ソフトウェア業界といってもその内情はなかなか見えにくいものです。ソフトウェアの価値が増す中で、業界ではM&Aが多数行われ再編が進んでいます。その動向をおさえておくことで有利なM&Aが実施できます。この記事では、ソフトウェア業界のM&Aの動向や事例・売却相場について解説します。
データの集計や企業の実務処理を目的として、システムの企画や設計、それに関わる開発を行い、またシステム運用に際して実務や保守を(その一部を担う場合も含めて)請け負う事業を行っているのがソフトウェア業界です。企画から運用や保守まで一貫して行う場合、特にシステムインテグレーター(SIer)と呼ぶこともあります。
ソフトウェア企業は、経産省の調査で5つに分類されています。依頼を受けて独自のソフトウェアを開発し、その運用保守までを行う受託開発ソフトウェア業(いわゆるSIer)、家電や通信機器などの特定の機能に資するソフトウェアを開発する組み込みソフトウェア業があります。またPC用のマニュアルセットで販売されるプログラムやプリインストールのプログラムを開発するパッケージソフトウェア業、そのうち特にゲーム機などのゲームソフトを開発するゲームソフトウェア業もあります。5つ目はホームページ作成やSEO(検索エンジン最適化)にあたる受託ホームページ・SEO業です。自社で開発したソフトをクラウド上で提供している、いわゆるSaaSにあたる企業はソフトウェア業ではなく、計算サービスや調査サービスなどを行う情報処理・提供サービス業に分類されています。
ソフトウェア市場の規模は、2009年に15兆636億円に達しました。しかしリーマンショックによる世界的な不況の影響で、翌2010年には2兆円近く縮小してしまいます。その後の金融緩和などの対策によりソフトウェア投資も徐々に回復し、2013年以降13~14兆円の堅調な市場規模を保っています。(経産省「特定サービス産業実態統計調査」から)
昨今の動向としては、受託開発システムを導入するケースよりもクラウドサービス導入の比重が大きくなってきたことや、AIやIoTの浸透に合わせパッケージソフトウェア業や組み込みソフトウェア業の活況が予想されていることが見受けられます。ソフトウェア業の比重が上がるに連れ、人材不足は慢性的になってきています。自社のITスキルを向上させるための内製化も手伝って、ソフトウェア業、ユーザー企業の双方で人材の不足が懸念されています。
またクラウドでの業務の拡大に合わせて、必ずしもソフトウェア企業がユーザー企業と近くにある必要はなくなり、地方発の事業の可能性が広がってきています。顧客としてのユーザー企業の要求は多岐にわたっており、そのビジネスの拡大と相まってソフトウェア企業とのグループ化によるシナジー効果を期待する傾向も強まっています。
典型的なビジネスモデルは、ユーザー企業(顧客)の発注を元請けとなるSIerが受けて進める形です。顧客の要望を受けながらシステム開発について企画し、要件を確認しながら個々の業務内容に振り分けます。システムの基本設計を定め、部分設計や個々のプログラム開発については、下請けの協力会社に指示して開発を進めます。最終的には元請けのSIerが統括してプログラム間の連携や全体の稼働をテストし納品、その後保守、運用にあたります。
SIerは、大きく3つの系統に分かれます。1つ目はPCなどのハードウェアを生産するメーカー系の企業です。日立製作所(経常利益約5,190億円)富士通(同約1,990億円)NEC(同約1,120億円)などのトップ企業が並びます。2つ目は顧客企業の情報システム部門の子会社企業です。野村総合研究所(同約530億円)伊藤忠テクノソリューションズ(同約290億円)などが挙げられます。第3に独自の資本系統による独立系の企業です。大塚商会(同約380億円)ITホールディングス(同約210億円)などがその例です。(数値は2014年から2015年の経産省の資料から)
ソフトウェア業界は技術開発が日進月歩で進められ、市場規模も拡大方向となっています。そしてM&Aによる業界再編が進んでいます。
M&Aの増加傾向の要因の一つは、投資分野としての可能性の高まりです。金融緩和により投資市場が活況を呈している中で、クラウドの活用、ビッグデータの可能性、IoTの普及などの成長要素の多いソフトウェア業界はよい投資対象です。実際リーマンショックで前年比10%近い落ち込みを見せた大企業のソフトウェア投資額は、2010年以降は毎年前年比プラスを続けています。これにつれてソフトウェア業界のM&Aは増加傾向にあり、2009年に223件だったM&A件数は2013年頃から増え続け、2018年には1,070件に達しています。
次に高度な技術への対応が求められていることが挙げられます。IT化が進むことで、サイバーセキュリティの強化など、技術的な課題は増えるばかりです。ところがこれに対応する技術者は慢性的に不足しているといわれています。専門的、先進的なノウハウや技術を持った人材を確保し、企業としてのソフトウェア開発能力の向上を図るために、M&Aによる企業買収が進んでいくと考えられます。
参入障壁が低く比較的小規模でも起業できるソフトウェア業界の傾向として、中小企業が多く、下請け、孫請けによる多重下請け構造があります。この最下層の企業は利益率が上がらず、なかなか事業拡大ができません。守秘義務が厳しい業界でもあり、新規受注を声高に宣伝しにくく、信用の拡大が困難という事情もあります。こうした企業が同業種と資本や業務での連携を図ったり、大手企業の傘下に入ることで安定性を求めたりするM&Aも増えているのです。
ソフトウェア企業をM&Aするメリットはどんなことが考えられるでしょうか。売り手としては、まず大手の傘下に入ることで、安定してより大規模の事業にあたれることでしょう。下層の下請けに甘んじることなく利益率の向上も望めます。また、売却や譲渡に伴う利益を得られることも魅力です。中小企業では経営者が個人的に負債を抱え込んでいる例も見受けられ、こうした負担の解消にも繋がります。さらに会社清算を考える場合、事業そのものはきちんと承継できるとともに、従業員の雇用も安定させられます。
買い手としては自社に不足している技術などを、それを扱う人材とまとめて手に入れるチャンスになります。今までアウトソーシングせざるを得なかった業務の内製化や、業務範囲や販路の拡大も期待できます。
企業のM&Aにおいて買収価額を算定するとき、企業価値をどのように算定化するかが重要になります。企業の価値はその資産などだけから測ることはできず、その企業の持つブランドやノウハウなどもポイントになります。
一般にこの企業価値を測る方法としてDCF法が用いられます。しかしソフトウェア企業のM&Aにおいては、類似企業比較方式が多く採用されます。これはM&Aの対象となっている企業と同種で、上場されている企業の価格を基準として算定するものです。ソフトウェア企業では、ユーザー数などを基準に企業価値が算定され、広く普及しているソフトウェアを開発していれば企業価値は高めに算定されることになります。またそのようなソフトウェアの開発に携わった技術者の存在や、製品のプロデューサーが合わせて獲得される場合など、M&Aの相場価格が高くなることもあります。
市場の拡大が見込まれているソフトウェア業界におけるM&Aの場合、他業界よりも高めの相場が設定されるケースが見受けられます。
ソフトウェア企業を買収するのは、多くは対象企業の持つ技術力を手に入れることでしょう。事業譲渡の形でM&Aを行う場合、特許権の移転を確実に進めることが重要です。この点を見誤ると、最悪その特許を用いた事業が行えなくなってしまいます。こうした点で、M&Aのノウハウを多く蓄積しているM&A仲介会社を利用することも、リスク回避の良い手段といえます。
ソフトウェア企業を売却する場合、最も重要なのは企業価値を高める技術力の移転がスムーズに行えるよう図ることです。具体的には、プログラム開発者など重要な人的リソースが仕事を続ける意志があるか確認することや従業員の能力を証明するスキルシートの準備などが必要です。
次に徹底することは労務管理です。社会保険の未加入や給与の未払いなどがあれば売却は困難です。そして、これらの情報が円滑にやり取りできるような買い手企業とのコミュニケーションの確保も大切です。必要に応じて実績豊富なM&A仲介会社などに依頼することも有効です。
ソフトウェア企業のM&Aならではの注意点として、最も大きいのは求める技術やノウハウを手に入れられるかどうかです。そのためには売り手企業のエンジニアの力量を確実に把握しておく必要があります。また、そのエンジニアたちを確実に獲得するためにモチベーションの低下を避けなければなりませんし、M&Aの情報告知のタイミングを誤るとM&Aそのものの妨害に及ぶ可能性もあります。また早期に現金化を求めることが多いこの業界のM&Aでは事業売却が一般的であり、そうなると他社に出し抜かれる危険から、クロージングまでのスピードも大きなポイントになります。
ソフトウェア業界のM&Aは、同種企業や関連企業と業務強化の目的で進められるものや、異業種間でシナジー効果を期待して進められるものなど、多様な形があります。ここでは5つの事例を、そのスキームや目的などを含めて紹介します。
2020年12月、ソフテックの全株式を取得したサイバーセキュリティクラウドが同社を子会社化しました。このM&Aにより、クラウド型のWebセキュリティサービスを行うサイバーセキュリティクラウド社は、ソフテックの脆弱性管理ソフトウェアやセキュリティ診断サービスのノウハウを共有し、ビッグデータ活用や販売チャンネルの拡大などをねらいました。同種企業のM&Aによる企業力の強化を図った例です。
参考:株式会社ソフテックの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ
2021年7月、すでにBlue Yonderの株式の20%を持っていたパナソニックが、残る80%の譲渡を受け、同社を完全子会社化しました。パナソニックはDXによる現場プロセスのイノベーション事業を行っていましたが、ソフトウェア事業を強固なものとするためその専門企業であるBlue Yonderの買収を図ったものです。大手のSIerが、事業の強化、拡大を図る目的で行われたM&Aの事例です。
参考:パナソニック、米AIサプライチェーンソフト大手のBlue Yonderを71億ドルで買収
2020年12月、マクアケがジシバリの全株式を取得して、子会社化を経て吸収合併しました。マクアケは、クラウドファンディングを運営する企業で、Webサービスを行っています。このWebサービスにおけるシステム開発力の向上、管理コスト削減に関係する業務の効率化を図る目的で、Web上でのサービスやアプリ開発で実績のあるジシバリを自社のものとすることにしたわけです。自社のソフトウェア部門の内製化、効率化を図る目的で行われたM&Aです。
参考:マクアケ[4479]:株式会社ジシバリの株式の取得(子会社化)及び吸収合併(簡易合併・略式合併)について:日本経済新聞
2020年12月、トヨタ自動車からの出資をミックウェアが受ける資本提携が決定されました。ミックウェアはカーナビシステムや自動運転の支援プログラムなどを開発している企業です。トヨタ自動車は、未来のモビリティ社会の実現に向け、自社製品に実装するソフトウェアや新規の技術開発を発展させることをねらっています。大手企業がソフトウェア企業の持つポテンシャルを獲得しようとしたM&Aの事例です。
2022年2月、出光興産はスマートスキャンとの資本業務提携に合意しました。出光興産は石油関連事業を展開するエネルギー企業ですが、同社のサービスステーションを利用した予防医療サービスの展開を目論み、すでにスマートスキャンと共同で脳ドックサービスを提供する車両の実証に取り組んでいました。スマートスキャンは健康に関するデータプラットフォーム開発など医療系のソフトウェア企業です。出光興産がデジタルエコシステムを開発し、自社のサービスステーションに新たな価値創出を目指すためのM&Aとなります。
ソフトウェア企業のM&Aはおおむね次のように進みます。
まず戦略の立案です。必要に応じM&A仲介会社に依頼し、目的やスケジュールを明らかにします。
次にソフトウェア企業としての強みなどを分析して企業価値をとらえ、それに基づいてM&Aの相手を選定します。
先方の意向が確認できればトップ会談などをセッティングし、条件交渉などを進めて基本合意書の作成に進みます。ここでM&Aのスキームや譲渡予定価額、スケジュールなどが詰められます。
続いてデューデリジェンスが行われます。ソフトウェア企業の買収にあたっては、特にその技術力などの企業価値の評価が重視されますが、売り手側に法務や税務上のリスクがないかも慎重に調査されます。
問題がなければ最終契約書の締結となります。この契約の内容に従って実際の引き渡しや代表者変更などのクロージングを行い、M&Aが完了します。
M&Aを進めるにあたっては、会社運営などに関する専門的な知識も必要ですが、相手先企業などを広く求めてより有利な取引相手を見つけ出すことが重要になります。
そうした点でおすすめできるのがウィルゲートM&Aです。Web運営などIT分野での長い事業実績を基盤として経験豊富な上、9,100社以上の経営者ネットワークを活かしてベストマッチな取引相手を見つけ出せます。
ソフトウェア企業のM&Aは帳簿上などには現れにくい、技術力やノウハウ、人材リソースなどの企業価値を見定めることが重要になります。
また、実際にM&Aを進めることでどのようなメリットがあるかもしっかり見通さなければなりません。自社の企業価値をどう測ればいいか、事業拡大にあたってどんなM&Aが有効か、まず専門家に相談してみたいという方は、ウィルゲートM&Aの無料相談の利用をご検討ください。
ウィルゲートM&Aでは、9,100社を超える経営者ネットワークを活用し、ベストマッチングを提案します。Web・IT領域を中心に、幅広い業種のM&Aに対応しているのがウィルゲートM&Aの強みです。M&A成立までのサポートが手厚く、条件交渉の際にもアドバイスを受けられます。
完全成功報酬型で着手金無料なので、お気軽にご相談ください。
無料相談・お問い合わせはこちらから ※ご相談・着手金無料
ご相談・着手金は無料です。
売却(譲渡)をお考えの際はお気軽にご相談ください