチを採用して株価を算定した場合、いつの類似企業の株価を使うかによっても、算定結果が大きく変わる場合があります。係争に発展した際のリスクヘッジにもなりますので、必ず評価基準日が記載されていることを確認することをおすすめします。できるだけ公正かつ外部要因の影響が少ない状態での算定結果であると示すことができると、株価算定書を使用する当事者も納得しやすいでしょう。
株価算定に使用した計算手法の名前や、なぜその算定手法を用いたのかを説明するフェーズです。株価算定資料作成の目的と使用した算定方法の特徴などを踏まえ、その算定方法が妥当である理由を掲載します。複数の算定方法を用いている場合には、それぞれの計算についての説明を加える必要があり、なぜ複数の算定方法を用いているのかの説明も加えると算定資料を使用する人に親切な内容となります。
株価算定をした結果、実際にいくらになったのかの結論を記載した後、株価算定結果の算出に至った算定方法の説明を詳細に記載していきます。具体的に使用した数値やベースとした類似企業の株価、補足資料上の情報などを、1つの資料にまとめて掲載し、どのような計算をした結果なのかをできるだけ論理的に細かく掲載します。
対象企業や株価算定の目的によっては、複数の算定方法を用いており、複数の算定結果の平均値を株価算定の結果とする場合もあるため、資料を初めて閲覧した人にも論理的かつ詳細に分かりやすい形で伝える必要があります。
株価算定資料は非常に機密性・専門性の高い資料であるため、取り扱いも非常に慎重になる必要があります。そのため株価算定資料にも、機密性が高いため取り扱いには十分に注意してほしい旨の記載がなされることがほとんどです。
また、この記事でも解説したように株価算定には唯一絶対の正しい算定方法というものはなく、最終的な株価は取引当事者同士の合意によって決定される場合も多いため、株価算定結果は絶対の数字ではないといった旨の記載も添えられる場合があります。株価算定の結果には直接影響を及ぼさないが、株価算定資料を読むにあたって重要といえることが、補足説明として記載されます。
株価算定書は、MBOやTOBなどの広く妥当性を説明する必要がある場合や、係争が発生した際の裁判の証拠として開示される場合、第三者割当増資の際には監査役、第三者委員会などに開示される場合があるなど、第三者、外部機関への説明資料、証拠資料として用いられることがあります。
取引を実行する当事者や利害関係者が作成した資料の場合、恣意的に金額を動かしていると疑念を持たれたり、確認する相手に不満を持たれたりすることもありますので、やはり株価算定書の作成は利害関係のない専門的な第三者に依頼することをおすすめします。外部公表資料として株価算定書を用いる場合には、当事者から公開の許可を得られているのか、公開する妥当性があるのかなど、情報の取り扱いに十分注意する必要があります。
株価算定書は、M&Aや事業承継などの取引の判断材料の1つにする目的で作成されることが多い資料です。しかし、株価算定書はあくまでも取引に対する判断材料の1つであり、算定書の中に記載されている評価額をどう解釈し、取引を実行するのかは当事者同士に一定程度の自由があり、取引実行の責任は実際に取引を実行する当事者にあります。
実際のM&A市場では、株価算定書に記載されている金額よりも高い金額や安い金額でM&Aが実行されることも少なくありません。そのため、取引実行の担当者は自身の行動に責任があることを自覚することに加え、株価算定資料の内容をしっかりと把握することが重要です。担当者として株価算定書の作成を行う必要がある場合、専門家に作成を依頼するか、自身で作成するとしても第三者の専門家からの意見を取り入れられるように、専門家を確保すると良いでしょう。
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この記事では、株価算定の目的や種類、株価算定の使われ方などをご紹介しました。
株価算定は、M&Aや相続など会社の株式の移動を伴う取引の場面で欠かさず実施されます。日本では経営者の平均年齢が年々上がり続けているため、M&Aや事業承継のニーズは拡大し続けるでしょう。そのため今すぐM&Aを検討していなくとも、事業に携わるのであれば株価算定方法は覚えおいて損はありません。
この記事で解説したように、株価算定方法はさまざまな手法があります。担当者が算定しても専門家が算定しても、差が出ないような株価算定方法もあります。しかし、実務で使えるような株価算定では、算定の目的や会社の状況に応じて適切な手法を選択し、複雑な計算をする必要性が生じます。特にDCF法や時価純資産価額法等は、専門家以外では正確な株価を算定できない可能性が高いです。公正な取引を実現する上で恣意的な操作や主観が入っていると指摘されるリスクもありますので、株価算定の知識をった上で、実際の算定は専門家に依頼をすることをおすすめします。
ウィルゲートM&Aは、M&Aが成立するまで一切仲介手数料をいただいておりません。今回解説した株価算定もM&A成立までの1つのプロセスとして対応させていただきます。会社をM&Aするまで無料で伴走させていただきますので、まずはお気軽に無料相談をご検討ください。
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