会社分割とは?手続きの流れ、事業譲渡との違い、メリットを解説

会社分割とは?手続きの流れ、事業譲渡との違い、メリットを解説

会社分割とは、読んで字のごとく会社を分けてしまうことです。しかし会社を分けることにどんなメリットがあるのか、なかなかイメージしにくいですね。M&Aの手法としても、事業譲渡とどう違うのかわかりにくいところです。

この記事では、会社分割の意味や手続きの流れ、事業譲渡との違いやメリットなどを詳しく解説していきます。

会社分割とは

会社分割とは

会社分割とはその名のとおり、会社を複数の法人格に分け、そのそれぞれが特定の事業にかかわる組織や資産の移転を受けることをいいます。一般的には、株式会社や合同会社で行っている事業のうち、特定の案件にかかわる権利義務のすべて、または一部を一括して別の会社へ移転させる形で行われます。

会社分割は、ほかの企業などに事業を一括して承継するという点では合併と同じです。しかし合併では、承継後に売り手企業は買い手企業に取り込まれて法人格を失いますが、会社分割では分割した会社も存続して、譲渡した以外の事業を継続する点が違います。

ちなみに会社分割は、英語ではsplit-upやde-mergerと訳されます。「集団が分かれる」「統合の解消」という表現で、分割した会社が残っているイメージが明確化されています。

会社分割の主なねらい

会社分割は、分割企業の組織再編が目的で行われる場合が多く見られます。不採算事業の清算のための分離、成長が期待される事業の子会社化、企業グループ内の事業集約や効率化などのケースがこれにあたります。

また株式譲渡によるM&Aに際して、売り手企業を分社化した上で株式譲渡し、事業譲渡に伴う煩雑な契約更新を避ける場合もあります。

会社分割の法制上の扱い

2006年5月施行の新会社法に定めがあるのは、分割会社が承継会社の株式を保有する「分社型分割」のみとなりました。

一方法人税法では、分割会社の株主が承継会社の株式を保有する「分割型分割(人的分割)」も規定されており、これに対し「分社型分割」を「物的分割」と規定しています。

会社分割の種類

会社分割の種類

会社分割にはまず買い手企業が承継会社なのか、新設会社なのかによる違いがあります。分割会社の特定事業を切り離して承継会社が譲渡を受ける形を「吸収分割」、切り離した事業を新設する会社が引き継ぐ形のものを「新設分割」と呼びます。

さらにこのそれぞれについて、分割会社が対価として支払われる株式を取得する「分社型分割」と、分割会社の株主が取得する「分割型分割」があるため、これだけでも4種類の会社分割があることになります。

さらに分割会社の特定の株主にだけ取得を割り当てる場合や、新設会社が複数の会社分割の買い手になる場合などもあり、非常に複雑になっています。

吸収分割(分社型分割)

分割会社の特定の事業を分割して分社化したうえで、承継会社に譲渡する方法です。この譲渡に対しては、一般的に承継会社の株式または株式以外の資産が対価として分割会社に支払われます。

ちなみに分社型分割において分割会社に譲渡された承継会社の株式は、全部取得条項付種類株式の取得対価や剰余金の配当として現物配当することによって、分割会社の株主に交付することが可能です。すなわち会社法上においても事実上の分割型分割とできるわけです。

吸収分割(分割型分割)

分割会社の特定事業を分社化して、承継会社に譲渡するところまでは同じです。しかし、その対価として支払われる承継会社の株式は、分割会社ではなく分割会社の株主に取得される点が異なります。

分割型分割においては、分割会社の個々の株主は承継会社の株式を保有するようになりますが、会社自体は株式を保有しない点が大きな違いとなります。

非按分型吸収分割(分割型分割)

非按分型とは、分割型分割によって株主が対価となる株式を取得する際に、特定の株主にだけ株式を割り当てる方法です。

分割型分割では、一般に分割会社の株主にはその持株数に応じて(按分して)株式を割り当て、全員が承継会社の株主となります。しかし非按分型では、分割会社の株主は全員が承継会社の株主とはならない点が異なってきます。

新設分割(分社型分割)

新設分割では、分割会社の特定事業を切り離して分社化したものが、そのまま新しく設立する会社に承継されます。分割会社はまさに分割される形となるわけです。

このとき、新設会社はその株式を分割会社に対価として支払います。すなわち分割会社は、新設会社の株主となるわけで、いわゆる子会社化されたことになります。

新設分割(分割型分割)

分社型分割による新設分割と同じく、分割会社の特定事業を切り離して分社化したものを、そのまま新たに設立した会社に承継させます。このとき対価として支払われる新設会社の株式は分割会社の株主が取得します。

つまり、持株会社の株主は、新設会社も合わせて2社の株主となるわけです。その意味で分割会社と新設会社はグループ企業ではありますが子会社とはならなくなります。

非按分型新設分割(分割型分割)

このケースは、株主間で企業の支配権を分ける場合に用いられます。分割会社の株主であるAとBは会社の事業を分け合いたいと考えます。このとき、分割会社の一部事業を分社化し、それぞれを新設会社として起こします。

新設会社の株式を分割会社の株主であるAとBに交付するわけですが、Aは自分が引き継ぐべき新設会社の株式のみを取得し、Bも同様にします。本来ならどちらの新設会社の株式もAとBに按分して支払われるべきなのですが、これを非按分型とすることで、それぞれの所有を明確にできるわけです。

さらに分割会社がA、Bどちらかの保有する株式を取得して消却することで、持株会社の株式もA、Bどちらかだけの保有となり、より一層所有対象が明確になります。

共同分割

ここまで述べてきたのは分割会社が一つの場合ですが、共同分割は複数の会社が類似した特定の事業を切り離して分社化して行います。分社化した事業をまとめて新設会社を起こして引き受ける形は、共同新設分割と呼ばれます。

また、分社化した事業をまとめて既存企業が承継会社として譲り受ける場合もあり、共同吸収分割となります。この場合も分社型分割で、分割会社が新設会社の株式を取得する場合もありますし、分割会社の株主に割り当てられる分割型分割となるケースもあります。

会社分割と事業譲渡の違い

会社分割と事業譲渡の違い

会社分割と事業譲渡はよく似ています。どちらもM&Aの一手法であり、売り手企業の特定の事業だけを切り取って買い手企業に譲り渡すという点では同じ効果を持ちます。

しかし、それぞれの具体的な手続きや譲渡する事業のとらえ方などに違いがあります。違いに着目して解説します。

会社分割は事業を包括的に承継できる

会社分割は、組織再編を伴うM&Aです。最大のポイントは、事業にかかわる契約関係や許認可事項などは原則的にそのまま包括的に承継会社に承継されることです。

従業員の雇用契約も同様に承継される(労働契約承継法)ので、従業員の雇用不安や離職リスクも生じません。ただし、外部契約に関してCOC(チェンジオブコントロール)条項など、契約関係の変更に伴う義務が定められていることもありますので、契約内容については個別の確認が必要です。

会社分割の対価は株式によって支払われます。したがって売買とは違うと判断され、消費税は生じません。税制面では、適格組織再編と認められた場合は、移動資産は簿価で評価され譲渡損益が生じないため、法人税での優遇措置が得られます。ただし非適格組織再編と評価された場合は、移動資産は時価評価され譲渡損益に対して課税されることになります。

不利な点は債権者保護手続が必要になることと、分社化した会社をまるごと承継するので簿外債務などのリスクをはらむ場合があることです。一般のM&Aと同じくデューデリジェンスの徹底が必要です。

事業譲渡は事業の売買

事業譲渡は、組織再編を伴いません。特定の事業を売り手と買い手の間で売買する行為です。

したがって売買契約書を交わして実行され、場合によっては賃貸契約による一時的な事業の貸し出しもあり得ます。会社をまるごと譲り受けるわけではないので、簿外債務などの買収後のリスクは比較的小さくなります。また売り手企業の債権者に対する保護手続きも必要ありません。

不利な点は、事業そのものに付随する契約関係や従業員との雇用契約などはそのままでは承継されないことです。個別に契約を結び直す必要があり、かなりの労力を必要とします。

また、原則現金取引ですので資金調達が大きなネックとなり得ます。また売買ですので消費税も発生し、売り手は対価が所得とみなされ法人税が課税されます。

会社分割が適しているケース

会社分割が適しているケース

会社分割は、売り手企業がその法人格を残しながら、一部の事業を分社化して買い手企業に譲る形で行われるのが一般的です。ですから、売り手や買い手が会社まるごとの譲渡を望んでいる場合には適した手法ではありません。

ここでは会社分割が適しているケースを考えてみます。

事業形態の見直し

会社の経営が思わしくないとき、経営者はどう考えるでしょうか?経営の効率化や新規事業の拡大ないろいろある選択肢の一つが、事業形態の見直しでしょう。もちろん事業形態だけで企業の価値は決まらず、その変更がすなわち経営の再建とはいえません。

しかし業態を変更することや組織の再編を図ることは、窮状を打破する有効な方法であることも確かです。企業の事業形態を根本的に改革するのは並大抵のことではありません。会社分割はその効果的な手法になり得ます。

採算性に応じた事業区分の明確化

多くの企業では、いくつもの事業が並行して行われます。そうするとどうしても、うまく展開していく分野とそうでない分野がでてきます。

うまくいっていない事業が、赤字の連続というほど採算性が低ければ、潔く撤退という選択もあります。しかし多くの場合は、採算性が高くうまく回っている事業に比べれば、今ひとつ実績の上がっていない分野がある、という程度の場合が多いものです。

こうした採算性に応じて事業を再評価し、必要に応じて会社分割によって分社化することが考えられます。事業ごとに切り出したことによって経営の効率化が進み、採算性が改善することは十分考えられます。

また、やや採算性に欠ける事業が、他社から見れば魅力のある事業価値を持っている場合もあります。そうなれば、その分社化した部分を譲渡し、譲渡によって得た対価を他の事業の資本として活用することで、より採算性の高い企業経営を実現できる可能性もあります。

事業の肥大化抑制

企業は本能的に事業拡大を求め、事業が軌道に乗れば、規模は拡大していきます。では事業規模の拡大をもろ手を挙げて歓迎すべきかというと、必ずしもそうではありません。事業が肥大化した結果、経営理念が末端まで行き届かなくなり、企業としてはうまく経営できなくなってしまうことはまま見られます。

経営者として、自分の経営理念の実現を考えた場合に、会社の規模を見直し、機動的に動けるようにした方がよい場合があります。こうしたときに会社分割は、事業の規模を適正化するために効果的な手法です。

単純に会社規模を小さくすると、従業員の雇用を維持できなくなり、解雇せざるを得ない危惧があります。会社分割の場合、残る企業部分も、切り取られた事業分野も事業そのものは継続されるので、雇用維持の面でも問題は生じません。

事業拡大の効率化

ここまでは売り手企業側のことばかりでしたが、買い手側にも会社分割が望ましい場合があります。事業拡大や新規事業の創出を効率的に行いたい場合です。

会社分割は売り手企業のノウハウや人材、技術面や許認可等もそのまま承継できるため、譲渡を受けたらすぐに事業展開が可能です。新規事業の展開では顧客のネットワークなど販路の獲得に苦労する場合が多いですが、この面でも契約関係が引き継がれるので効率的に進められます。

会社分割のメリット・デメリット

会社分割のメリット・デメリット

経営課題として会社分割が望ましいケースだと認識したとしても、ではすぐに実行、とはいきません。会社分割のメリットやデメリットをしっかりと把握しておかないと、かえって悪影響を及ぼしかねません。

メリット

買い手側、売り手側双方にメリットがあります。買い手側のメリットは事業拡大の効率化の観点で、売り手側には自社の組織体制の改善の観点でのメリットが期待できます。

優れたコストパフォーマンス

会社分割の場合、買い手企業は対価として自社の株式を発行することになります。つまり買収にかかわって最も費用がかさむ買収資金を用意する必要がないわけです。

買い手企業が売り手企業の経営権を取得する株式譲渡や、事業とそれに関わる資産を取得する事業譲渡の場合、対価は一般的に現金です。この買収にかかわる資金を自前で準備できなければ借り入れを用いることになり、債務面でのリスクを抱えることになります。

会社分割は組織再編と見なされるのもコスト面で有利です。適格組織再編と判断されれば法人税で優遇されますし、売買ではないので消費税も発生しないのは大きなメリットです。条件によっては保有資産の含み損益を計上することも可能です。

比較的容易な手続き

会社分割は事業譲渡とは違って包括承継となります。事業にかかわる契約や従業員との雇用契約などもそのまま引き継がれます。

規模の大きい事業譲渡となれば、それにかかわる資産について個別に承継する手続きが必要ですし、許認可申請の手続きや雇用関係維持のための労働契約の締結など、手続き事務は膨大なものになります。会社分割ではこの部分を省くことが可能です。

会社分割の場合は、雇用契約も個別の同意を得る必要なく継続できますので、労力は大きく節減できます。ただし、従業員の意に沿わないような大幅な異動などがあると、異議申し立てを受けるリスクがあることには注意が必要です。

見通しの持ちやすいシナジー

買い手企業は、売り手企業の特定の事業に魅力を感じて会社分割によるM&Aを行いますが、成果をできるだけ迅速に獲得したいと考えます。その点で会社分割は大変有利です。

手に入れた事業は、そのまま継続して展開されていくため、すぐに結果が得られます。事業を買収したことによる相乗効果(シナジー)も、高い妥当性を持って見通せるわけです。

特に新規事業として買収を行う場合、本来必要となる人材育成や販路獲得などのステップを大幅に短縮でき、買収直後から事業展開ができることも大きなシナジーにつながります。

リスクの分散

会社分割は、企業を分社化する行為です。組織再編のために会社分割を選択した場合、採算性の低い部門の低迷によって、会社全体の経営が悪影響を受けることを回避できます。最悪の場合、倒産に至るようなリスクがあっても、その被害を最小限にとどめられるわけです。

分野ごとに分社化すれば、新事業への参入などを考える分野では専門性を上げられて、リスクの及ぶ範囲が限定されることからある程度のリスクのあるチャレンジもしやすくなる可能性があります。

組織のスリム化

組織の肥大化は、事業拡大による弊害の一つです。企業規模が拡大し、事業が多角化していくこと自体は決して悪いことではありませんが、事業数が増えるほど各事業を担当するリーダーの考え方のすり合わせが必要になり、根回しにばかり時間を取られるような事態もあり得ます。

そんな場合、分社化によって事業数を絞り込めれば、リーダー層の意思の吸い上げは迅速になります。それだけ経営者としての意思決定は速くなり、よりスピーディーな経営が実現できます。

後継者育成

後継者として育てたい人物がいる場合、一つしかない会社組織の中では、重要な意思決定をする経験などを積ませることは困難です。このとき、会社分割によって特定の事業を分社化し、後継者候補に経営を任せて資質の涵養を図ることが考えられます。

デメリット

デメリットは潜在的なリスクにかかわるものがほとんどです。特に買い手側は思わぬリスクを背負い込む可能性があります。また、売り手には手続き上の手間ひまが必要な点が挙げられます。

経営体制の不安定化

会社分割によるM&Aの場合、分社化された事業は買い手企業の傘下に入ります。しかし、経営などは買収前のものが継続されていますので、PMI(経営統合)を図らなければなりません。

ただ、売り手側はある程度の独立性を持った経営を継続しているわけですから、スムーズに買い手企業側の人事や経営システムに移行できるとは限りません。このことがPMIの不調につながるリスクとなり得るのです。

また会社分割を行ったうえでのM&Aでの過程で、買い手企業や売り手企業に企業イメージを毀損するような事態が生じた場合、連動しあってそれぞれの企業価値を下げてしまうリスクも考えられます。

隠れたリスクの発覚

会社分割によるM&Aでは、売り手企業の特定事業を分社化したものをまるごと承継することになります。これは簿外債務の存在や訴訟可能性の潜在などリスクも引き受けることを意味します。

事業譲渡であれば、こうした顕在化していないリスクを引き受けることはありません。こうしたリスクが買収後に発覚すれば、買い手側の大きな負担となることがあり得ます。不良在庫の滞留や、回収不能の売り掛け金など、リスクとなるものがないかを確実に把握するためのデューデリジェンスを徹底的に行う必要があります。

株価下落のリスク

買い手企業が上場企業の場合、株式は対価として分割会社に移転します。そうなると、1株あたりの利益が減少してしまう場合があります。これは株価の下落につながるもので、企業価値を減損するリスクがあり、会社分割におけるデメリットの一つです。

また買い手企業が非上場である場合、売り手企業や株主が獲得した株式の現金化が難しくなる点も注意しなければなりません。定められた条件を満たさない場合は、債権者保護の手続きを要することもあります。

株主構成の変更リスク

買い手企業の株式は対価として分割会社、またはその株主に移転します。つまり、買い手企業の株主の構成は大きく変化することになります。

場合によっては、新たな株主の参入により、経営権への影響力も変わってくる可能性があり、これは大きなリスクとなり得ます。

許認可が承継できない可能性

会社分割は許認可なども一緒に承継できるのが強みなのですが、一部の事業に関してはこれができない場合があります。

例えば、旅行業や理容業における承継許認可を引き継ぐことはできても、ホテルや旅館業、貸金業はM&A後に改めて許認可を取得する必要があります。許認可を再度取得する必要がある場合、会社分割によるM&Aのメリットが得られず、その効果を発揮できなくなります。

株主総会の同意が必要

会社分割は会社の組織再編を行うことになります。これは株主総会の特別決議に付す必要がある行為です。株主総会における特別決議は、一般に半数以上の議決権の定足数を満たしたうえで2/3以上の賛成が必要です。

つまり、株主の持つ議決権数のうち1/3以上を確保しておかないと、そもそも会社分割は行えなくなってしまいます。株主の利益が認めにくい場合には、一層実行は難しくなることが予想されます。

煩雑な税務

分割は税法上優遇される可能性があることは解説したとおりですが、その取り扱いは非常に複雑です。

例えば適格組織再編なのか非適格組織再編なのかという判定は、法人税の優遇面で大きな差異が生じますが、判定を望ましい方向に持っていくのはかなり高度な専門的知識が必要です。繰越欠損金や保有資産の含み損益についての税務処理も煩雑で、専門家である税理士でも容易ではありません。

時間を要する

相対的には手続きが少なく、資金も必要としないのが会社分割ですが、それでもすぐに実行とはいきません。上場企業なら株価は明確ですが、非上場の中小企業などでは、国税庁発表の類似業者等との比較から株式評価を計算するので、それだけでもかなりの時間を要します。

また会社分割により登記などの手続きが必要であったり、株主総会の運営に関わる事務手続きが発生したり、労力と時間はどうしても割かなければなりません。

会社分割の手続き方法

会社分割の手続き方法

会社分割は会社法に厳密に規定された法的な行為です。したがってその手順は厳正に行われる必要があります。吸収分割と、新設分割の場合で同様に行われる部分も多いのですが、一通りの流れとして解説します。

吸収分割の場合

吸収分割の場合は、M&Aと同様に売り手である分割会社についての買い手企業によるデューデリジェンスや条件交渉なども必要ですが、ここではあくまでも会社分割にかかわる手続きに限定して解説します。分割会社、承継会社がともに必要になる手続きもありますが、分割会社の方が手続きは多いので、的確に手順を進める必要があります。

1.基本合意、取締役会の承認

分割会社と承継会社の間で会社分割によるM&Aを行う場合、両者の間で基本的な条件に関する合意が必要となります。この合意内容は引き続き作成される吸収分割契約につながっていくものですので、詳細な内容まで詰めておかなければなりません。

また、この段階で取締役会設置会社においては、取締役会での承認を得ておく必要があります。

2.分割契約

会社分割に関する内容を取締役会の承認を経たうえでまとめ、会社分割契約書を取り交わします。

契約書の記載内容については、会社法757条、758条に規定があるので、遺漏なく作成する必要があります。具体的には次のような内容が記載されます。

  • 分割会社および承継会社の商号
  • 承継する分割会社の資産、債務、雇用契約その他の権利義務に関する事項
  • 承継会社が交付する株式等の対価に関する事項
  • 効力発生日

原則的には契約書の内容に沿ってこの後の手続きが進行するので、合意事項が正確に盛り込まれるよう注意しなければなりません。

3.契約書等の事前開示

会社分割に関する契約書等の書面は、分割会社の登記上の所在地(一般に本店)へ据え置くことが会社法782条、794条に規定されています。据え置き期間は吸収分割の効力発生後6カ月となっていますが、効力発生日については、株主総会開催日の2週間前、株主または債権者への公告、通知または催告のどれか最も早い日となります。

4.従業員への通知

会社分割に関して、雇用契約が承継される従業員に対して通知し理解を得ておく必要があります。これは「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働承継法)」に規定された法的行為です。

通知の時期は、株主総会の開催日の2週間前(すなわち一般に関係書類開示日)の前日と規定されています。具体的な通知内容は、分割の時期、分割される事業の内容、分割後の従業員の就業場所及び業務内容などが必要とされます。

5.株主総会

分割会社、承継会社ともに分割契約の効力発生日の前日までに株主総会を開き、会社分割に関する決議を得なければなりません。一般的に組織再編にあたる決議ですので、分割することについてを含めて開催の1週間前(公開会社は2週間前)までに通知し、株主への根回しが必要です。会社法309条2項12号、783条、795条にその規定があります。

簡易組織再編にあたる場合、株主総会の決議を省略できます。分割会社においては、分割に伴う移転資産の帳簿価額が、最終の貸借対照表における総資産の2割以下の場合がこれにあたります。(会社法784条3項)

承継会社においては、吸収分割に伴って対価として交付する株式の帳簿価額が、会社の純資産の2割を超えない場合が該当します。(会社法796条3項)ただし、株式分割によって差損が生じる場合や、非上場の企業が対価の一部または全部として譲渡制限株式を交付する場合は、株主総会決議は省略できません。(会社法796条但書)

略式組織再編にあたる場合も規定があります。吸収分割で、承継会社が株式特別支配会社(分割会社の9割以上の議決権を保有している)である場合、分割会社における株主総会決議を省略できます。(会社法784条1項、796条1項、468条1項)

ただし、分割の対価の株式の一部または全部が譲渡制限株式であり、分割会社が公開会社で、かつ種類株式発行会社でないときは、この規定から除外されます。(会社法784条1項但書)

6.株式買取請求

会社分割に反対する分割会社や承継会社の株主について、株主買取請求権についての原則書面による通知を実施して、その株式を買い取れます

該当する株主は、分割契約の効力発生日の20日前から前日までの期間に、それぞれの会社に公正な価格で持株の買取を請求できます。これは会社法785条、797条に規定されています。

7.債権者保護の手続き

会社分割は、分割会社、承継会社それぞれの債権者にも不利益を与える可能性があります。会社法789条、799条には債権者を保護するための異議申し立ての手続きについて規定されています。

分割会社と承継会社は、分割契約の効力発生日の1カ月前までに、一定の債権者に対して異議を申し立てられることを官報で公告するとともに、知れたる債権者には各別に催告しなければならないと定められています。(ただし、公告が官報以外に定款に規定された時事日刊新聞、または電子公告でも行われる場合は各別の催告は省けます)

これにも例外規定はあり、分社型分割(承継会社の株式が分割会社に交付される、物的分割)の場合、吸収分割後も分割会社に債務弁済を請求可能な債権者については保護手続きを要しないとされています。(会社法798条1項、810条1項)

債務保護手続きが終了していないと、分割登記の日から6カ月以内であれば、債権者は会社分割無効の裁判を起こすことが可能になります。

8.変更登記

分割会社、承継会社ともに分割契約の効力発生日に、対象となる資産や権利義務が承継会社に引き継がれることを確認します。そしてこの日から2週間以内に双方とも登記の変更手続きが必要です。(会社法923条)

分割会社は資本減少に関する登記が必要です。その事実を証明する書類と代表者となる役員等の印鑑登録証明書の提出が求められます。承継会社は、逆に資本増加に関する登記となり、会社分割契約書などの関係書類、債権者保護手続きの証明などを提出することになります。

9.分割に関する書類の事後開示

会社分割に関する契約書などの書面は、効力発生後6カ月据え置く必要があることはすでに述べました。したがって、契約完了し譲渡の事実とともに登記変更が終わったことなどを含めて、事後の経過等も明示した文書の開示が必要になります。

分割会社と承継会社は共同的にこれらの事後開示書類を作成し、それぞれの本店(登記上の企業所在地)に備置しなければなりません。(会社法791条、801条)

新設分割の場合

新設分割の場合、会社分割が終了し新設会社の設立が完了するまで、譲渡対象が存在しない分、手続きは吸収分割に比べてややシンプルです。

とはいっても株主への対応や債権者保護の手続き、従業員への通知など、共通して必要であり慎重を要する手続きもありますので、やはり慎重な進捗が肝要です。

1.取締役会での決議

新設分割の場合、あくまでも分割会社内での組織再編の意思の確認が重要です。なぜ会社分割を行うのかという組織再編上の目的を明確にして、取締役会設置会社においては、取締役会での決議を経る必要があります。

2.分割計画書の作成

新設分割では、譲渡する相手が存在しないわけですから、会社分割契約を締結する必要はありません。しかし、先に述べた会社分割の目的や、新設会社の概要を明確にするために、分割計画書を作成します。分割計画書には次のような事項が記載されます。

  • 新設会社の商号、所在地
  • 新設会社の目的、発行可能株式総数
  • 定款に定める内容
  • 役員の氏名や名称
  • 新設会社へ承継される資産や権利義務等について
  • 分割型分割にかかわる取り扱いについての事項(分割型分割による場合)

この分割計画書は、会社分割のロードマップとなると同時に、情報開示や登記などの際の提出書類ともなるものですから、内容をよく吟味して作成する必要があります。

3.計画書等の事前開示

会社分割にかかわる書面等を事前開示しなければならないことは、吸収分割と同様に規定されています。(会社法782条、794条)分割計画書等を分割会社の本店(登記上の所在地)に備置します。特に「ほかの当事会社の計算書類である貸借対照表や損益計算書などに関する事項」は重要なので留意してください。

据え置きの期間や開始時期等は吸収分割の際と同様ですが、効力発生日に関して、新設会社の設立をもって効力の発生とする点が異なっています。

4.従業員への通知

新設分割においても従業員の配置や処遇等に変更があり得るわけですから、労働承継法に基づく従業員への通知は必要です。通知の時期や内容については、吸収合併と同様となります。

5.株主総会

分割会社では分割契約の効力発生日(つまり新設会社の設立日)の前日までに株主総会を開き、会社分割に関する決議を得る必要があります。これも吸収分割と同様で、特別決議となるため、会社法の規定に従い株主への開催通知などを経て、厳正に行われなければなりません。(会社法309条2項12号、783条、795条)

この場合も、分割会社において分割に伴う移転資産の帳簿価額が、最終の貸借対照表における総資産の2割以下の場合は簡易組織再編となり、株主総会の議決を要しません。(会社法784条3項)

6.株式買取請求

会社分割に反対する株主は、新設会社の設立の20日前から前日までに、公正価格による株式の買取請求ができます。分割会社は、株主買取請求権について原則書面で通知しなければなりません。(会社法785条、797条)

7.債権者保護の手続き

新設分割によって、分割会社の債権者は、新設会社に適正に債務が移行されるかなどの点で不利益を受ける恐れがあります。分割会社は吸収分割と同様の期間や方法で公告や催告を行うことが義務付けられています。(会社法789条、799条)保護手続きを要しない例外規定も同様です。(会社法798条1項、810条1項)

8.登記申請

新設分割では、新設会社の設立をもって会社分割契約の効力発生日となります。つまり登記をもって契約が完了することになります。

分割会社に関しては吸収分割と同様ですが、新設会社は会社の新規の登記となります。

分割計画書や定款など会社の設立にかかわる書類、債権者保護にかかわる書類のほか、必要に応じて代表取締役の選定や役員の就任承諾、各役員の印鑑登録証明、本人確認などにかかわる書類、さらに分割会社で会社分割が承認された事実を証明する株主総会議事録、資本金の額を証明する書面(会社法の規定に従って計上されたもの)などの提出を求められます。

9.分割に関する書類の事後開示

新設会社が設立されて以降、6カ月の間、分割会社と新設会社双方の本店(登記上の所在地)に契約書を含む、会社分割にかかわる書類を据え置かなければなりません。(会社法791条、801条)契約書などはこの段階で正式に備置されることになりますので、関係書類を含めて分割会社、新設会社共同で遺漏なく書類を整備する必要があります。

労務契約の承継にかかわる手続き

労働承継法は、会社分割に伴う労働者の保護を目的とする法律です。会社法の原則に従えば、分割契約において労働者等と締結する労働契約が盛り込まれた場合、労働者の意思にかかわらず強制的に承継会社に移籍させられます。こうした場合に労働条件が維持されるように特例的に規定することがその趣旨です。

この法律によって規定される労務契約の承継にかかわる手続きは次のようになります。

労働者全体の理解と協力

分割会社では、「会社分割の背景と理由」「効力発生日以降の債務履行に関する事項」「労働者が主たる従事者かどうかの判定基準」「労働協約の承継」「問題発生時の解決手段」について、労働組合との協議の形などを通して説明、理解と協力を求めます

労働者に対する事前協議

分割会社は、株主総会の2週間前の日の前日までに、「分割後勤務する会社の概要」「分割事業の従事者にあたるかどうか」「労働契約承継の可否」「分割後の業務内容等」について労働者に説明、協議します。ただし個別の同意までは必要としません

労働者への事前通知

分割会社は、分割契約で労働契約が承継されるとしている労働者に対して、株主総会の2週間前の日の前日までに、「労働契約が承継されることの契約書への記載の有無」「異議の申し出期限」「主たる従事者か、従たる従事者かの判定」「承継事業の概要」「分割、承継会社の名称」「効力発生日」「業務内容等」「分割、承継会社の債務履行見込み」「異議の申し出手続きに関する事項」について書面で通知します

労働組合への事前通知

分割会社は、対象の労働組合に対して、株主総会の2週間前の日の前日までに、「労働協約が承継されることの契約書への記載の有無」「承継事業の概要」「分割、承継会社の名称」「効力発生日」「分割、承継会社の債務履行見込み」「労働契約が承継される労働者の範囲」「承継する労働協約の内容」について書面で通知します

異議の申し出

主たる従事者で労働契約を承継することが分割契約書に記載されていない者は、異議申出により契約の承継を求められます。また従たる従事者で労働契約を承継することが分割契約書に記載されている者は、異議申出により契約を承継しないことを求められます。異議の申し出は、事前通知の日から、少なくとも事前通知から13日以上経過した日をもって定められた期限日までの間に行われます

会社分割にかかる税金

会社分割にかかる税金

会社分割は税制上の優遇があることはメリットの1つです。対価として株式が用いられるため、消費税なども生じません。しかし税金がまったくかからないわけではありません

ここでは主に3つのポイントで、会社分割にかかわる税金について解説します。

繰越欠損金

分割会社に欠損金があっても、会社分割に伴って引き継ぐことはできません。会社分割を繰り返し欠損金を引き継ぎ続けて、わざと赤字を計上して納税を回避しようとすることを防ぐためです。

承継会社に欠損金があっても利用制限される場合があります。100%子会社でも5年以内の買収企業、100%子会社でも50%未満のグループ企業、含み益が欠損金より大きい企業、の3つの場合です。ただし、事業関連性、規模、規模継続、経営参画の4つの要件で「みなし共同事業」と見なされた場合は、利用制限されません。

法人住民税

法人住民税の額は、基本的に資本金の額で料率が定められています。会社分割においては、分割会社は資本が減額し、承継会社は移転を受けた純資産額も関わってくることになります。

地方税法では、法人住民税均等割の税率区分の基準として資本金よりも資本金に資本準備金を加えた額が上回る場合、後者を基準とする規定があります。つまり承継会社は、資本金に資本準備金を加えた額が基準となるため、均等割の負担料率は上がることになります。

不動産取得税

会社分割によって生じた不動産取得は課税の対象となります。しかし、次の要件をすべて満たす場合は非課税となります。

まず、分割が分割型分割で株主に株式が交付され金銭の授受がなく、次に資産や負債が承継会社に移転しており、さらに事業が承継会社に引き継がれることが見込まれ従業員の8割以上の雇用が維持されていることが決定している場合です。

会社分割における税務上の留意点

会社分割における税務上の留意点

会社分割において、適格分割か非適格分割かによって税制上の措置は大きく変わってきます。適格分割とは次の3つ場合において、すべての要件を満たす必要があります。

  • 会社分割の実行前後で100%の完全支配関係が維持され、金銭の支払いがないこと
  • 会社分割の実行前後で50%を超える支配関係が維持され、金銭の支払いがなく、資産や負債、約8割を超える従業員、および事業の承継が見込まれていること
  • 共同事業を行い、上記の要件のほか事業に関連性があり、発行済株式の8割以上を保有し続けることなどが見込まれていること

非適格分割の場合、分割対象となっている資産や負債は時価で移転すると見なされ、分割会社に移転損益が計上されてしまいます。また承継会社においても引当金や繰越欠損金の引継ぎはできなくなります。(繰越欠損金の引継ぎは、適格分割であっても分割会社が全事業を引き継ぐ消滅分割の場合のみ、などの制限があります)

また非適格分割が分割型分割で実行された場合、分割会社の株主にみなし配当課税が生じる点も注意が必要です。すなわち、分割で交付された承継会社の株式等の価額で、分割前の分割会社の資本金等の払い戻し相当を超える部分は、分割会社の株主への配当と見なされ課税されてしまうのです。

会社分割の事例

会社分割の事例

会社分割は、グループ企業における組織再編などを目的とするM&Aなどでは非常に効率的な手法となります。ここではそんな事例を2つ紹介します。

楽天グループ

今やモバイル事業で大躍進を遂げている楽天グループですが、そのきっかけとなったのが合同会社のDMM.comの事業承継を受けたことでした。DMM.comが運営するMVNO事業である「DMM mobile」と高品質のインターネットサービスをフレッツ光を利用して提供していた「DMM光」の会社分割による譲渡です。このときの対価株式の交付は約23億円に及びました。

この事業承継によって、楽天グループは国内契約数トップの座を得て、この分野での事業規模の拡大に成功しました。グループ内でも、親会社である楽天のポイント事業と関連付けて、顧客獲得につなげました。グループ企業としての吸収分割による事業拡大の成功例といえるでしょう。

ソフトバンク

ソフトバンクはM&Aにより事業拡大を繰り返してきた印象ですが、必ずしも事業承継を受けるばかりではありません。

ソフトバンクは自社のコンテンツサービスの配信事業であるアニメ専門の「アニメ放題」という事業を、株式会社U-NEXTに事業承継しました。これはソフトバンク側の事業を会社分割し、U-NEXT側が承継会社としてこれを引き継ぐ吸収分割の事例となります。U-NEXTからソフトバンクに交付された株式は2億5,000万円に上ります。

自社のスリム化を目指す組織再編と、事業を承継することによる事業拡大のニーズが合致する会社が結びついた成功事例です。

会社売買・M&A相談ならウィルゲートM&A

会社売買・M&A相談ならウィルゲートM&A

会社分割は、税務上や労務上の取り扱いが煩雑で、遺漏のないように手続きを進めるのはなかなかにハードルの高いM&Aの手法です。こうした手続を進めるには専門家のサポートが欠かせません。

M&A仲介会社として30件近い成功実績を持つウィルゲートM&Aは頼りになる専門家といえます。成功事例を多く持つ経験をもとに、最終的な譲渡に至るまでの全プロセスを確実にサポートできます。

会社分割 まとめ

会社分割 まとめ

会社分割は、比較的少ない資本で、迅速な事業展開につなげられるM&A手法であることを見てきました。適格組織再編などの条件整備を確実にすることで、税制上のメリットも大きく、売り手、買い手双方にとって利益の最大化を図り得る手法といえます。

しかし実際に進めていこうとすれば、自社の求めるニーズとこの手法が合致しているかなど、そもそものところから疑問は多いのではないでしょうか?

そんなときは、着手金無料の完全成功報酬制で安心のウィルゲートM&Aの無料相談をぜひご利用ください。

ウィルゲートM&Aでは、9,100社を超える経営者ネットワークを活用し、ベストマッチングを提案します。Web・IT領域を中心に、幅広い業種のM&Aに対応しているのがウィルゲートM&Aの強みです。M&A成立までのサポートが手厚く、条件交渉の際にもアドバイスを受けられます。

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