合併は複数の会社を一つにまとめるM&Aスキームです。実施後に残る会社となくなる会社があるわけですが、それぞれの会計処理はどのように行われるのでしょうか?
この記事では、合併の際の仕訳や会計処理方法についてわかりやすく解説します。
合併はM&Aのスキームとしてはよく用いられるものです。その会計処理や仕訳について解説するにあたって、知っておくべき基礎的な知識を身につけておきましょう。
合併とは、複数の会社が統合されて1つの会社になることです。合併にも新しい会社を立ち上げて行われるものと、既存の会社が他の会社を吸収する形のものがあり、後者を吸収合併といいます。この場合、合併後も存続する合併会社と、吸収されてしまう消滅会社があります。
消滅会社は、対価を受け取って合併会社に譲渡されます。このとき、対価が消滅会社の純資産を上回っている場合、差額をのれんといいます。これは無形固定資産とも呼ばれ、合併時の勘定科目として用いられる言葉です。
のれんは資本として計上され、20年以内の期間に有形固定資産と同じく減価償却することが定められています。
対価は必ず純資産を上回るとはかぎりません。その場合、純資産をより安く手に入れたということになりますので、差額は利益として計上され、負ののれんと称します。
負ののれんは、のれんと違って将来的な超過収益力を表すものではなく、長期に渡って減価償却するものとは考えません。したがって、負ののれんは当期の利益として一括処理されます。
負ののれんが発生するということは、消滅会社の株主は、会社が本来持っている価値(純資産)よりも少ない株式しか対価として受け取れないことになります。このような損失覚悟の合併がなぜ成立するのでしょうか?
負ののれんが発生するような企業は、経営がうまく行っておらず、株主は配当も受け取れていない場合がほとんどです。そうなると、吸収合併後に交付される株式の方が配当も望めますし、市場価値(株価)も上がるかも知れません。そうした将来的な期待から、このような不利な条件の合併が成立するのです。
合併の場合、合併会社が消滅会社を手に入れた、と単純にいくとはかぎりません。企業を統合する都合(例えば許認可権の保持など)から、株式を取得した側(取得企業)が消滅し、取得された側(被取得企業)が存続するケースがあるからです。(逆取得と呼ばれます)
したがって、合併においてはどちらが取得企業でどちらが被取得企業か判定することが重要になります。
取得企業を定める観点は次の6つです。
この観点に照らして、合併後の状況から取得企業と被取得企業を判定することになります。
合併においては、当事者が4者います。(吸収合併の場合)すなわち、取得企業、被取得企業、取得企業株主、被取得企業株主です。会計処理は、この当事者ごとに行われます。まず通常取得の場合の会計処理から見ていきます。
取得対価を算定します。被取得企業の交付した株式は時価で評価されます。新株発行の場合、上場していれば市場株価で、非上場であれば公認会計士等の専門家に公正価値の算定を依頼します。自己株式の場合は適正な簿価で算定されます。
次に被取得会社のすべての資産や負債を時価で評価し直します。市場価格のある社債や割引債が発行されている場合、負債も市場金利に基づく公正価値に評価替えします。貸借対照表に記載されない無形資産(のれん)も公正価値を算定して資産に計上します。
取得対価相当額は資本金や資本剰余金に計上し、自己株式の交付がある場合はその適正な簿価は控除されます。そして取得した資産は借方に、負債は貸方に時価で計上します。最後に生じている貸借差額をのれん、あるいは負ののれんとして計上します。
通常取得では被取得企業は消滅会社となります。合併前日を最終日として決算します。貸借対照表の資産や負債は適正簿価で処理することに注意が必要です。
取得企業の株主は、原則的に取引当事者とはならず、会計処理も生じません。ただし、合併に伴う顕著な持ち分変動で子会社株式等がその他有価証券となる場合、時価の洗い替えを経て合併損益が認められることがあります。
被取得企業の株主の会計処理は、投資の継続性の判定によります。継続性があると判定されれば簿価が引き継がれ仕訳は生じません。清算されたと判定されれば、交付を受けた取得企業の株式の時価に洗い替えて合併損益が認められます。
取得企業が被取得企業に300万株(市場株価500円)の新株と適正簿価4億円の自己株式を交付に使用、被取得企業の資産が時価で10億円、負債が時価で6億円だったとして考えてみます。
株式の時価総額は300万株×500円=15億円、ここから自己株式の適正簿価を控除して11億円となります。これを半額ずつ資本金、資本剰余金として貸方に計上します。貸方は負債6億円に資本金、資本剰余金、自己株式合わせて21億円となります。借方は資産10億円なので、差額の11億円をのれんとして計上します。
被取得企業は合併前日を最終日とする通常の決算を行います。このとき最終財務諸表も作成しますが、貸借対照表は適正簿価で作成します。
筆頭株主の持分比率が顕著に大きくならない場合は、合併による差損益を生じる株主はいません。したがって仕訳は必要ありません。
被取得企業が他の会社の完全子会社で、投資の継続性がなく清算されたと判定された場合で考えてみます。被取得会社の株式が親会社の簿価で12億円だったとします。交付された取得企業の株式との差額が合併差益となります。したがって、(借方)投資有価証券15億円、(貸方)子会社株式12億円、合併差益3億円となります。
逆取得の場合、取得企業が消滅会社で被取得企業が合併会社である点に注意が必要です。
取得企業は法人としては消滅します。したがって合併前日を最終日とする通常決算を行います。
被取得企業の会計処理は、通常取得の場合の取得企業とほぼ同じです。違うのは時価ではなく簿価をそのまま計上することです。
資産と負債の差額のうち消滅会社の資本相当額は原則資本金、資本剰余金に計上します。債務超過の場合、その相当額をその他利益剰余金にマイナスで計上します。ただし、被取得会社の交付株式が新株のみの場合、取得企業の株主資本の内訳をそのまま引き継ぎ可能です。
連結財務諸表を作成しない場合、通常取得の場合を想定した会計処理を試算し、差額を注記することになっています。
取得企業株主の会計処理は、通常取得の場合に同じです。
被取得企業株主の会計処理についても、通常取得の場合と同様に行います。
吸収合併に際して、ブランド力に優れた被取得企業を存続会社とした場合を考えてみます。被取得会社から交付された株式は新株のみだったので、取得会社の株主資本をそのまま承継できます。このとき取得会社の貸借対照表は資産の簿価24億円、負債の簿価19億円、純資産が資本金3,000万円、資本準備金3,000万円、利益剰余金4億円を含む5億円だったとします。
取得企業は逆取得なので消滅します。通常取得の際の被取得企業と同様に、合併前日を最終日とする通常の決算を行います。
この場合は、取得企業の資産や負債を簿価のままで引き継ぐことになります。取得企業の貸借対照表をそのまま単純に合算します。したがって(借方)現金預金、売上債権など24億円、(貸方)仕入債務、有利子負債など19億円、資本金3,000万円、資本準備金3,000万円、利益剰余金4億円、その他有価証券4,000万円となります。
共同支配企業の形成とは、複数の企業が均等に支配する共同事業運営を合併等のスキームによって作ることをいいます。任意の企業の子会社同士を合併させて共同支配企業とする場合が考えられます。共同支配企業の形成は以下の4つの条件を満たすことが必要です。
共同支配下の取引における会計処理は、逆取得と類似しています。すなわち、消滅会社の資産や負債、評価換算差額等は適正簿価で合併会社に引き継がれます。株主資本についても原則資本金、資本剰余金の増加とされますが、例外的に消滅会社の株主資本をそのまま引き継ぎ可能な場合があります。
消滅会社が合併前日を最終日とする通常決算を行うこと、消滅会社、合併会社の株主の会計処理が通常所得と同様なことも押さえておきましょう。
親会社が取得企業、子会社が被取得企業となる場合、取得企業が持っている被取得企業の株式には合併対価は交付されません。
この場合、被取得企業から受け入れる純資産を親会社の持分相当額と少数株主持分相当額に分けます。そのうえで被取得企業の株式簿価と親会社持分相当額の差額は抱合せ株式消滅差損益として計上します。交付した対価と少数株主持分相当額との差額は、会計上はのれん、または負ののれんとして処理されます。
合併にかかわる会計処理には特例も多く存在し、実際にはさらに複雑です。こうした処理を専門家の助力なしに成し遂げるのは難しいことです。専門家等とのネットワークも充実しているウィルゲートM&Aにご相談ください。30例近いM&A成功実績に基づき、適時、的確なサポートをお約束いたします。
合併においては、通常取得、逆取得で会計処理も仕訳も異なってきます。合併というスキームにおいて、これらの処理は事務手続き上の部分であり、極力公認会計士などの専門家の助力を得て行うべきです。実務面でのご相談も含めて、ウィルゲートM&Aの無料相談をぜひご利用ください。
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