株式譲渡・取得の仕訳方法や会計処理について詳しく解説

株式譲渡・取得の仕訳方法や会計処理について詳しく解説
この記事の監修:M&A専門家
四辻 弘樹
S M B C日興証券・みずほ証券の投資銀行部においてM&A、ファイナンス、I P O等に携わる。その後は上場企業のテモナにおいてCSOとして事業戦略、M&A、新規事業開発に従事。現在はM&Aアドバイザリーの他、資金調達支援、IPO支援に加えCFOとしての活動。

株式譲渡は、M&Aでもよく使われる方法です。株式を譲渡や取得した際には、適切な会計処理が必要です。M&Aを検討する場合は、株式譲渡の会計に関する知識も必要です。

この記事では、株式譲渡・取得の仕訳方法や会計基準について譲渡企業と譲受企業の両面から解説します。

株式譲渡とは?

株式譲渡とは?

企業同士の合併や事業継承などM&Aの手法としても一般的に行われるのが、株式譲渡です。株式譲渡は、譲渡する企業の株主が株を譲り受ける企業に50%を超える株式を譲渡することをいいます。半分以上の株を保有することで譲渡企業は、譲受企業の子会社となり譲受企業が経営権を握ります。

株式譲渡では、会社の所有者が変わるだけなので資産や従業員、契約などは今まで通り承継できます。譲渡企業で働く従業員にとって大幅な改変や改悪な条件を課されることなどがないため、M&A仲介会社などからよく提案されるやり方でもあります。

株式譲渡・取得時に行う会計処理の種類

株式譲渡・取得時に行う会計処理の種類

株式譲渡や株を取得したときに行う会計処理の種類について詳しく紹介します。株を売買するときの会計は、譲渡企業、譲受企業それぞれの状況やスキームによっても違います。また、株式譲渡と同じようにM&Aで検討されることが多い事業譲渡の場合の会計処理は、株式譲渡とはまた別になるため、正しい知識を得て正確に処理する必要があります。

個別会計

個別会計処理とは、単独で会社が株式を取得したり、事業を譲渡したりしたときに行う処理をいいます。この個別会計処理は、個別財務諸表に反映されます。譲受企業が株式を譲渡する企業の株式を取得した場合は、譲渡する企業は株式を売却したことになります。譲受企業にとっては株式を取得した処理を行う必要があります。

また、株式譲渡ではなく企業同士の合併の場合は、買い手の企業が吸収する売り手企業を合算した処理を行います。これらのようなケースを個別会計といい、それぞれに処理します。

連結会計

連結会計は、支社や子会社などを含む企業グループ全体を一つと考えて行う会計処理のことをいいます。株式譲渡の場合は、譲渡企業から株式を取得した譲受企業が、株式の売買ではなくグループ全体の利益や取得として捉えて行う処理が連結会計です。

株式を取得することで、買い手企業が譲渡企業をグループの子会社化したり傘下に入れたりした場合は、個別会計処理で株式の取得を処理するのではなく、グループ企業全体としての連結会計処理が必要になります。連結会計の場合は、株式の取得を処理するのではなく、譲渡企業をグループに取り込んだ処理を行います。

パーチェス法

パーチェス法は、連結会計で用いられる考え方です。連結会計では、企業グループに入ったときの時価を基本に譲渡企業の評価をします。譲渡企業がグループの一族になるときの時点の資産や株価、純資産や負債などすべてを換算します。パーチェス法を使用すると、株式譲渡の話し合いをしている時点の時価ではなく、グループに入るときの時価で判断するため、そのほかの売買でのものの価値や評価などに近いやり方となります。

企業結合会計

M&Aを行うときには、企業結合会計というやり方があります。企業結合会計では、企業を合併するときや会社分割するときなどの処理について規定があります。企業結合会計は連結会計の処理と同じになるよう決められているので、整合性を保てます。

会社合併の場合で見ると、企業同士を合併する処理は、グループでの会計処理では株式取得の処理と同じやり方を行い、整合して処理をします。

税務会計

税務会計は、法人税法に基づいて税金の計算を行うものです。株式の譲渡や取得、グループ企業への参入の処理などとは違い、正確な税金を計算して算出します。損益状況や財政状態の把握とは違い、企業が支払うべき税金の金額を決定するものなので、正確な会計情報をもとに計算します。

株式譲渡や譲受などを、適切に仕分けて処理しないと税額が増えてしまう場合もあるので、注意が必要です。

株式譲渡・取得における会計基準

株式譲渡・取得における会計基準

株式譲渡や取得の際には、会計基準をもとに計算を行います。日本の企業の場合は、日本基準を用いて処理しているところが多いですが、中には国際財務報告基準(IFRS)や米国基準をベースに処理する企業もあります。それぞれの会計基準を詳しく紹介していきます。

日本基準

日本基準は、日本の多くの企業が採用している基準です。企業会計原則がベースとなっていますが、世界の動向や社会の状況などに合わせて会計基準は適宜変更されます。会計基準は企業会計基準委員会が設定し、当該基準に基づいて処理されています。日本独自の基準ですが、世界の動向も反映されるため、国際財務報告基準に準ずるところもあります。

日本基準では、株式のような分離して譲渡可能な無形資産が含まれるケースの場合、当該無形資産は識別可能なものとして取扱うと規定があります。分離して譲渡ができるかどうかを基準に判断します。

国際財務報告基準(IFRS)

国際財務報告基準は、国際会計基準審議会が作成した会計基準です。単独の国に適用されるものではなく、世界で比較したり可能性を担保したりできるようにした統一の基準です。ヨーロッパの上場会社では、国際財務報告基準の導入が義務付けられています。

日本基準は、この国際財務報告基準に合わせて改正が行われます。しかし日本基準は、国際財務報告基準と異なる部分もあるため、国際財務報告基準を導入している企業よりも日本基準を採用しているところの方がまだ多いのが実態です。

国際財務報告基準では、資産が分離可能かどうかは関係なく、契約・法律規準から見て契約もしくは法的な権利が生じている場合は識別可能です。契約・法律規準を満たさないケースでも、分離可能性規準から見て分離可能であれば識別可能と判断されます。

米国基準

米国基準は、アメリカで採用されている会計基準です。アメリカで上場している日本の企業や、アメリカで資金調達している企業などでは、この米国基準を用いているところがあります。

日本基準と同じように国際財務報告基準に準じている点は多くありますが、異なる部分もあります。世界で導入できる基準である国際財務報告基準、日本基準、米国基準とそれぞれの内容に違いがあり、企業が自由に基準を選んで導入しているので世界的な統一はまだ難しいのが現状です。

基準間の違い

日本基準、国際財務報告基準、米国基準の大きな違いは、M&Aにおけるのれんがあげられます。のれんは、その企業の持つブランド力や信用力、顧客との関係や技術力、商標権、将来の生産性など、純資産とは別に目に見えない無形の価値をいいます。価値だけではなく負ののれんと呼ばれるものもあり、こちらは買収される会社を純資産を下回るような金額で取得した場合などにいわれます。

この無形の付加価値は、プラスののれんも負ののれんも日本基準では20年以内の期間で償却されますが、国際財務報告基準と米国基準ではのれんの償却はありません

株式譲渡・取得の仕訳方法・会計処理

株式譲渡・取得の仕訳方法・会計処理

株式譲渡の仕分け方法や会計処理について詳しく見ていきます。

譲受企業の仕訳方法・会計処理

個別会計上は、譲受企業は、譲渡企業の株式を資産として取得する形になります。譲渡企業の支配権がどのくらい取得できたかによって、株式を計上するときの勘定科目が変わってきます。

議決権の過半数を取得した場合や、議決権が過半数に満たなくてもほかの大株主と株主間協定を締結し、事実上過半数の議決権を行使できるまで、株式を取得している場合は、子会社株式もしくは関係会社株式という勘定科目で計上します。

また、支配権は取得していなくても議決権の3分の1以上を取得している場合は、会社法で特別決議の拒否権を得られます。さらに3分の1以下の株式取得でも、取締役に誰か派遣したり譲渡企業と出資契約締結を結んだりすれば、譲渡企業に一定の重要な影響力を行使できます。このようなケースの場合は、関連会社株式または、投資有価証券の勘定科目で計上します。

譲渡企業の仕訳方法・会計処理

譲渡企業の会計処理は、計上されていた有価証券は控除され、譲渡された金額は債権または現預金で処理されます。譲渡した対価と取得した原価の差を計算し、売却損益として処理します。

譲渡企業が連結財務諸表を作成していた場合は、連結上の簿価と譲渡の対価の差が売却損益となります。また、個別財務諸表で売却損益として計上されていたものは、連結財務諸表上の売却損益となるように調整します。

税務に関しては、個別財務諸表をベースに取得原価と譲渡対価の差の売却損益に課税されることになります。譲渡企業は、取得原価を勘定科目から控除して株式売却対価との差額を売買損益として計上します。

株式譲渡・取得時の仕訳・会計処理の留意点

株式譲渡の会計処理の注意点をお伝えします。まず株式を譲り受ける際に、子会社にするのか関連会社にするのかを判断する必要があります。子会社としてその株式を譲り受ける場合、支配権があるかどうかで株式取得後の会計上の取り扱いが変わってきます。

子会社の株式として保有する場合は、連結財務諸表を作成します。譲り受けた資産と負債をもう一度時価で評価し直し、その時価純資産価額と取得価額の差額をのれんで計上します。日本基準を用いる場合は、一定期間でのれんを償却します。

事業環境の変化などによって、子会社化する前のキャッシュフローの見積もりよりも50%以上大幅に時価が下落した場合は、子会社の株式の減損処理を行います。減損処理を行うと、その後時価が回復しても戻入れできません。

しかし、5年以内に時価が取得したときの基準まで回復する見込みがあり、事業計画などで証明できる場合は、すぐに減損処理を行わなくてもいいでしょう。

関連会社の株式として保有する場合は、持分法により会計処理が行われます。連結財務諸表を作成する必要はなく、個別財務諸表をそれぞれ作成します。

持分法では、当期に出した関連会社の損益に株式の保有割合を乗じた金額を、投資有価証券の評価増減として記録し反映させます。

株式譲渡・取得の税務処理

株式譲渡・取得の税務処理

続いて、株式譲渡の税務処理について詳しく解説します。

譲受企業の税務処理

譲受企業が相手企業から株式を譲渡されるケースでは、株式取得のときに負ののれんが発生する場合は一括して収益として加え、そのほかの所得と合わせた場合に法人税の課税対象となることがあります。のれんが発生している場合は、償却費用は収益となるため、そのほかの所得と合わせて法人税を支払う義務があります。

株式などの有価証券の譲渡は、消費税法上では非課税の取引なので消費税の課税はありません。

譲渡企業の税務処理

譲渡企業の税務処理は法人か個人かで変わります。法人の株主の場合は、譲渡の価額と譲渡対象となる資産または負債との差額が譲渡益となり、そのほかの事業所得と合わせて法人税が課税されます。譲渡する資産の中に課税対象の資産があれば、消費税も課税されます。

個人の株主の場合は、企業に株式譲渡をした場合は、取得価額と売却価額の差額を譲渡所得として所得税15%、住民税5%が課せられます。そのうえ、2037年までは復興特別所得税2.1%も課税されます。譲渡する価格が時価よりも20%以上安い場合は、時価と譲渡価額との差額が贈与と見なされ贈与税がかかります。

株式譲渡・取得時の税務処理の留意点

税務処理の留意点をお伝えします。まずは、時価を決めるときに公平性を保つことです。M&A仲介会社など第三者の立場の人に入ってもらって時価を判定しましょう。

また、譲渡企業に繰越欠損金がある場合は、原則的に当期以降の利益と相殺できますが、法人税法で赤字の会社を買収することで黒字の買い手企業が租税回避することがきないよう、繰越欠損金の一部は使えないように規定されています。繰越欠損金があるかないかでその後の事業損益に影響が出てきます。繰越欠損金がなくても、譲渡企業に含み損のある資産がある場合も、租税回避目的の合併を防ぐため同様の制限が課されます。

さらに非上場会社が自己株式を取得した場合は、法人が積み立てている利益積立金額と一致するため、みなし配当と見なされ、みなし配当を差し引いた部分を譲渡益として所得税が課せられることがあります。

企業買収・M&A相談ならウィルゲートM&A

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株式譲渡の仕訳 まとめ

株式譲渡の仕訳 まとめ

株式譲渡をする場合、会計上の仕分けや税務処理など複雑な対応が必要になります。通常の業務に支障を出さないためにも、専門的な知識があるM&A仲介会社などに相談するといいでしょう。

ウィルゲートM&Aでは、9,100社を超える経営者ネットワークを活用し、ベストマッチングを提案します。Web・IT領域を中心に、幅広い業種のM&Aに対応しているのがウィルゲートM&Aの強みです。M&A成立までのサポートが手厚く、条件交渉の際にもアドバイスを受けられます。

完全成功報酬型で着手金無料なので、お気軽にご相談ください。

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