今や事業の存続と企業の成長に欠かせない戦略となりつつあるM&A。周囲へのメリットも多いため、政府の後押しによる優遇措置も目白押しです。ただし、少なからずデメリットもあります。この記事では、さまざまな観点からM&Aのメリット・デメリットについて解説します。
M&Aの売り手企業にはさまざまなメリットがあり、その裏返しとしてのデメリットも存在します。最大のメリットは後継者問題の解決と事業継承でしょう。そして従業員や取引先との良好な関係を維持できることです。まとまった利益を得られることも大きなメリットです。リタイア後はゆっくりと第二の人生を満喫できることでしょう。
その反面、金額が折り合わなかったり、従業員や取引先の不満が噴出したりするデメリットもあります。また、譲渡金に税金がかかることも忘れてはなりません。
それでは、売り手企業側のメリット・デメリットについて確認していきましょう。
M&Aが売り手企業にもたらすメリットは「事業を存続できること」と「従業員の生活を守れること」、そして「まとまった利益を獲得できること」です。後継者問題や思わしくない経営状況で廃業を考える経営者も少なくありませんが、M&Aを選択肢に入れることでさまざまなメリットを享受できます。廃業による処分費用の負担もなく、長年苦労を共にした従業員の生活を心配する必要もありません。
近年では政府の後押しにより、さまざまな税制の優遇措置を受けられるようになったことで、売り手企業の経営者はまとまった利益を得たリタイアメントをしやすくなってきています。
M&Aによる売り手側の最大のメリットは後継者問題の解決と事業を継続できることです。日本の少子高齢化は深刻な状況に陥り、経営者の高齢化と後継者不足に悩む企業は少なくありません。
2019年の中小企業の事業承継調査によると廃業を予定している企業は過半数を占め、そのうちの3割が後継者不足を理由に挙げています。しかしながら、廃業予定の企業の3割以上が順風満帆の経営を続け将来的にも安泰と見込まれているのです。
後継者選定にあたっては、実子や親族に継がせる風潮が強いものの、親族以外を後継者とするケースも3割を占めています。
こうした状況を踏まえ、政府は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」のもと「事業承継税制」を設け、M&Aのいっそうの推進に取り組んでいます。これは、ある条件を満たした非上場企業承継への贈与税・相続税が猶予されるという制度です。
そのほか、民法上における特例や金融支援などさまざまな優遇措置を受けられるメリットがあります。
M&Aが成立すると、経営者は大きな売却益を得られます。負債も含めて売却することが多いため、リタイア後に金銭的な心配をしなくてすむのは大きなメリットです。引退後は悠々自適のハッピーリタイアメントを満喫できるでしょう。
これに対し、廃業・清算の場合、負債はそのまま残るので引退後も返済に追われ、あらゆる方法を用いて返済していかなければなりません。負債のみならず、有形資産の処分費用や解雇する従業員への補償など、かなりの経済的負担を強いられてしまいます。経営者にとっての選択がM&Aか廃業かのどちらかでしかないとすれば、メリットの大きさからしてM&Aを選ぶ方が望ましいといえます。
M&Aが成立すると、不動産や設備はもちろん、取引先や従業員の雇用もそのまま引き継がれます。取引先への影響も少なくてすみ、長年苦労を分かち合ってきた従業員の将来について心配する必要もありません。自社で培ってきたノウハウや技術は、従業員の雇用継続によって継承されることになります。生活の保証を得た従業員たちは、新しい会社の頼もしい戦力として、必ずやシナジーの創出に貢献することでしょう。
企業の将来に関して、廃業かM&Aかの選択肢しかないのであれば、断然M&Aがお得です。しかしながら、M&Aにもデメリットがあるのも事実です。企業には売り時というものがあり、タイミングがよければ高く売れますが、まず理想的な買い手企業と出会えるかどうかが大きな課題となります。そして、いざM&Aに臨んでからも、交渉が長引くうちに企業価値が下がってしまい安く買い叩かれる心配も出てきます。
加えて、経営者が変わることで、従業員や取引先に不満が出ることも考慮しておかなければなりません。譲渡益にかかる税金についても把握しておく必要があります。
M&Aはタイミングの取引といわれ、企業にも売りどきがあります。そのためには、まずは業界の市場動向を見極めることが大切です。高く売れそうな時点で理想的な買い手企業と出会えれば、それに越したことはありません。
しかしながら、なかなかそうはいかないのが現実です。買い手としてもできるだけ安く買い受けたいので、折り合いをつける交渉が長引き、そのうちに市場価値が下がり安く買い叩かれる懸念も出てきます。過度な負債があれば繰り上げ返済し、成長を見込んだ設備投資など早い段階での対策も必要でしょう。
M&Aでもっとも難しいのが理想的な譲渡先との出会いです。金銭的な折り合いはもちろん、従業員の雇用確保や取引先への影響などを考慮してくれる買い手企業を探すことは困難を極めます。
こうした背景を踏まえ、M&Aは長期戦と見込んで準備を進めることをおすすめします。自力での情報収集はもちろん、M&A仲介会社やプロの専門家の助けを借りて進めるのもひとつの方法です。
M&Aでは、売り手企業が専門性の高い特殊技能を持つ会社でないかぎり、譲渡先で従業員が優遇されるケースは多くありません。これまでと異なる経営体制のもと、仕事内容の変更や勤務地の移動、待遇の差に対し従業員が不満を持つ可能性があります。
従業員の幸せを願い踏み切ったM&Aが、かえって不幸せを持ち込んでしまうのです。融合によるシナジーが生まれないばかりか、派閥ごとの争い、格差により労働意欲を失い離職といったことさえ起こり得ます。
M&Aがデメリットとならないために、交渉時に従業員の待遇についてじっくりと話し合うことが大切です。また、タイミングを見計らって、従業員に対しても丁寧かつ真摯に説明する必要があります。
経営方針や担当者が変わることで、これまで良好な関係を続けてきた取引先とこじれることも想定しておかなければなりません。契約内容にチェンジオブコントロール条項が定められていた場合、契約解除となる可能性もあります。
こうしたデメリットを防ぐためには時間をかけた根回しと事前に丁寧な説明と対応をして理解を得る努力が必要でしょう。また、売却交渉時に取引先との関係や従業員の待遇維持などをじっくりと話し合うことが大切です。
売却益の税金もデメリットのひとつに上げられます。金額が大きいので、あらかじめ内容に関して把握しておいた方がよいでしょう。
M&Aには大きく分けて株式譲渡と事業譲渡があり、それぞれ譲渡益に対する課税率が異なります。比較的多いとされるのが株式譲渡で、個人株主としての売却益への税率は20.315%となります。内訳は所得税15%、住民税が5%、そして2037年までの時限措置として復興特別所得税が0.315%です。法人株主への税率は譲渡益と本業益との合算で29.74%となりますが、本業が赤字の場合、非課税となる可能性もあります。
事業譲渡における税率は本業との合算に対し29.74%です。税率の面からは株式譲渡の方が手元に残る資金は多くなりますが、経営権を失うため会社としての存続はできません。一方、事業譲渡の場合、税率は高くなりますが会社としては存続します。
買い手企業にとってのM&Aは事業拡大が目的です。多少のリスクを支払ってもシナジーが見込めるなら安い買い物といえるでしょう。自社で市場開拓し、設備投資と社員教育に経費と時間をかけるより、既存の企業を買収するM&Aの方がはるかにメリットは大きいといえます。
とはいえ、バランスが大切です。シナジーが生まれるまでにあまりに長い時間がかかる、従業員の離職や簿外債務の発覚など懸念材料は少なくありません。
ここからは買い手企業のM&Aのメリット・デメリットを確認していきましょう。
事業拡大を狙う企業にとってM&Aは迅速に目標を叶えられる合理的な方法です。設備投資や社員教育などに時間をかける必要もなく、他社のシェアや技術を取り込むことで市場拡大やシナジーへの期待も高まることは間違いありません。
また、すでに成熟期にある企業が同業他社を買収することで活路を見いだし、業界全体の持続性を高めていくこともメリットといえるでしょう。売り手企業の経営状態が思わしくない場合、赤字を自社の利益と相殺し、節税することもできます。
新規事業への参入や市場拡大は企業の成長に欠かせない戦略です。市場調査や設備投資、従業員の教育などさまざまなプロセスを経なければならず、場合によっては十年以上かかることもあります。準備段階で自然災害や政変により状況が変わってしまうことも少なくはありません。社会情勢が一変し、投資が中途挫折してしまったときのリスクも考慮しておく必要があります。
M&Aは、売り手企業の設備と従業員、市場を丸ごと引き受けるので、中途挫折の心配もなく事業成長への大いなる時間短縮ができます。M&Aの契約成立に要する時間は数カ月から1年ほどが一般的で、中には1カ月で契約成立に至った事例もあります。
M&Aによる買収には多額の資金が必要になりますが、それは一時的な出費に過ぎません。新規事業参入へ要する設備投資と労力、中途挫折のリスクと成果が表れるまでの時間を考慮すると、M&Aがどれだけのメリットをもたらすか明確です。M&Aとは時間をお金で買うことといってよいでしょう。長期的視野に立った判断が求められます。
M&Aの売り手が競合他社の場合、買い手企業が市場拡大と競争力強化を迅速にできることは大きなメリットです。それぞれの技術の融合によるシナジー、シェアの拡大、販路の統一によるコスト削減など、同業種間のM&Aは多くのメリットがあります。同業の、競合企業の統合は業界再編につながり、業界全体の活性化を促すことも考えられます。
日本市場は少子高齢化による人口減少と長引く不況で縮小傾向、すでに経営困難に陥っている企業も少なくありません。企業によるシェアの獲得競争は激しさを増し、値下げ合戦により業界全体の消耗も見受けられます。M&Aによる統合や買収は、成熟期にある企業のさらなる成長、ひいては業界全体の持続性を強めるでしょう。
シナジーとは相乗効果のことでM&Aにおける最大の目的といっても過言ではありません。異なる組織が融合することで数字上の総和に留まらない相乗効果が期待されます。売り手と買い手の共同運営により、それぞれの販売網や設備を相互に活用した経営の効率化、新たな価値観の導入による事業展開や物流、生産ラインの一体化など効果は計り知れません。有能な人材が加わることで、既存社員のモチベーションが上がり生産力も増します。売り手企業の有していた特許やノウハウ、高い技術の導入が技術強化と研究開発力を促します。
売り手企業が赤字経営の場合、買い手側の黒字と相殺することによって法人税を節税できます。赤字は欠損金と呼ばれ、発生から7年間は繰り越しが可能です。繰り越された欠損金は繰越欠損金といい、年ごとの利益と相殺できます。
また、海外で話題になった節税方法としてはタックスインバージョン(租税地変換)があります。タックスインバージョンとは税率の低い国の企業を買収し、本社を移転することによって節税する方法です。米国の製薬会社の事例がありますが、その後規制が強化されています。
買い手企業に多くのメリットをもたらすM&Aですが、最初の難関として買収資金の調達が立ちはだかります。ひとつの企業を買い受けるわけですから、まとまった高額の資金を用意しなければなりません。
そして、高額の資金を投入しM&Aの契約成立にこじつけても、投入金額に見合う結果を出すには時間を要します。新しい職場に馴染めない従業員たちの不満が噴出し、離職やトラブルによる生産力の低下、シナジーが生まれない可能性もあります。後々になって簿外債務が発覚しないよう、明確で緻密なバリュエーションとデューデリジェンスが必要です。偶発的な債務の発生も考慮しておく必要があるでしょう。
買い手として最初に頭を悩ませるのが買収資金の調達です。名のある大企業はもちろん、小さな会社でも特殊な技術で高額な買収資金が必要なケースは少なくありません。まとまった資金の調達は、買い手企業が最初に直面する課題です。投資する金額に見合う利益が見込めるかの慎重な判断が求められます。
提示金額によっては価格交渉が難航することも予想され、長い時間を要します。買い手企業を必要以上に高く評価してしまうと、のれん代の減価償却に利益が相殺されマイナスになる可能性も否定できません。
M&Aへの投資が回収できないと見込まれると、回収不能額を損失として計上する現存損失措置を取る必要があります。M&A成立には厳密な監査と慎重な価格検討が大切です。
未払いの給与や賞与・退職給付引当金、回収見込みの低い売掛金などは、簿外債務と呼ばれ貸借対照表に記載されません。また、顧客とのトラブルや環境汚染問題など、予測できない将来的な債務を偶発債務といいます。
簿外債務と偶発債務は粉飾されるケースもありますが、売り手企業さえも気付いていないことも少なくありません。事前監査の徹底、契約前の確認事項を売り手に保証してもらう表明保証によるリスク回避を考慮すべきでしょう。
売り手企業と買い手企業それぞれの従業員への配慮が必要です。M&Aは異文化の統合のようなものでシナジーが生まれるまでに長い時間を要することが少なくありません。ともすればシナジーが生まれる前に、従業員同士に軋轢が生じたり、それぞれに不満が蓄積し離職したりする可能性もあります。
売り手企業からの従業員は買い手企業のルールに従わなければならないケースが多く、福利厚生や給与など待遇面で不利になってしまうと、そこに不満が生じ、労働意欲の低下、買い手企業の従業員との派閥争いやいざこざを引き起こしがちです。
そのようなトラブルを未然に防ぐためには、早い段階からコンタクトを取っておく必要があります。従業員の要望や意見に耳を傾け、買収後の待遇や将来的なビジョンなど細やかに説明しておくことが大切です。統合後のキーマンとなり得る統率力のある人材を選出し、あらかじめ根回ししておくことでスムーズな展開が見込めます。
M&Aが成功か失敗かはシナジーが生まれるかどうかにかかっています。統合による販売網の拡充や設備の充実が生かされなかったり、従業員同士の軋轢により生産が上がらなかったりすると規模の拡大による管理費用だけが嵩んでしまいます。シナジーが生まれるまでにある程度の時間が必要とはいえ、あまりに長期になると企業が消耗していくのは目に見えています。
売り手企業に人気があり、買い手企業が複数で競合する場合、市場相場以上の高い見積もりを提示してしまいがちです。シナジーで相殺できると見込んでの買収とも受け取れますが、シナジーが生まれないとのちのち大きなデメリットを背負うことになります。そのため、本当にシナジーが生まれるのか?もしシナジーが生まれなかったら?というリスクも視野に入れて検討しておく必要があります。
M&Aの交渉過程から契約成立後に至るまで、もっとも慎重に対応しなければならないのが従業員です。
M&Aへの受け取り方は従業員それぞれによって異なりますが、動揺と不安が広がる可能性もあります。統合後の貴重な戦力である従業員に不満が噴出したり離職してしまったりするようでは期待していたシナジーは生まれないでしょう。雇用継続で従業員の生活を守ることはもちろん、不満の出ないような待遇面への配慮、丁寧な説明が必要です。
ここでは、従業員にとってのM&Aのメリット・デメリットを解説します。
従業員へのメリットは雇用継続による生活の安定と新しい職場環境への期待です。
事業承継に悩み先行きの不透明な中で働いていたときとは違い、フレッシュな気持ちで安心して仕事に取り組めます。福利厚生の待遇面や職場環境においても、よりよく改善されることもあり、従業員同士の交流は刺激になりキャリアアップにつながります。
M&Aでは、基本的に売り手企業の従業員の雇用は継続されることになります。将来の心配をせずに安心して働けることは従業員にとって大きなメリットです。
多くの場合、買い手企業の方が売り手企業より規模が大きかったり躍進的だったりします。売り手企業からの従業員たちは大企業の傘下に入ることで、それまで先の見通せなかった雇用条件から解放され、安定した生活を手に入れられるのです。
M&Aが株式譲渡の場合は、従業員との雇用契約もそのまま引き継がれます。統合後も雇用条件が変わることなく、処遇について心配することもありません。
対して、会社の事業の一部や資産の一部、もしくは全部を引き抜く事業譲渡の場合は従業員との雇用契約はいったん解消され、新たな雇用契約を結ぶことになります。新会社の規定に基づき、給与や勤務条件について合意のうえで勤務することになりますが、ほとんどの場合、給与や勤務水準は変わらないような再契約がなされています。
M&Aでは、異なる環境下にいた従業員同士の交流により職場環境の改善が推進されたり、それぞれの企業のよりよい制度を採用し、福利厚生や給与など待遇面がよくなったりする可能性があります。双方の従業員にとって、M&Aによる異文化融合はキャリアアップするまたとないチャンスです。キャパシティーが広がり、新設の部署やポジションも増える可能性があります。キャリアアップを重ね、ポジションに就くこともあるでしょう。同業種との統合なら、さらなる技術の向上が見込まれます。また、異なる業種と触れ合うことで多様な考え方を学び、仕事の幅も広がります。
従業員にとってのデメリットは、そのままメリットの裏返しです。待遇がよくなる期待の反面、悪くなる可能性もあり、待遇の差が従業員同士に分断を生み、軋轢が生じることもあり得ます。メリットとデメリットは表裏一体なので、対処次第でよい方向へ進めることは可能でしょう。根回しと丁寧な説明が不可欠です。
株式譲渡ではM&A後も退職金や給与に変化はありませんが、事業譲渡の場合、契約は個別に巻き直しされるため変わる可能性があります。場合によっては、給与の減額や手当の廃止なども覚悟しておかなければなりません。急な配置転換や勤務地の移動を求められることもあります。
とはいえ、M&Aは売り手買い手双方の企業にとってプラスをもたらすために行われるものです。そのため、あえて従業員の不評を買うようなことは避けるのが一般的です。株式譲渡においては雇用条件はそのまま引き継がれますし、事業譲渡においても、雇用条件を同様にすることを前提にM&A交渉が進められます。
再雇用の契約には従業員の同意を必要とし、何より事前に真摯で丁寧な説明がなされるのが一般的です。
売り手からの従業員と買い手側の従業員との待遇や評価に差が生じると、不満が溜りモチベーションは低下、職場もうまく機能しなくなります。意欲を失った従業員は実力を発揮できないため評価が下がる一方です。
将来を不安視する従業員も中には出てくるでしょう。売り手企業からの従業員はデリケートな心理状態なので新しい環境に馴染めず離職するケースも少なくありません。また、それぞれの従業員が派閥を作り争ったり、トラブルやいじめなどが起こったりすることもあります。
企業規模が大きくなっても最終的にM&A成功の鍵を握るのは従業員のマンパワーです。従業員への配慮はM&Aにおける最優先課題といえるでしょう。早い段階で統率力のあるキーマンを選定しておき、個々の意見に耳を傾ける環境づくりが大切です。
M&Aによる生産量と販路の拡大は価格に反映され、顧客や取引先へ大きなメリットをもたらします。けれども、経営者が変わることに不満を持ったり、一部事業の廃止による取引停止や競合企業の統合で気まずくなってしまったりすることもあります。顧客や取引先へはM&Aの目的や方針を丁寧に説明し、理解を得る努力が必要です。
M&Aによる事業規模の拡大は商品のラインナップや販売量、価格に反映され顧客の満足度を高めます。
生産力が増し商品のクオリティも高まり、店舗数が増えることで販売網も強化され大幅なコストダウンが見込まれるからです。取引先にとっては良好な関係を維持できるばかりでなく、取引量が多くなるメリットがあります。取引量の増加はさらなるコストダウンを導き、商品価格へと反映されます。
もっとも懸念されるデメリットは統合後に一部事業が廃止され、従来のサービスや商品を利用できなくなることです。
また、売り手企業と買い手企業が同業の競合関係にあった場合、取引できなくなることも考慮しておかなければなりません。取引先との契約に「チェンジオブコントロール条項」が盛り込まれていると、契約を解除される可能性があります。「チェンジオブコントロール条項」とは、M&A統合後の企業の経営権の移動を理由に契約を解除できる条項です。買い手企業にとってM&A交渉における大きな判断材料となります。
廃業の危機にあった企業がM&Aにより経営維持できることは、地域の経済基盤の安泰につながります。買い手企業の進出が新たな雇用を生み地域を活性化、文化や利便性が増すなどのメリットがあります。その反面、地域にそぐわない企業の進出、一部事業の廃止というリスクを背負う可能性も否定できません。
地域社会にとって既存の企業の存続は大きなメリットとなります。廃業の可能性のあった企業がM&Aにより存続することで、雇用は確保され人口減に歯止めがかかります。地域社会は活性化され行政への税収も存続。税収はインフラ整備や社会福祉へと還元されることでしょう。
少子高齢化と人口減が都市部ですら深刻な日本において、市場はすでに飽和状態です。後継者は見当たらないものの事業は存続したいという経営者たちの高齢化は日々進み、地方の過疎化にも歯止めがかかりません。M&Aはイノベーションとなり、経済成長と地方創生に重要な役割を担います。
そのような状況を踏まえて、政府が経済対策・成長戦略のひとつとして中小企業M&Aの推進を明記したのが2020年の成長戦略会議実行計画です。翌2021年より、さまざまな税制の優遇措置や補助金などでM&Aを手厚く支援しています。
地域社会・行政へ多くのメリットを持つM&Aですが、少なからずデメリットもあります。それは統合による一部事業の廃止の影響、そして地域にそぐわない企業の進出による軋轢です。
統合による一部事業の廃止が地域の主たる産業であり、多くの雇用を創出していたら、そのダメージは計り知れないものがあります。廃業にも等しく、行政の税収はなくなり、雇用が継続されても移動や転勤によりやがて人口流出を招いてしまいます。
また、地域にそぐわない企業が進出してしまうことも懸念材料です。風光明媚な観光と農漁業の町に、環境汚染を招くような工場が進出してくることは地域社会の分断を招きます。税収が増え雇用確保できさえすれば地域を守れるのかどうかは、さまざまな観点から議論を深めていく必要があるでしょう。
M&Aにおいて、金融機関に融資や貸し倒れリスクの軽減などのメリットをもたらす一方、金融機関がM&Aのよきアドバイザーとなることも少なくありません。
M&Aアドバイザーが常駐している金融機関もあり、ネットワークや金融に関する専門性でM&Aの進行を支援します。融資への相談がしやすい反面、買い手企業と売り手企業との関係性から利益相反が生じる可能性もあります。
M&Aは金融機関に資金調達の融資や、廃業による貸倒れの防止などのメリットをもたらします。M&A専門のアドバイザーが常駐している金融機関も多く、M&Aを業務として受諾する場合もあります。地域の中小企業とのつながり、全国の金融機関とのネットワーク、資金調達や金融に関する専門的な知識など、M&Aに関するあらゆる面を強力にサポートできるのが強みです。
M&Aへの融資には、さまざまな優遇制度が設けられています。そのうちもっとも利用されているのが「事業承継・集約・活性化支援資金」と「制度融資」です。
日本政策金融公庫による融資制度で、中小企業の事業承継を対象としています。通常の基準金利より低く設定され、融資限度額は7億2千万円、投資利用の返済は20年、運転資金の場合は7年が返済期間です。いずれも据置期間2年が設けられています。
地方自治体の認定を受けると、信用保証協会が融資の保証を担い、保証料の半分を負担してくれます。これを制度融資といいます。M&Aの資金調達のために高額の融資を受ける場合、通常であれば担保や保証人の保証能力はもちろんのこと、高額な保証料なども求められますが、この制度融資を活用すると、資金調達のための融資のハードルが下がるだけでなく、保証料の半額補助を受けられます。
M&Aが金融機関にもたらすデメリットとして上げられるのは借り換えのリスクです。経営者が変わることによる借り換えや、買収資金の調達に応えられない場合の借り換えが考えられます。
一方、M&Aの相談相手として金融機関を選んだ場合のデメリットは、どちらかといえば中小企業の相談には不向きな面と、利益相反が生じる可能性があることです。銀行などの金融機関は、M&Aのもたらす将来的なシナジーより実績や担保能力を重んじる傾向にあります。そのため、金融機関の業務規模に合わない企業や実績の乏しい企業、新規に融資を受けようとする企業に対しての審査が厳しくなります。
また、企業とさまざまな面で関わっているため、利益相反が生じる可能性も否定できません。金融機関がM&A仲介の場合、すでに取引のある企業への融資を考慮して偏った要求を行う可能性があります。契約成立後も顧客として良好な関係を続けられると期待し、買い手企業に有利な条件で交渉をまとめようとすることもあります。
税理士や会計士、弁護士など高い専門性を持つ職業の総称を士業といい、いずれもM&Aの進行に欠かせない業務を担います。企業のコンサルティングやM&A相談に応じる士業は多く、専門性ゆえのメリット・デメリットがあるのも事実です。金融機関に比べると、業界としてのネットワークが広いとはいえませんが、それぞれに連携し合ってM&Aを成功に導きます。
M&Aを成功させるためには企業価値の客観的な判断と税務や財務のデューデリジェンスが大切です。税務や財務の専門家であり、企業のコンサルティング業務など幅広く活躍する税理士は、M&Aのよき相談相手といえるでしょう。
税務や財務の専門家である税理士は、税金対策のアドバイスから確定申告の代行、M&Aにおける複雑な税務や会計をトータルでサポートしてくれます。的確なバリュエーションとデューデリジェンス、節税対策など税理士への相談には多くのメリットがあります。税理士間のネットワークを駆使した買い手企業と売り手企業の仲介や交渉のサポートを始めとした、M&Aのコンサルティング業務を行っている税理士事務所も少なくありません。
税理士は税に関する情報を熟知しているので、政府のM&A推進によるさまざまな税制優遇措置や支援策などを駆使し、可能な範囲の節税対策を講じてくれます。収支を総括したトータルでの税負担軽減などは、税理士ならではのM&Aサポートでしょう。
M&Aでよく例示される節税対策は、会社売却時における役員退職金の活用です。これは売り手企業の経営者などが役員退職金を損金として計上し、譲渡金額と調整して大幅な節税を図るものです。金額の妥当性など税務署に指摘されかねない分野でもあるので、税理士による検証が有効です。
M&Aを実施した年度の税金は非常に複雑なものとなり、ほとんどの場合、例年より増える傾向にあります。税金が増えすぎないように可能な限りの節税対策をするのはもちろんでしょう。いっそう複雑になる税務申告に関しては、税理士がもっとも信頼できます。
バリュエーションとは評価や価値判断、査定を意味します。デューデリジェンスは企業に要求される実施すべき注意義務および努力の意味で、M&Aにおいては投資対象となる企業や事業の価値やリスクを調査することを指します。
買い手企業にとって、買収対象企業のバリュエーションとデューデリジェンスは投資に見合うかどうかの重要な判断材料です。見落としがちな簿外債務や保証債務がM&A成立後に発覚すると、リスクを背負うことになるからです。
一方の売り手企業もバリュエーションとデューデリジェンスの結果次第で売却を検討します。バリュエーションには高度な会計知識を必要とするので税務・会計のスペシャリストである税理士や会計士が行うのが一般的であり、デューデリジェンスに関しても税理士への依頼が多数を占めます
全国にネットワークを持ちつつ地域性を確保する金融機関に比較すると、税理士はM&Aの対象企業を探すことが得意とはいえません。税理士事務所によっては企業の業種・業態の得意分野があり、特定の業種・業態に特化したサービスを提供している場合があります。M&Aを税理士事務所へ相談する際には、あらかじめホームページなどで得意とする業種を調べておくことをおすすめします。
公認会計士とは、会計監査を独占業務とする国家資格を持つ人のことをいいます。会計監査とは、企業などの作成した財務諸表が会計基準に沿ったものであるかどうか、経営状態や財務状況が適切に反映されているかどうかを監査する業務です。監査の延長上で企業のコンサルティングに携わることも多く、会計への専門性と幅広い知識を活かしてM&Aを全体的にサポートします。
M&Aを成功に導くために欠かせないバリュエーションとデューデリジェンス。適切な評価を下すには財務・会計への豊富な知識が必要です。公認会計士の専門領域であり、M&Aのサポーターとして求められる理由です。高い専門性を持ち、また専門以外の分野においても幅広い人脈でカバーできるのが公認会計士の強み。弁護士や社労士、税理士といったM&Aを成功に導くために必要な専門家を紹介し、全体的にサポートします。
必ずしもM&Aの対象企業を探すことが得意とは限らない点がデメリットです。また、知識の専門性が高いがゆえに、バリュエーションとデューデリジェンスを経た後のプロセスにおいて、存在感が薄れてしまう懸念があります。しかしながら、他の士業の紹介を積極的に行い、M&Aのスムーズな進行を手助けします。
弁護士が、M&Aにおいて携わることのできる業務はアドバイザーやFA(フィナンシャルアドバイザー)、仲介、関連する法務や労務の管理です。つまり、企業同士の出会いから契約成立まで、M&Aのすべてのプロセスを担えるということです。
法律のスペシャリストである弁護士は、M&Aにおいて法的な側面からさまざまな助言をします。交渉事を得意とし、当事者の代理人として難航するM&A交渉に臨むことも多く、M&Aの検討段階から契約成立、統合後のトラブル回避など、すべてのプロセスに関わります。弁護士事務所の中にはM&A全般のサポートを提供するところも少なくありません。
バリュエーションとデューデリジェンスが徹底されないまま契約してしまうと、のちのち露見したリスクによって買い手企業が大きな損害を被ることもあります。この損害に対して売り手企業が買い手から損害賠償を請求されたり、買い手企業の経営者が注意義務を怠ったとして株主から訴えられたりすることもあります。M&Aの進行に弁護士が関わっていると、法的な側面からもバリュエーションとデューデリジェンをチェックできるので、トラブルを最小限に防ぐことが可能です。万一トラブルが発生したときの相談相手としても申し分ありません。
法律を熟知し交渉力に長けた弁護士はさまざまな交渉事の代理を依頼されることがあります。M&Aの交渉においても例外ではありません。売り手企業・買い手企業、それぞれの代理人として交渉に臨むことで、ほぼ理想に沿ってM&Aを進められます。格上の企業との交渉や仲介業者との交渉においてはとくに有効です。M&Aの進行が偏らないよう、自社の利益を守りながら積極的な交渉を展開してくれます。
M&Aのすべてのプロセスを網羅できる弁護士ですが本業は法律。バリュエーションとデューデリジェンスにおいては会計士や税理士を必要とします。本業ではないため、弁護士事務所によってM&Aの対応に差があるのが実情です。弁護士に相談する際は、M&A実績の有無など、あらかじめのリサーチはもちろん、コンタクトを取ったときの相性や実際のコミュニケーション力など、幅広い観点から比較検討することをおすすめします。
M&Aの成功と失敗は紙一重です。順調な交渉を続けていても、情報漏洩やたった一度の不誠実さで破談になることもあります。また、社会的には失敗とみなされたM&Aが企業の成長戦略のひとつであるケースも珍しくありません。M&Aの成功や失敗は長いスパンで見守る必要があります。
通信業界においては、ソフトバンクが日本テレコムやイー・アクセス、ボーダフォンなどをM&Aにより買収した事例があります。ソフトバンクはその後も着実な成長を遂げ、2016年にはイギリスの半導体企業ARMを3.3兆円で買収しています。
今やECモール最大手として君臨する楽天が、国内の信販会社を買収し楽天カードをスタートさせたのは2004年から2005年にかけてのことです。2008年にはネット銀行の先駆けであったイーバンクを買収し、楽天銀行を設立しました。そして2021年3月、日本郵政と業務提携。1,499億円ほどの出資を受け、配達網を利用したマーケティングや共同の物流拠点の構築などを進めています。
世界に名だたる企業の歴史を振り返ると、それぞれにM&Aを繰り返し、着実に基盤を固め規模を拡大してきたことがうかがい知れます。
国内製薬第3位の第一三共は、2008年にインドの大手ジェネリック医薬品企業ランバクシー・ラボラトリーズを買収しました。しかしながら、TOB(株式公開買付)終了後にFDA(アメリカ食品医薬品局)より品質問題を指摘され、30品目以上がインドからの輸入禁止となる事態を招きます。これにより2014年、ランバクシー・ラボラトリーズの全ての株式を、インド第2位の製薬会社であるサン・ファーマシューティカル・インダストリーズに譲渡する羽目となりました。
パナソニックが松下電器産業と呼ばれていた1974年、北米大陸への市場拡大のためにアメリカ企業のテレビ事業を買収しましたが、ブランドを使用できず失敗に終わります。その後、1990年にはアメリカの映画製作・配給会社であるユニバーサル(当時MCA)を61億ドルで買収します。ユニバーサルの業績は好調でしたが、松下電器の業績が振るわなくなり1995年にはカナダの大手醸造会社シーグラムへ売却することとなりました。
外部からの指摘や本業の不振によりM&Aが失敗した例です。
愛知県を中心に施設常駐警備事業を展開する株式会社ライフ・コーポレーションは後継者不足により事業承継に悩んでいましたが、M&Aにより同じ愛知県の人材サービス業日輪へ譲渡することを決定します。長期戦の多いM&Aにおいて、マッチングからわずか1カ月での契約成立は異例のスピードです。人材業と警備業の融合による大きなシナジーが期待されます。
国内に7店舗を有し本場インド料理店サムラートを運営する有限会社スニタトレーディングは、チェーン展開するカレーの専門商社ゴーゴーカレーグループへ事業譲渡。事業成長と事業拡大という、互いのニーズが合致しすみやかなM&A契約成立に至っています。
中小企業のM&Aは、交渉段階での情報漏洩や対応の不誠実さなどを理由に契約不成立・失敗を招くことがあります。
製造業の会社が経営者の高齢化と後継者不足を理由にM&Aを相談したところ、4カ月ほどで買い手企業が見つかり基本合意に至りました。ところが、最終契約の前に売り手製造会社の経営者が社内外の人間にM&Aの情報を漏らす事態が発生。これによって破談、M&Aは契約不成立となりました。
また、ある有名な運送会社がM&Aによる事業承継を相談したところ、すぐに買い手企業とのマッチングが実現。けれども売り手企業であるはずの有名運送会社が書類を提出しなかったり、後から条件変更を求めたりと不誠実な対応を続けたため、買い手企業の信頼を失い破談となった事例があります。
M&Aの相談は、銀行や各士業、それぞれにメリット・デメリットがあります。そのため、全体的なバランスを鑑みて仲介会社に依頼する企業も少なくありません。数あるM&A仲介会社の中で、IT・Web事業領域のM&Aを得意としているのがウィルゲートM&Aです 。
ウィルゲートM&Aでは、15,100社を超える経営者ネットワークを活用し、ベストマッチングを提案します。Web・IT領域を中心に、幅広い業種のM&Aに対応しているのがウィルゲートM&Aの強みです。M&A成立までのサポートが手厚く、条件交渉の際にもアドバイスを受けられます。
一般的にM&Aの成約までは6ヶ月〜1年ほどの期間を要しますが、ウィルゲートでは平均で4ヶ月、最短1.5ヶ月での成約実績、40億円以上での成約実績もあります。完全成功報酬型で着手金無料なので、お気軽にご相談ください。
無料相談・お問い合わせはこちらから ※ご相談・着手金無料
M&Aのメリット・デメリットを比較すると、売り手企業と買い手企業だけでなく、関連するさまざまな分野に対してメリットの方が断然多くなります。それでもデメリットに対する配慮は必要で最小限に食い止める努力を怠ってはいけません。
M&Aを依頼する相談相手もさまざまですが一長一短。中立性と柔軟性を考慮すると、M&A仲介会社の依頼も考慮に入れておく必要があるでしょう。
近年は業種・業態に特化したサービスを展開するM&A仲介会社が増えています。
ウィルゲートの「Willgate M&A」は、IT・Web事業領域のM&Aを得意にし、9,100社以上の経営者ネットワークを活かして、多様なM&Aニーズに答えるM&A仲介支援サービスです。着手金なし、完全成功報酬制で、有名企業の経営者と太いコネクションがあるからこそスピーディーで適切なマッチングが可能です
M&Aをお考えの際はお気軽にご相談ください。
無料相談・お問い合わせはこちらから ※ご相談・着手金無料
ご相談・着手金は無料です。
売却(譲渡)をお考えの際はお気軽にご相談ください