会社売却は、愛着ある会社をまるで品物のように売買するイメージがあります。しかし、実際には事業や雇用を維持しながら売却できたり、事業拡大に直結させられたりメリットも大きいスキームです。
この記事では、会社売却について、メリット・デメリットや売却時の相場や売却方法なども合わせてくわしく解説します。
会社売却は、会社を第三者に売買によって譲渡することをいいます。といっても会社そのものを売るというわけではなく、株式を譲渡するか、会社の事業を譲渡するかの2つに大別されます。
会社売却にはさまざまな形式が存在し、それぞれが特定の状況や目的に適しています。主に事業譲渡と株式譲渡の二つの基本的な方法がありますが、これらは異なる法的および財務的影響を持ちます。このセクションでは、これらの売却タイプを詳しく解説し、各々の特徴と適用可能な状況を検討します。
事業譲渡は、会社がその所有する特定の事業や事業部を別の会社に売ることを指します。この方法は、会社が非核心事業を売却して経営資源を核心事業に集中させたい場合や、負債の削減、資金調達のために用いられます。事業譲渡を行う際、事業の資産だけでなく、従業員、顧客情報、さらには特定の契約義務も引き継がれることが一般的です。
株式譲渡は、会社の株式の全部または一部を売却することにより、会社の経営権を移転する方法です。この方式は、全株式または過半数の株式が対象となることが多く、売却後の会社の統治構造に大きな変更が生じることがあります。株式譲渡により、新たな株主が経営戦略を大きく変更する機会を持つこともあり、企業買収の一環としても頻繁に見られます。
会社売却の市場は、経済状況、技術革新、政治的変動によって大きく影響を受けます。最近では、特にデジタル化の進展がM&A市場に新たな動きをもたらしています。ここでは、これらの変化がどのように会社売却の方法や頻度に影響を与えているのか、そして業界ごとの動向や地域的な特徴を明らかにします。
一般的に株式譲渡のほうが事業譲渡よりも相場となる金額は高くなる傾向があります。株式譲渡であれば、その会社の複数の事業をすべて手に入れられますが、事業譲渡では特定の事業部門に限られます。そのため、どうしても株式譲渡のほうが買収価額が高くなりやすいわけです。
非常に簡便に売却相場を求めるには年買法が用いられます。これは「修正純資産+単年度利益×3」で求める方法です。会社にある純資産と3年分の期待される利益を合わせて売却価額の目安とする方法です。
この方法は相場の目安にはなりますが、実際に譲渡の交渉となると少々ざっくばらんすぎます。続いては、代表的な企業価値の算定方法3つを説明します。
コストアプローチは、会社が持つ資産をもとに企業価値を算定する考え方です。代表的なものに時価純資産法があります。会社の資産と負債をそれぞれ帳簿上の価額(簿価)ではなく時価で評価し、資産から負債を減じて時価の純資産額を算出し、これを企業価値とする考え方です。
この考え方では、企業の持つ生産性や将来的なブランド価値などが参入されません。こうした無形固定資産を盛り込んで企業価値を算出する考え方もあります。
具体的には、株式譲渡の場合は時価純資産額に単年度利益と役員報酬の和に2~5年を乗じたものを合算します。事業譲渡の場合は、事業にかかわる純資産額にその事業の単年度利益に2~5年を乗じたものを合算して価値を求めます。
マーケットアプローチは、売却対象の会社や事業と類似した上場企業との比較で企業価値を算定する考え方です。代表的な手法は類似会社比較法です。上場企業は株価として企業価値が明確です。非上場企業では株価で評価できないため、類似事業を行う上場企業の経営指標を利用するわけです。
よく用いられる経営指標はEBITDAです。これは税引前の利益に支払利息と減価償却費を加えて算出します。このEBITDAに対して株価総額が何倍かを示すのがEBITDA倍率です。上場企業において、この倍率が12だったとして、売却対象企業のEBITDAが3,000万円あったとすればその企業価値は「3,000万円×12」で3億6,000万円と見積もるわけです。
インカムアプローチは、売却会社や事業の持つブランド力や超過収益力としての無形固定資産(のれん)を企業価値評価に組み入れようとする算定方法です。代表的なものにDCF法があります。
まず事業計画をもとに任意の予測期間(数年分)のFCF(フリーキャッシュフロー)を求めます。次に割引率(WACC)と残存価値を計算します。FCFにWACCを乗じて、現在価値に割り引き、これと残存価値を合算して現在価値の合計額を求めます。これをもとに企業価値を算定するのがDCF法の基本的な考え方です。
会社売却は2つに大別されることはすでに説明しました。株式譲渡と事業譲渡のそれぞれについて解説します。
株式譲渡は、株式の取得によって会社の経営権を支配することです。株式の過半数を保有する株主による経営権の支配は、会社を自由にできるということですから、株式譲渡はまさに会社売却といえるスキームです。
株式は過半数でよいわけですが、中小企業のM&Aで事業承継を図る場合など、100%譲渡することが一般的です。買い手は会社(の経営権)を手に入れ、売り手である株主(中小企業ではオーナーである場合が多い)は売却益を得られるわけです。
会社が特定の事業部門だけを切り出して売却することを事業譲渡といいます。これは会社そのものの経営権は譲渡されず、売却する事業にかかわる資産や契約関係、人的リソースなどだけを譲渡する形になります。
この場合は売り手は法人としての会社ですので、売却益は会社の利益として計上されます。
会社売却は株式譲渡と事業譲渡で手続きなどが違ってきますし、売り手か買い手かの立場によっても異なります。ここでは会社の経営権を取得させる株式譲渡の手続きを売り手側から見ていきます。
売り手側はさまざまな思惑から売却を考えるようになります。主には後継者不在による事業承継や負債返済による経営改善、事業譲渡であれば不採算部門の切り離しや事業内容の整理などが理由として考えられます。
売却を考えるなら、今後のプロセスで必要になる資料等の準備を始めておきます。過去三期分をさかのぼって決算書や財務諸表を揃えておくと基本合意までは円滑に進められます。
売却の相手先は、より有利な売却を進める上でも慎重に選ぶ必要があります。自前のネットワークには限界があります。税理士や公認会計士などの士業専門家、地域の銀行なども相談相手となるでしょう。また全国にある事業承継支援センターなども考えられます。
おすすめなのは、今後のプロセスでもサポートしてもらえるM&A仲介会社に依頼することです。またM&Aプラットフォームへの登録などは、売却側は無料で利用できるものも多く、相手先の選択肢を広げる意味では有効な手段となります。
売却相手が決まるまではM&A仲介会社など間に立つ者を介して、ノンネームシートで自社や売却に関わる情報を提供します。この段階では概略だけで交渉をするかどうかを検討してもらうわけです。大枠での了解が得られて、売却先が定まったら具体的な交渉に移ることになります。
企業名を明かしての具体的な交渉の前に、秘密保持契約(NDA、Non-Disclosure Agreement)を締結します。交渉を始めるにあたって、相手側に提供する情報は本来機密事項です。軽々に漏洩されては、企業の信用を大きく毀損しかねません。相互に機密事項の安全性を担保するために必要なプロセスです。
直接交渉に先立って、企業概要書(IM=Information Memorandum)を相手企業に提示します。これはノンネームシートには出せなかった、より機密性の高い詳細な内容が記載されます。買い手側はこの情報をもとに検討し、意向表明書などで基本的な条件や想定買収価額を売り手に提案します。
企業概要書と意向表明所で相互に交渉を進める意思を確認できたら、トップ面談から交渉をスタートさせます。とはいってもここでは細かな条件交渉は行われず、相互に企業文化や理念、トップ同士の考え方などを確認し合うのに留めるのが一般的です。
具体交渉に入ると実務レベルでの会合が主で、トップ同士が顔を合わせるのは貴重な機会です。トップ面談は、M&Aの基盤となる、相互の信頼感を高めることが重要な目的だといえます。
ここまでの交渉などで基本的な条件での合意を得ているはずですので、これを基本合意書(LOI=Letter of Intent、MOU=Memorandum of Understanding)にまとめて締結します。これで買収価額などの基本的な条件やM&A取引の意思確認が形となるわけです。
これ以降、買い手側は本格的に売り手企業についての精査を行います。買収価額や条件の変更、場合によっては取引そのものがブレークする可能性もあります。したがって、この基本合意書は、必要に応じて賠償などせずに破棄できるように、法的拘束力を持たせないことが一般的です。
買い手側はデューデリジェンスを行います。これは買い手側が売り手側の財務や法務、事業内容等について精査し、M&Aにおけるリスクヘッジを図るプロセスです。売り手は会計関係や税務などの資料を買い手の要求に応じて提示することになります。
買い手はデューデリジェンスを経て、潜在的なリスクまでを含めて取引条件を見直します。売り手企業の詳細な企業価値評価も踏まえて、改めて買収価額などの条件を提示します。
最終的な契約締結に向けての交渉が行われます。買収価額のすり合わせはもちろん、売却後に売り手側は経営権の完全譲渡までどの程度サポートするのか、その期間はどのぐらいか、従業員の扱いはどうするか、など多岐にわたる条件が交渉対象となります
。
デューデリジェンスで明らかになったさまざまなリスクに対して、追加条件を加えることなども行われます。リスクの程度によっては、買収価額の大幅な引き下げ要求もあり得ます。
交渉が妥結すれば、基本合意書の内容を参照しつつ、最終的な株式譲渡契約書が作成されます。この契約書の内容について両社が確認すれば、最終契約の締結となります。
株式譲渡契約書は法的拘束力を持ちます。売り手も買い手も、この契約書に記載された内容については必ず履行しなければならず、もし履行しなければ、賠償請求など法的手段を講じることが可能です。
実際に株式が譲渡されることが、このM&Aスキームにおけるクロージング(完了)となります。売り手、買い手ともに株式譲渡契約書に盛り込まれた義務を果たしていかなければなりません。
特にデューデリジェンスでリスクが指摘され、その解決や低減を図る取り組みには相当の労力と時間がかかることも予想されます。買い手側も資金調達には一定の負荷がかかるはずです。契約締結からクロージングまでは一定の期間を要することが一般的です。
契約書に盛り込まれた義務などを相互に履行したら、売り手企業の株式が買い手に移転し、その対価が支払われてM&A取引が完了します。
IPO(Initial Public Offering)は企業が初めて公開市場で株式を売り出すことを指し、これによって広範な投資家から資本を集めることが可能となります。一方、M&A(Mergers and Acquisitions)は、企業が他の企業を合併または買収することであり、企業規模の拡大や事業の多角化、競争力の強化を目指す戦略です。IPOは企業の成長段階で資金調達のために選択されることが多く、M&Aは既存の市場での地位を強化または新市場に進出するために行われます。どちらも企業成長のための重要な手段ですが、目的とする効果において異なります。
大量資金の調達が必要な場合: 会社売却は、特に拡張資金が必要な状況や借入金の返済、その他の財務的義務を満たすために大量の現金が必要なときに効果的です。売却から得られる資金は、会社の財務構造を改善し、より安定した運営基盤の構築に寄与します。 シナジー効果を求める場合: 同業他社や関連性のある企業に売却することで、経営効率の向上や事業規模の拡大が期待できます。これは、売り手にとっても買い手にとっても経営改善のチャンスとなり得ます。 後継者がいない場合: 高齢化により経営者が後継者不足に直面している場合、会社売却は事業承継の有効な手段です。これにより、事業は買い手の傘下で継続され、経営者は安心して引退が可能です。 倒産回避の必要がある場合: 大きな負債を抱えている企業が倒産の危機にある場合、適切な買い手が見つかれば、その負債を含めて事業を譲渡することが可能です。これにより、負債の弁済と経営の立て直しを図ることができます。 雇用の維持を重視する場合: 会社売却は事業譲渡により、経営権や経営陣は変わっても事業自体は続けられるため、従業員の雇用が維持されます。これは廃業した場合に比べて従業員にとって大きな利点です。
IOPがおすすめの場合
大規模な資金調達が必要な場合: 特に拡大期にある企業が、新しいプロジェクトの資金確保や成長の加速に必要な大量の資金を必要としている時、IPOは有効な選択肢です。市場からの資金調達を通じて、その資金を確保することが可能です。 企業の信用とブランド価値を高めたい場合: 上場することで、企業はより透明性が高まり、規制に則った運営が求められるため、投資家や顧客、取引先からの信頼が増します。これにより、企業の社会的信用が向上し、より広い範囲でのビジネスチャンスが生まれることが期待できます。 経営の自由度を保ちつつ成長を目指す場合: IPOを行うことで、株主との調整が必要になるものの、企業は引き続き一定の経営自由度を保つことができます。これにより、株主の意見を取り入れつつも、創業者や経営陣が引き続きそのビジョンに基づいて事業を進めることができます。 これらの条件に当てはまる企業は、IPOを通じてその成長機会を最大限に活かすことが可能です。特に成長が著しいテクノロジーやバイオテクノロジー分野の企業にとって、IPOは資金調達とブランド構築の大きなチャンスとなるでしょう。
会社売却は、会社の経営権や特定の事業を現金化する売買取引といえます。そこには、会社や事業が取引されて利益が得られるというスキームに起因したメリットやデメリットがあります。それぞれを解説していきます。
会社売却を通じて第三者に事業を譲渡することは、即座に大量の資金を調達する有効な手段です。特に、拡張資本が必要な場合や、借入金の返済、その他の財務的義務を満たすために現金が必要な状況で有益です。売却から得られる資金は、企業の財務構造を改善し、より安定した運営基盤を築くことにも寄与します。この戦略は、特に財務的な困難に直面している企業にとって、破産を避け、事業の持続可能性を保つ手段として利用されることがあります。
会社売却を考えるとき、その相手先企業は一般的には同業者や関連性のある企業です。会社売却によって売り手は法人格を失ったり、経営権を失ったりするわけですが、買い手企業との統合によって経営効率が改善されたり、事業規模やエリアが拡大されたりするシナジー効果が期待できます。
買い手はもちろん、売り手にとっても経営状態改善の可能性があるわけです。
会社売却を考えるのは、必ずしも経営難のときではありません。少子高齢化の進む昨今、大きな経営課題は後継者不足です。事業は好調でも、経営者の高齢化などで廃業を考える例は少なくありません。このようなケースでの事業承継の手段として会社売却は有効なM&Aスキームです。経営者は身を引いても、事業は買い手企業の傘下で継続されるわけです。
また会社が大きな負債を抱えて倒産の危機がある場合に、うまく買い手が見つかればその負債を含めて譲渡できることもメリットです。事業譲渡で現金化できる事業を売却し、その利益で負債を弁済し経営改善を図ることも可能です。
会社売却は株式譲渡、事業譲渡にかかわらず、会社の経営権や経営陣は変化しても会社の事業そのものは失われません。したがってその事業に携わる従業員の雇用を維持できるわけです。廃業してしまえば失職せざるを得ない従業員の生活を守れるのは大きなメリットです。
会社に負債がある場合、株式譲渡であればその負債ごと買い手が引き受けます。 現金化できる部門のみを売却し、負債の返済にあてることで、財務状況を立て直したあとに注力事業や新規事業に投資することが可能です。
会社を売却した後の寂しさ
オーナー経営者がある程度の規模の会社を売却した後、さみしさを感じるという話を聞きます。 これまで人生をかけて会社を守ってきた経営者にとって、やりがいがなくなってしまう可能性があります。 そういった寂しさを乗り越えるためにも、あらかじめ売却利益をもとに何をやるのかを並行して考えておくと、次のステップに進みやすいでしょう。
会社(事業)売却では、売却探しに時間がかかってしまうことが注意点の一つにあげられます。事業を売却するとき、希望する女権に見合う相手を探したり、交渉したりするために時間がかかります。 また、それ以外にも売却にはさまざまな工程があり、完了するまでに1年近くかかることも珍しくありません。買い手が見つかっても希望する売却価格が折り合わずに交渉に時間がかかることもあるため、あらかじめその時間を見込んでおくことをおすすめします。
売却をする際の注意点として、思ったような条件で売れない可能性があることも挙げられます。 売却は売り手と買い手の双方が合意できる条件になって初めて成立します。折り合いがつかず交渉に時間がかかったり、譲渡価格や売却後の従業員の待遇が希望通りにならないこともあります。 売却を進めるにあたり、事前に何のために会社を売却するのかを明確にし、条件に優先順位をつけておくことが大切です。例えば培ってきた技術やノウハウを残すことを優先させたいのであれば、技術やノウハウを高く評価してくれる企業を探すことになります。
売却した後、従業員の雇用女権にも注意を払う必要があります。会社そのものを売却する株式譲渡の場合は、契約関係を含めたすべてが買い手に引き継がれるため、雇用契約に変化はありません。一方、会社の一部を売却する事業売却の場合、会社と従業員の契約は解消されるため、従業員は買い手と新しく雇用契約を結びなおす必要があります。 中小企業庁が発表した「中小企業白書」(2021年版)によると、M&Aを実施した企業のうち、8割以上の企業が「全従業員の雇用を継続している」と回答しています。また、新しく雇用契約をする際に給与や雇用形態が大きく変わることはありませんが、従業員を守るためには、契約書に「M&A後、当面の間は雇用条件・業務内容(勤務地変更を含む)を変更しない」といった一文を盛り込んでおくことも必要です。
売却を進める際のリスクの一つとして、取引先や顧客との信頼関係の損失が考えられます。売却が引き起こす事業の変更や契約内容の修正、担当者の変更などが原因で、これまで築かれた関係が悪化する可能性があります。そのため、これまでの担当者が良好な関係を保っていた取引先や顧客との間で、信頼を維持できるように注意深く対応することが求められます。
売却の利点を認識しているにも関わらず、赤字であるために売却が困難だと感じる経営者もいるかもしれません。それでも、会社(事業)が赤字状態でも売却の機会は存在します。 多くの買収を望む会社は、新しい市場への参入や事業規模の増大を目指しています。異なる分野の専門知識や技術、人的資源、ブランド価値を持つ会社(事業)の買収を通じて、シナジーを発揮し、ビジネスの成長を加速させることが可能です。そのため、赤字の会社(事業)であっても買収を希望する企業は存在します。 さらに、売却を通じて地域内で会社(事業)を存続させる意義がある場合もあります。例えば、地域経済や地域社会への影響を考慮した場合、その会社(事業)がなければ損失を被る可能性がある地域の産業や住民が存在します。そのような場合には、会社(事業)を維持すること自体が魅力となり得ます。廃業を考えている経営者にとっても、M&Aを探求する価値は十分にあります。
会社売却で発生する税金は、売り手にかかわるもの、買い手にかかわるものがあり、その譲渡のスキームによっても違ってきます。それぞれの場合に分けて解説します。
株式譲渡では、オーナー経営者が100%保有する持株を譲渡する場合や、会社名義で保有している株式を譲渡する場合で税務は変わってきます。
個人株主が売却した場合、売却価額がそのまま課税されるわけではありません。
売却価額から株式の取得費(出資額)と取得にかかわる必要経費(委託手数料など)を控除したものが譲渡所得となります。(相続などによる取得で取得費が不明の場合、概算として売却価額の5%を取得費とすることもできます)これが課税対象で、所得税と住民税が課せられます。
譲渡所得は分離課税ですので、ほかの所得とは別に課税されます。所得税は復興特別所得税を含めて15.315%、住民税は5%で、合計20.315%が譲渡所得に対して課せられます。
会社が保有する株式を売却する場合も、売却価額から取得費と必要経費を控除した売却益が課税対象になります。
株式の売却損益は会計上は営業外損益に計上されます。これを含めて会計上の利益(売上高から原価、販売費等の一般管理費を差し引いた営業利益に、通常の営業活動以外の損益や特別損益を算入して求めた税引前利益)を求め、これに損金として認められないものなどを税務調整して求められるのが課税所得となります。
法人税は、この課税所得に法人税、法人住民税の法人割、法人事業税の所得割が課税されます。その税率は会社規模や所得の多寡にもよりますが、すべて含めて約30~40%です。
株式を発行会社に売却する際の対価は、原資が利益剰余金であり利益が株主に分配されたとみなして、いわゆるみなし配当として課税されます。
個人株主の場合は、みなし配当は配当所得となり、総合課税の対象で確定申告を要します。発行会社以外への売却の際の譲渡所得に対する分離課税とは異なる点に注意が必要です。確定申告では配当控除により、一定額は控除対象となります。
法人株主の場合は、受取配当金として営業外利益にみなし配当を計上します。税務上、益金不算入として一定金額を所得から差し引けます。また発行会社側で配当から源泉徴収された所得税は、二重課税回避の目的で法人税額から控除できます。
事業譲渡による会社売却では、資産や負債の売買取引ですので、株主への課税はなく、会社への課税となります。
売却した事業の純資産額(資産と負債の差額)よりも多くの対価を得た場合、その差額が譲渡益となり、法人税や法人住民税、法人事業税の課税対象となり、30~40%が課税されます。もしも純資産額よりも対価が低い場合は譲渡損失となり、ほかの所得と相殺して節税効果を得られる場合もあります。
会社売却に関わるそのほかの税金として、印紙税、消費税、不動産取得税が考えられます。
契約書を作った場合、株式譲渡契約書は課税文書に該当せず印紙不要ですが、事業譲渡契約書では契約金額1万円以上の場合(もしくは金額を明記しない場合)、取引金額に応じた印紙が必要です。またいずれの場合でも5万円以上の領収書には金額に応じた印紙が必要になります。
消費税は、対価を得る資産の譲渡、貸付、役務提供に伴って課税されます。しかし、株式の売却は消費という行為となじまないとされ、株式譲渡は非課税対象取引となっています。
事業譲渡においては、譲渡対象資産に課税資産(土地以外の有形固定資産、営業権等の無形固定資産、棚卸資産など)が含まれていれば、10%の消費税が課税されます。
不動産取得税についても、株式譲渡では会社の営業権が移転しただけで不動産が売却されたとは見なさず課税されません。事業譲渡の場合は、不動産も売却されたとみなし、課税標準額(時価ではなく固定資産税評価額)×4%の課税があります。
会社が売却されると、会社自体や経営者、従業員などはどうなるのでしょうか?それぞれに見てきます。
株式の売却によって、会社のオーナーは変わりますが、会社自体はそのまま存続します。資産や負債はもちろん、取引先との契約や販路などにも原則的に変更はなく、事業は継続されます。
売却側の株主は、株式譲渡の場合は当然に株主ではなくなり、その代わりに対価を得ます。事業譲渡の場合は、事業を手放した分の資本減少はありますが、株主としての立場は変わりません。
一般に会社売却に伴い経営者は引退します。中小企業では経営者イコール株主のケースが多くありますが、株式譲渡の場合に株主ではなくなっても経営者として残存することがあります。売却後のPMI(経営統合)の円滑化を図るなどの理由で、一定期間役員として残る場合などがあるからです。
会社がそのまま維持され、事業も継続する以上、従業員の雇用契約も原則的にはそのまま維持されます。売却によって労働条件など多少変動する場合があるので、事前に会社側としっかり協議しておく必要があリます。
会社売却を成功させるということは、できるだけ高い価値でM&Aを成立させるということです。
第1は、会社の価値ができるだけ高いときに売却することです。すっかり先が見えてしまった段階ではなかなか買い手もつきません。将来性や収益性が感じられる、または業績が悪化しそうな兆候があるがまだ危機的とはいえないタイミングで売却に踏み切るべきです。
第2は自社の長所を十分に活かすことです。優秀な人材リソース、将来性のある技術や知的財産権、有益な販路、知名度のあるブランドなど、買い手の要望に応える経営資源を確保しておかなければなりません。またそれを十分にアピールできるように、客観的に整理しておくことも重要です。
第3はシナジー効果を見込める相手先企業を見つけることです。売り手と買い手がそれぞれの強みを発揮することで、合併による相乗効果が期待できる相手を選定しなければなりません。自社の長所を押さえたうえで、それと組み合わせる買い手をシミュレーションして提案していきたいものです。
第4は、そうしたベストなマッチングを見出すうえでも、好適なM&A仲介会社をパートナーとすることです。相手先企業の情報や、業界に関する情報など、自社や目的とするM&Aに相性のよい仲介会社やM&Aプラットフォームを利用する必要があります。
会社売却は株式譲渡や公開買付け(TOB)、事業譲渡など多様なスキームがあります。ここではそうした多様な事例の中から10例を取り上げて解説します。
ロート製薬は再生医療事業での事業拡大を目的に、大手電子機器メーカーのオリンパスの子会社、オリンパスRMSの譲渡を受けました。これにより細胞製造コストの節減などのシナジー効果が見込まれています。2021年3月、ロート製薬は株式譲渡によりオリンパスRMSの全株式を取得し、同社を完全子会社化しました。
参考
https://www.rohto.co.jp/news/release/2021/0323_01/
武田薬品工業の子会社、武田コンシューマーヘルスケアは、アメリカの投資ファンド運用会社であるブラックストーングループに全株式を売却しました。豊富な投資実績に期待して、子会社の事業成長を目指すものでした。2021年3月、約2,300億円で売却され、売り手側の武田薬品工業には約1,400億円の売却益が生じる見込みです。
参考
https://www.takeda.com/jp/newsroom/newsreleases/2020/20200824-8193/
東芝の子会社、東芝ロジスティクスは、物流事業の拡大、充実を目的に3PLサービスを主力とするSBSホールディングスに売却されました。2020年11月、東芝ロジスティクスの株式の66.6%がSBSホールディングスに199億8,000万円で譲渡されました。
参考
https://www.lnews.jp/2020/11/m1102406.html
アメリカの投資ファンド、ベインキャピタルは、昭和飛行機工業に対するTOBを実施し、その全株式を取得しました。昭和飛行機工業は三井E&Sホールディングスの子会社で、この株式譲渡は同ホールディングスの事業再生をねらった事業整理が目的でした。2020年3月、特別配当を含めて約850億円で株式譲渡は成立しました。
参考
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-03-11/Q70ESZDWRGGC01
市場拡大を続けるeコマース市場での事業強化を目指すZホールディングスは、ZOZOTOWNを運営するZOZOへのTOBを実施しました。ZOZOはZホールディングスのユーザー層の誘導による売上げ上昇効果を期待してこれを受け入れました。2019年11月、売却価額約4,007億円で、ZOZOの50.1%の株式がZホールディングスに取得されました。
参考
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1911/14/news091.html
ネイティブ広告プラットフォームを運営しているログリーは、転職サービスにおける広告需要の拡大を目的に、転職メディア運営会社のmoto株式会社の子会社化を図りました。2021年4月、motoはログリーに7億円で全株式を売却しました。motoは経営者が残留して事業を継続、アーンアウト条項によって最大3億円の成功報酬も設定されています。
参考
https://corp.logly.co.jp/20210330/2634
物流や生産ラインの制御システムなどを開発するアンドールシステムサポートは、事業拡大と新規顧客獲得を目指すソーバルに売却されました。2015年5月、9,900万円の売却価額でアンドールシステムサポートの株式が譲渡されました。
参考
https://www.nihon-ma.co.jp/news/20150331_2186-2/
東京の運送会社、有限会社東航は、代表の高齢を理由に事業承継を考えていました。これが海上、航空輸送の事業を展開していたTRUTH LOGISTICSの陸送部門への事業拡大のニーズと一致し、株式譲渡によって東航は売却されました。
参考
https://br-succeed.jp/content/agreement/post-951
株式会社日輪は、製造、物流などの人材派遣や業務請負の支援事業を行っています。施設常駐の警備事業を展開する株式会社ライフ・コーポレーションは、後継者がおらず外部への事業承継を考えていました。M&Aマッチングサイトを通じてつながった両社は、ライフ・コーポレーションの株式譲渡を得て、1カ月という短期間でM&Aを実現させました。
参考
https://br-succeed.jp/content/agreement/post-792
有限会社スニタトレーディングは、インド料理店を展開していましたが、負債を抱え工場の売却を考えていました。この工場がイスラムの戒律に従うハラール料理を作れることに目をつけたゴーゴーカレーは、事業譲渡によってこの工場を取得、世界進出に向けた大きな強みを手に入れました。
参考
https://br-succeed.jp/content/agreement/post-1088
会社売却は、事業拡大や事業承継をする上で有効なM&A手法です。しかし株式譲渡や事業譲渡などその具体的な手法は多岐にわたり、その長短もさまざまです。
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会社売却は、事業や雇用の継続を図りながら売却益なども期待でき、即戦力の事業や人材が獲得できる売り手と買い手双方に魅力的なスキームです。しかしその実施は、手続きが複雑であったり売却後の事業制限があったり、必ずしも容易なスキームとはいえません。
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