会社の廃業というと、債権者が債務返済を迫って鬼気迫る様相に…という修羅場が思い浮かぶ方もいるのではないでしょうか。しっかり準備し粛々と手続きを進めることで、きれいに会社をたたむことが可能です。
この記事では、会社の廃業手続きの流れや方法、ポイントなどについて解説します。
会社の廃業とは、自らの意思を持って会社をたたむことです。会社を消滅させるという意味で、会社を解散するということもあります。いずれにせよ、法律上は会社の法人格を消滅させることを意味します。一般的には、会社の業績悪化や後継者がいないことにより存続困難と判断された場合などに行われます。
同様に会社の法人格を消滅させる行為に「破産」がありますが、こちらはやむを得ない事由により自己の意思に反して行う行為です。2つの違いは、自ら意思を持って行うかどうか、という点です。
会社はいつでも廃業できるわけではありません。もしそうだとしたら、会社に資金を融通している金融機関や取引先の会社はたいへん困ることになります。廃業する会社は、債権者を保護する手続きや、借入金や未収入金、売掛金などの債権や債務の対応、清算結了登記などの「清算手続き」を経て、会社の関係者を法的に保護したうえでなければ廃業できないのです。会社がその事業を停止させたとしても、会社としての法人格が消滅するわけではないことには注意しなければなりません。
会社法第471条、第472条には、会社の廃業(解散)の要件を7つ挙げています。
会社の存続期間をあらかじめ定款に定めていた場合にその満了日の翌日に解散します
例えば代表者の年齢など、あらかじめ定めておいた解散理由が発生した場合に解散します
株主総会で解散が決議された日に解散となります
吸収合併により消滅会社となれば解散します
裁判所へ申し立てて破産手続きが開始した時点で解散します
裁判所から解散を命じられれば解散となります
最後の商業登記から12年を経過した会社を休眠会社といい、会社は解散したものと見なされます。この会社が法務局からの通知を受けて、期限内に事業廃止をしていないことの届け出をしないと、登記官の職権で会社の解散登記が行われます。ただし、その後3年以内に会社継続の手続きをすれば継続が可能です
会社を廃業するには、関係者の保護を行うことのほかにも、従業員などへの通知や関係各機関への届け出など、しなければならないことが山ほどあります。これらを落ち度なく進めるには、一定の手続きに沿って適切に進める必要があります。ここではその一連の流れや具体的に行うことなどを解説していきます。
手続きを完遂することを考えると、少なくとも数カ月前に営業終了日を決定する必要があります。決定を受けて従業員や取引先に廃業について通知します。取引先などには、廃業の予定、感謝の意などを伝える廃業挨拶を送付しておくことが望ましいでしょう。この通知は書面で行い、廃業の理由を明らかにする必要はありません。
会社の廃業は経営に関する一大決定ですから、当然に株主総会での議決を要します。廃業に関する事案は特別決議ですから、議決権株式の過半数の定足数を満たした上で、2/3以上の賛成が必要となります。(株主総会を書面で代える場合には株主全員の賛成が必要になります)
同時に清算人の選任についても議決されます。清算人は今後の廃業手続きを進める役割を担います。一般的には取締役や代表取締役がそのまま清算人、及び代表清算人となります。そのほか、弁護士や取締役以外の経営に関わりの深かった者から選任されることもあります。
株主総会で廃業と清算人についての決議を得られたら、2週間以内に本店所在地を管轄する法務局に解散登記と清算人選任登記を行います。清算人は申請書など各種書類を揃えて提出しますが、弁護士に代行させることもできます。解散登記には、商号や本店の所在地、解散する旨と事由、及び年月日を明らかにします。登記によって、廃業に向けた手続きが始まっていることを、第三者も知ることが可能になります。
清算人は、財産目録と貸借対照表を作成します。これは会社が現在保有している資産などを、株主が把握できるようにするためです。資産は帳簿価額ではなく、処分価額で計上する必要があります。作成された財産目録と貸借対照表は株主総会における承認が必要です。
管轄されている税務署や都道府県税事務所、市区町村役場などの担当部署に対して、税務上の解散届となる異動届出書を提出します。税務署に給与支払事務所等廃止届を提出するなど、必要な書類は漏れなく揃える必要があります。従業員を解雇する場合は、雇用保険に関しては労働局(ハローワーク)、労働保険を管轄する労働基準監督署、社会保険については社会保険事務所や年金事務所、被保険者を管轄する協会けんぽなどにも届け出なければなりません。また事業にかかわって許認可等を得ていた場合には、その管轄官公署へも廃業届が必要です。さらに、商工会議所や各種の業界団体等の加入団体、会社として利用している各種のサービス(電気や通信など)についても時期を見て連絡する必要があります。
それぞれの届け出に必要な書類やタイミングについては、各団体等のWebサイトなどで確認し、錯誤のないようにしましょう。
解散公告は、国が発行する広報や法律交付などを知らせる官報で行うことが会社法で規定されています。全国にある官報販売所で申し込み、掲載までは1週間ほどを要します。公告は会社が把握できていない債権者の保護を目的とし、債権者に対して一定期間のうちに債権を主張するよう通知するもので、2カ月以上掲載しなければなりません。この期間を過ぎて債権の返還を主張することはできなくなります。また、この掲載を終了するまでは廃業手続きは進められないので、早めの対応が必要です。
会社が把握できている債権者には個別の催告が必要です。これらの手続きをまとめて債権者保護手続きと呼びます。
会社を解散した事業年度の解散確定申告は、解散日の翌日から起算して2カ月の提出期限があります。会社が解散した事業年度の所得に対しては、法人税の申告が必要です。この時点で会社の財産目録や貸借対照表などを揃えて、解散時における決算書を作成しておきます。この決算書は株主総会の承認を得る際や、清算手続きを進める資料などとして使用されます。
会社に残存している資産や負債を調査して処理することを清算といいます。まず会社が持っている売掛金や未収入金などの債権の回収を行います。また固定資産や棚卸資産など資産としての価値があるものは売却します。これらによって帳簿上の全資産を現金化します。この現金を使って買掛金の弁済や借入金の返済など債務の処理を行います。また債務返済は、原則的に解散公告の期間が満了するまでは行えません。債権の主張が前後したことによって不公平が生じるのを防ぐためです。もしも現金化した資産をもってしても債務を処理しきれない場合は、破産の手続きなどに移ることになります。清算後、残余財産がある場合は株主に分配します。
清算が終了した段階で、決算報告書を最終的に確定した内容でまとめ、株主総会での承認を受けます。この承認をもって清算結了となります。この時に会社の法人格は消滅しますが、まだ手続きは終わっていないので注意が必要です。
株主総会で決算報告書の承認を受けてから2週間以内に、法務局において清算結了登記を行います。支店がある場合は、その所在地においても清算結了登記をする必要があります。これをもって株式会社としての登記記録が閉鎖され、登記簿が閉じられます。つまり、会社の解散登記によって始まった解散手続きが終了し、廃業したことが登記上でも確認可能な状態になるわけです。
会社廃業までの手続きを見ておわかりのとおり、そのプロセスの多くの場面でさまざまな書類が必要になります。ここでは、手続き上提出を求められる書類について見ていきます。
一般に、個人事業主が廃業を考える場合、必要になる書類は以下のとおりです。各都道府県税事務所関係や個人的な書類を除いて、書式等は国税庁のWebサイトからダウンロード可能です。
廃業届 | 個人事業開業届出と同じひな形になっています |
各都道府県税事務所などへ提出する廃業についての届出書類 | 各都道府県事務所等のWebサイトで必要書類や提出期限の確認が必要です |
事業廃止届出書 | 課税事業者が廃業する際に必要です |
給与支払事務所等の開設、移転、廃止にかかわる届出書類 | 給与支払者が廃業する場合に、廃業日から1カ月以内に所轄税務署長に提出します |
所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 青色申告を行っている場合に必要です |
所得税および復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続きにかかわる書類 | 廃業年の6月30日時点で予定納税額の基準額より申告納税見積額が下回る場合や、10月31日時点で減額承認後の申告納税見積額より申告納税見積額が下回る場合に必要になります。提出期限は第1期分と第2期分をまとめる場合は7月1日~15日、第2期分のみの場合は11月1日~15日です |
マイナンバー | マイナンバーカードがない場合、通知カードや住民票記載事項証明などマイナンバー記載の書類が必要です |
本人確認書類 | 運転免許証、パスポートなどを使います |
会社を解散する場合は、さらに多くの書類が求められます。上記のほか、税務署に提出するものを挙げます。
異動届出書(解散届) | 提出期限は特に定められていないが、解散後できるだけ速やかに行うこととされています |
履歴事項全部証明書の写し | 会社の登記について証明する書類です |
解散事業年度における確定申告書 | 事業年度開始日から解散日までの確定申告となります。解散日の翌日から2カ月以内に行います |
清算中の確定申告書 | 清算中、解散日の翌日から1年ごとを1事業年度とみなし、各事業年度末日の翌日から2カ月以内に各事業年度における確定申告を行う必要があります。ただし、解散日の翌日から1年以内に清算結了した場合は必要ありません |
異動届出書(清算結了届) | 清算結了登記の完了を届け出るものです |
会社を解散して廃業するのにかかる費用は主に登記費用、官報への掲載料、手続費用、専門家への手数料などが考えられます。その他にも関連して経費を要するものも考えられますので、ここで挙げていきます。
解散、廃業にあたって必要な登記は3種類です。それぞれにかかる費用の内訳は次のとおりで、合計は41,000円となります。
官報に解散公告を掲載する際に掲載料が必要になります。これは1行(22字)あたりの単価が定められており、何行分になるかで決まります。一般に会社解散の公告には11行程度が必要となりますので、金額は「3,263円(1行単価)×11行+消費税=39,482円」と求められます。これには原稿作成料や代金の送料も含まれています。行数にもよりますが3万~4万円が必要となります。
会社解散を進めるうえでは、手続き上の事務経費や書類の発行手数料も必要です。株主総会を開催するとなると、費用として数万~数十万円が必要になります。また手続きに伴う添付書類の取得費用として、例えば登記事項証明書は数千円の発行手数料を求められます。
解散の手続きを進める際の書類作成は、高度な専門知識を必要とし、記入ミスなどは許されません。当然に司法書士や税理士など、専門家に作成を依頼することが考えられます。会社の規模や依頼内容にもよりますが、数万~数十万に及ぶ手数料が必要です。また債務整理や従業員との交渉など、法的な行為が必要な場合は弁護士への依頼なども考えられます。
例えば、司法書士に登記手続きを依頼した場合には8万~12万円程度、税理士に税務申告を依頼した場合には8万~数十万円程度を支払う必要があります。
会社の廃業に伴い、会社の施設設備、事務所などを整理することにも経費は発生します。売却などができなかった設備備品は処分することになります。設備の種類や規模などによって違いますが、トラック1台分で数万円程度の費用は想定しておきましょう。また、事務所等が賃借だった場合は原状回復費用も必要になります。坪当たり数万~10万円程度がかかるとされますので、広い事務所などを使っていた場合、その費用は馬鹿になりません。
会社の廃業をするには、最低でも2カ月を要します。これは官報の解散公告の掲載期間が最低2カ月であることによります。会社の清算がどんなにスムーズに進んだとしても、これ以上速く清算結了して廃業を完了することはできません。
実際はどうかというと、固定資産の売却に手間取って清算手続きが進まなかったり、把握しきれていない債権者が予想以上に多くて債務の弁済に相当の時間を費やしたりして、思ったよりも時間がかかることがよくあります。大規模な会社の廃業の場合、はじめから数年単位でのスケジュールを組んで臨むこともあります。
会社を廃業することは、それが完了した時点で会社に関わるすべてが終わるわけなので、きちんと片を付ける意味でも清算は重要です。その清算を進めるうえで、注意すべきことを2つ挙げておきます。
会社の全資産を換価したうえで債務を処理し、それでも残った財産を残余財産と呼び、株主に分配することはすでに述べました。ところで株主は資本金を出資しています。この残余財産の分配は資本金の返還とは見なされず、株主の所得となってしまうのでしょうか?答えはNOです。残余財産の分配のうち、資本金の出資額に相当する部分については所得とは見なされず、税負担は生じないのです。
ただし、資本金の出資額を超える部分については配当金と見なされます。配当金は所得税の課税対象ですから、株主は確定申告により納税する必要があります。
会社の清算で債務が残ると代表者が肩代わりをするように考えている方もいますが、これは間違いです。もちろんその他の役員や社員にも返済の義務はありません。ただし代表などが会社の連帯保証人になっていれば話は別で、個人による債務の返済が必要になります。
個人が債務を返済する場合、第一の方法は、その返済方法や分割払いなどを債権者と相談することになります。ただし債権者の確認が必要です。会社が金融機関等から債務を負っているとしても、これに保証協会の保証がついている場合、債権者は代位弁済により保証協会になります。またサービサー(債権回収会社)に債務が売却されている場合はサービサーが債権者となることもあります。
第2の方法は、自己破産することです。株式会社の債務を含めて、裁判所に申し立てをします。裁判所の手続きにより、会社の債務を含めて免責されるようになります。
第3は特別清算を使う方法です。特別清算は倒産に近い処理方法であり、裁判所を通して手続きします。この方法によって債権者への支払い義務を免れます。
会社を廃業することはいわば最後の手段です。廃業以外の道はないのか、最も自分の希望に沿った方法は何なのか、よく考えてみるべきです。廃業以外の選択肢としていくつか方法を挙げてみます。
一気に廃業ではなく、ひとまず休業させる方法があります。会社休眠は、税務署や都道府県税事務所、市区町村役場などに異動届出書を提出して休業の届け出を行い、一定の期間、会社の事業などを停止させることをいいます。廃業のように多大な時間と労力を費やす必要はなく、届け出だけで実施可能です。とはいうものの取引先への周知を図ったり、事業を停止させたりするための準備期間がいります。社員がいれば年金事務所などにも届け出が必要です。
また廃業を考えるに至った後継者の問題や経営上の課題が解決したり、社会環境の変化などがあったりして、状況が好転した場合に事業を再開することも可能です。ただし会社休眠の期間が12年を経過すると会社の法人格は消滅してしまいますので、注意が必要です。
会社そのものを他社に承継してもらうM&Aも検討するべき方法です。まず事業そのものが承継され、業績を含めた会社のすべてが失われることはなくなります。そのうえ、そうした業績の部分やノウハウなど、廃業では換価しにくい無形資産も高い価値を生むことがあります。承継する側が企業価値を高く評価することで、負債を含めた全資産を引き受けてもらうことも可能です。また廃業の場合は失職を余儀なくされる従業員の雇用も、事業承継では維持できるので従業員の生活安定に資することができます。
近年では国や自治体でも積極的に推奨している事業承継の手法であるM&Aは、専門的に仲介している会社も多く存在しますので、相談してみると活路が開けるかもしれません。
会社を廃業することは、会社の経営から完全に身を引きたいときにはいい方法かもしれません。しかし、そのためには長い準備期間と多くの手続きを経て、自分の会社の財産を整理していく辛い作業を伴うものです。解説の中でも述べましたが、せっかくの会社の価値を最大限に活かすためにも、M&Aによる事業承継を考えることをおすすめします。そうはいっても、どんな相手に譲ればいいやら、一体何から手を付ければいいやら、と途方に暮れてしまう方もいらっしゃるでしょう。そんなときには、ぜひウィルゲートM&Aへの依頼をご検討ください。着手金無料の完全成功報酬制ですので、無駄な出費になる心配はありません。9,100社以上の経営者ネットワークを持つウィルゲートM&Aなら、あなたの会社の価値を最大限に評価する相手を見つけられることでしょう。
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