近年、金融業界ではIT技術の獲得や事業拡大のためにM&Aが活発におこなわれています。
この記事では、金融業界とそのビジネスモデル、金融業におけるM&A売買のポイントを解説します。
金融業界M&Aの最新動向と、実際にあった事例とともにチェックしましょう。
「金融」とはお金の融通をさす言葉です。金融という言葉のもつ意味は、資金を融通し合う現象や経済における貨幣的な側面を表しています。金融業は、金銭の借り手と貸し手のあいだを取り持ち、融通や仲介などをおこなう事業です。
金融業には、コンサルタントや投資・資産運用などのアドバイザー、証券取引所、信用保証機関など直接金銭のやりとりはしないが、金融システムをサポートする事業なども含まれます。これらお金に関わる業種全体をもって金融業界が構成されています。
「金融企業」とは銀行や証券会社、保険会社など金融商品を取り扱っている企業をさします。金融企業の業務内容は、金融各社によって提供するサービスや扱う商品が変わってきます。
金融企業の職種としては、ファイナンシャルプランナーやアドバイザー、金融商品の営業職・事務職や顧客対応などが挙げられます。近年では金融企業のIT化が進んでおり、システム管理も欠かせない職種のひとつとなっています。
金融業界の市場規模は、主要対象企業における経常収益の合計金額で50兆円を超えています。金融業界内で内訳を見てみると、銀行業の占める割合が高く、20兆円以上の経常収益となっています。金融業界内では、リース業や消費者金融などの収支が増加傾向にあり、クレジットカードや保険業が後に続いています。
近年の動向としては、テクノロジーの普及によって金融業界に「フィンテック(Financial Technology)」の波が到来しています。フィンテックは最新のテクノロジーと掛け合わせた金融サービスで、事業者と利用者双方の利便性向上が図られます。インターネットやスマートフォンの普及により、AI(人工知能)やビッグデータ、分散型データベースであるブロックチェーンなどが利用できるようになりました。フィンテックは金融インフラとして社会全体に普及しつつあり、この動きは今後さらに拡大加速することが予想されています。
金融企業のビジネスモデルには、大別して4つの収入パターンが考えられます。金融企業の主な収入源を以下に解説します。
「金利」による収入は、金融企業を代表する収入源のひとつです。金利収入は銀行業務において大きな収入源となっています。銀行は預金者からお金を集め、そのお金を貸し出すビジネスモデルです。そして、借り手から得る金利と預金者に払う金利の差額が銀行の利益となります。金利収入は、金融企業のなかでも銀行業にとって事業を支える根幹の収入源です。
金融企業のビジネスモデルを代表するものに、手数料による収入があります。株式の取引手数料や投資信託の販売手数料といったものがこれにあたります。 身近なところでは銀行ATMの利用手数料や振り込み手数料などがあり、手数料は金融企業との取引においてあらゆる場面で課せられることがほとんどです。手数料からの収入は、金融企業のビジネスモデルにとって欠かせない収入源のひとつとなっています。
生命保険や傷害保険などを扱う保険会社では、「保険料」による収入が大きなパーセンテージを占めています。保険を扱う金融企業は保険商品を販売して、保険料の収入と支払いの差額が利益となります。保険会社の商品は、個人向けの保険商品から法人に向けた事業型の保険などさまざまな保険商品があります。
金融企業は、さまざまな収入源から集めたお金を運用に回すことでも利益を得ています。株式や債権などさまざまな投資をおこない、収益の拡大を狙います。運用は投資なので当然リスクがありますが、投資先を分散してポートフォリオを組むことで、リスクヘッジをとりながら安定的な運用がおこなわれています。
金融業界の代表的な業種としては、銀行・信託銀行、保険会社、証券会社などが挙げられますが、これらのほかにも数多くの業種があります。例を挙げると、資産運用会社や政府系の金融機関、外資系の投資銀行など多様な業態が存在しています。また、PEファンドやベンチャーキャピタルに代表される、他社のビジネスを支援し成長させることで利益を得る業種や、投資の助言・アドバイスのサービスを提供する業種などもあります。
近年、金融サービスにおいて、テクノロジーやイノベーションに狙いを定めたM&A案件が増加しています。これは、テクノロジー・イノベーション分野の企業買収や合併を戦略的におこない、市場での優位性を確立することに大きな狙いがありまると考えられます。ここでは、世界と日本国内における金融業界M&Aの最新動向を紹介します。
2021年、世界全体でのM&A件数は4,000件以上にのぼり、過去最多といわれています。世界中でM&Aの件数が増加している要因は、リーマンショック以来の金融緩和の影響が大きいと考えられています。また、M&Aの件数は企業の新規上場数と相関関係にあります。IPO(株式の新規上場)をする企業が増えれば経済も活性化し、アメリカやアジア圏を中心に企業のM&Aが活発におこなわれています。
世界では、スタートアップ企業が投資家の資本力を利用して成長し、大きくなったビジネスをM&Aで売却する出口戦略のパターンがよくあります。この動きはフィンテックのスタートアップ企業にも多く見受けられ、金融業界のM&A事案においては一般的なケースとなっています。
日本国内においては、銀行や保険業を中心に業界再編のうごきが活発化しており、M&Aによる経営統合のケースが数多くみられます。とくに近年では、地方銀行の再編によるM&Aが増加傾向にあり、この動きは注目すべきトピックのひとつです。日銀の低金利政策は今後も続くので、銀行業を中心に経営基盤強化を目的とした企業のM&Aは増加が予測されます。
また、日本国内においては景気の良し悪しに関わらず、経営者の高齢化や後継者の不在によるM&Aを利用した事業継承が増加しています。後継者のいない企業のM&Aについては、今後しばらく増加傾向が続くシナリオが考えられます。会社の後継者問題は中小企業に多く、金融業界のように企業規模の大きな業界には一見無縁に思えますが、M&Aが企業存続の方法として一般的になりつつある背景から、金融業界が今後受ける影響も決して小さくはないと考えられます。
今日の金融業界には、人工知能やブロックチェーンなどのテクノロジーを、これまでのシステムに組み込んでいく動きがあります。これらフィンテックは金融に限らずとも、金銭のやりとりをする事業にとってさまざまな恩恵があるテクノロジーといえます。フィンテックの技術基盤を自社で構築するには、膨大な労力や時間、研究開発費などがかかります。しかしM&Aで既存の金融企業を取りこめれば、テクノロジーの研究開発や運用ノウハウをまるごと自社のものにできるのです。
また、同じようにテクノロジーの取得や運用を考えている他社にとって、フィンテック関係の事業は高値でも買収したい部門といえます。このようなことからも、金融企業の買収や売却は、売り手と買い手双方にとって時間的・金銭的に大きなメリットがあるといえます。
金融業界では国内のM&A事案以外に、海外企業との間でクロスボーダーM&Aが活性化しています。業界内でのM&Aの多様化にともない、企業の売却金額も一概に算出できず価格の相場は存在しないといえます。では、M&Aをするにあたって企業はどのように会社の価格を決めるのでしょうか?ここからは、企業価値を決める代表的な要素を以下に解説します。
企業の価格を決める要素の中で代表的なものが、会社のもつ純資産と市場価値です。純資産は財務諸表を見れば容易に算出が可能なので、価格の基準としやすい要素です。市場価値は、売り手の会社と同一の業界・業種のうちで上場している企業の株価などをもとに、市場価値を算出して価格を決めるケースが多くみられます。
M&Aで企業を買収する場合、その会社の事業によって得られるであろう利益を、譲渡企業の価格に設定する場合もあります。過去の営業利益をもとにして「のれん代(営業権)」を算出してM&A後の利益を予測、企業の買収価格に換算します。のれん代の算出には、通常過去3年程度の営業利益をみることが一般的です。
売り手側の会社がもつ技術やノウハウ、従業員や取引先といった「無形資産」に価格をつけて企業価値を算出する方法もあります。無形資産によってつけられる価格は、買い手側企業の期待値や需要によって大きく変化するので一概に決められません。しかし、譲渡側がもつ無形資産の独自性や希少性が高い場合には、会社の価格も高額となる傾向にあります。
M&Aの買い手側が企業を買収する最大の目標は、事業の拡大とそれに伴うシナジー効果の創出にあるといえます。M&Aの目標を達成するには、自社が強化したい分野や事業進出したいエリアなど、M&Aによる成長目的を前もって明確にしておく必要があります。とくに金融業界では同業他社間でのM&A事例が数多くあり、譲渡側・譲受側双方のもつ技術やノウハウ、サービスなどを最大活用して事業の拡大を図り、M&Aとその後の運用を成功へ導いています。
金融企業がM&Aで売却を成功させるには、買い手である譲受側の企業に対して、自社の魅力や事業資産をきちんと伝えることがポイントとなります。売り手側の譲渡企業のもつノウハウやサービスが、買い手側のニーズにマッチすれば、売却利益以外にも得るものがあります。M&A成立後の事業引継ぎにおいて、より良いポジションや環境が期待でき、売り手側にもシナジー創出の可能性が望めます。
会社の売却を、売り手側と買い手側の双方にシナジー効果がある理想的なM&Aとするためにも、自社の事業のもつ魅力をしっかりと買い手側に伝えられるように、日頃からの事業の整理分類が大きなポイントとなります。
M&Aにおいてもっとも大切なことは、譲渡企業と譲受企業の信頼関係です。面談や交渉の内容には根拠を提示し、双方が納得できる話し合い方を心がけるべきです。また、条件や価格設定においても、売り手側と買い手側双方の利害が一致するように気を配りましょう。
金融企業とのM&Aでは、情報の取り扱いに一層の注意が必要です。M&Aを検討中の段階や、実際にM&Aを実行している最中には買収の情報漏洩を防ぎましょう。情報の漏洩は買い手側、売り手側双方の信頼関係を壊すだけでなく、顧客や取引先、従業員からも不信感を持たれかねません。とくに、金銭を動かす金融企業において信用は命です。M&Aを実行するにあたっては秘密保持契約を必ず結び、情報の管理や発表のタイミングには細心の注意をもってあたらなければいけません。
近年では、金融業界のM&Aが増加傾向にあります。その背景には、業界の再編成やフィンテックに代表されるテクノロジーの進化・普及があると考えられます。金融業界で最近話題となったM&Aの事例をみてみましょう。
2018年、「マネックス証券」などの金融企業を子会社にもっている「マネックスグループ」が、仮想通貨取引所の「コインチェック」を株式譲渡によって完全子会社としました。
コインチェックでは、それまでに取り扱いのあった仮想通貨「NEM(ネム)」の不正送金問題が起きており、業務改善命令を受けていました。この事件によってコインチェックは、仮想通貨や顧客口座の管理システムの脆弱性が問題視されるようになりました。一方でマネックス証券は「第二の創業」期であることをスローガンに、新しく仮想通貨事業への進出を狙っていました。
マネックスグループとのM&Aによって、コインチェックはマネックスのもつシステム基盤や管理体制を利用できることとなり、国内仮想通貨取引所の最大手として現在に至っています。
保険業界大手の「日本生命保険相互会社」は2018年、保険商品比較サイトを運営する「株式会社LIFULL FINTECH」の事業を一部譲受するM&Aを実施しました。
日本生命保険はインターネットによる相談や集客、情報収集などを強化するために、LIFULL FINTECHの保険メディア事業を一部分割し、「株式会社LHL」を新設。株式を100パーセント取得して事業譲渡のM&Aに成功しました。
2019年、国内メガバンクの「三菱UFJ銀行」は、インドネシアの大手商業銀行「バンクダナモン」を株式譲渡によって連結子会社化しました。三菱UFJ銀行とバンクダナモンは以前より資本関係があり、この子会社化には追加出資の目的もありました。
インドネシアにおける両銀行のM&Aは、三菱UFJ銀行のアジア地域進出と事業拡大の足掛かりとなり、インドネシアの銀行業界も大きく発展することとなりました。
「福井銀行」と「福邦銀行」の資本業務提携は、国内地方銀行同士のM&A事例です。このケースでは福井県に98の店舗をもち、福井を代表する地銀の福井銀行が買い手となり、福井県を拠点として39の店舗を運営する、福邦銀行が売り手側となっています。
福井銀行と福邦銀行は2020年に業務提携を締結していましたが、地域経済の発展にむけた包括提携をさらに推進するため、業務提携のみならず資本提携もおこない経営基盤を強化することを発表。2021年にM&Aが実施されました。これにより、福邦銀行側が福井銀行側を割当先とした第三者割当増資をおこない、5福井銀行は福邦銀行に対して0%以上の議決権を所有することとなりました。
システム開発企業である「CAICA」と仮想通貨関連の事業を展開する「Zaifホールディングス」が、2021年に株式譲渡と第三者割当増資によるM&Aを実施しました。この案件で売り手となったのは仮想通貨取引所を運営し、暗号資産取引のシステム開発や暗号資産派生型の金融商品を扱っていたZaifホールディングス。対する買い手側のCAICAはITシステムの開発事業や金融商品の企画・販売をおこなう企業です。CAICAはフィンテック戦略の一環として、ブロックチェーンや暗号資産に着目していました。
2016年にはCAICAはZaifホールディングスに対して資本参加をし、ZaifホールディングスをCAICAの持分法適用関連会社とします。しかし、持分法適用関連会社では理想的なシナジーの創出が得られず、経営判断の遅さなどが問題になっていました。これらの問題を解決するために2021年、CAICAはZにZaifホールディングスに株式譲渡と第三者割当増資の手法を併用したM&Aをおこない、Zaifホールディングスを完全な子会社としました。
このM&A事例では、株式の取得にかかった費用は約37億円とされ、CAICAのZaifホールディングスに対する議決権所有割合は、23.18%から40.72%に増加しています。
保険販売業の「ファイナンシャル・ジャパン」と「新生銀行」は2019年、M&Aによる企業買収を実行しました。この事案で売り手となったファイナンシャル・ジャパンは、店舗を持たない訪問型の保険乗合代理店として事業を展開していました。一方買い手となった新生銀行は関東および関西の大都市圏とインターネットバンクで、リテールバンキング事業やコンシューマーファイナンス事業などに加えて、個人・法人を対象に窓口での保険商品の販売もおこなっていました。
新生銀行は個人向け保険商品販売の強化を課題とし、ファイナンシャル・ジャパンを株式譲渡のかたちでM&Aすることに成功。無店舗型の保険乗合代理店としてのビジネスをおこなえるようになりました。売り手となったファイナンシャル・ジャパン側は新生銀行のもつネットワークや実店舗を利用できるようになり、保険販売の方法が強化されました。
金融業に限らず企業間のM&Aには、さまざまな売買方法が存在します。その中でも代表的な手法である「買収」「合併」「提携」について以下に解説します。
企業の提携には「業務提携」と「資本提携」、そして「資本業務提携」の3つのパターンがあります。「資本提携」は、提携する会社同士がお互いの会社の株を持ち合う、あるいは一方が他方の株式を取得して、関係の強化を図ることをさします。
「業務提携」は、双方が技術やノウハウを提供・共有して協力関係を結ぶことをさします。そして「資本業務提携」は、資本提携と業務提携を同時におこなうことで、資本か業務の単独提携よりも強い結びつきが期待できます。
資本業務提携は合併や買収のように支配権を確立することを目的としておらず、対象企業の独立性やブランドが維持できるため、より柔軟なM&Aの手法といえます。
合併は法的な手続きと企業間の契約によって、2つ以上の会社が一社に統合されるM&Aです。買収においては、譲渡側の企業が何らかのかたちで残ることが一般的ですが、合併では1社を残して、ほかの企業は消滅することになります。
合併には買い手側の企業が残る「吸収合併」と、買い手側と売り手側双方の会社が消滅して、新しい会社が誕生する「新設合併」があります。
企業間の買収では、買い手側が売り手側の株式を取得して経営権を握る「株式譲渡」や、事業の一部を売買する「事業譲渡」が一般的におこなわれています。また、買収する企業を完全子会社化するための「株式交換」もよくみられる買収の手法です。
買収には、このほかにも「会社分割」や「第三者割当増資」など、さまざまな手法があります。金融企業のM&Aにおいても、状況によって最適な買収手法が使い分けられています。
「株式会社ウィルゲート」は2006年の創業以来、コンテンツマーケティングを主な事業としている企業です。とくに、Web・IT業界を中心領域として展開しており、これまでに9,000社以上の企業や経営者とさまざまなかたちでつながりを作ってきました。ウィルゲートでは2012年から企業M&Aに特化したサービス「ウィルゲートM&A」をローンチし、これまでに6,700社以上の企業M&Aを支援。
さらにウィルゲートは、これまでに自社の事業譲渡を2回、事業譲受を4回ほどおこなっています。実際のM&A経験に基づいた細やかなサービスには定評があり、M&Aを希望する多くの企業から注目を集めています。ウィルゲートM&Aは着手金無料の完全成果報酬となっています。相談も無料なので、M&Aをお考えなら、一度ウィルゲートに相談してみましょう。
昨今、金融業界では低金利環境が長引き、新型コロナウイルス感染拡大の影響などもあって、各社の経営は厳しい環境にあるといえます。
しかし金融業界は、こうした環境に対応するためにM&Aで事業を拡大し、新たな技術を取り入れて成長しているのも確かです。今後も金融業界におけるM&Aは、国や業種のボーダーを越えて活発化していく動向が予想されます。
M&Aを検討されている方は、完全成果報酬型で着手金無料の「ウィルゲートM&A」がおすすめです。
ウィルゲートM&Aでは、9,100社を超える経営者ネットワークを活用し、ベストマッチングを提案します。Web・IT領域を中心に、幅広い業種のM&Aに対応しているのがウィルゲートM&Aの強みです。M&A成立までのサポートが手厚く、条件交渉の際にもアドバイスを受けられます。
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