吸収合併は2つ以上の会社が合併して1つの会社になり、消滅会社の権利義務を存続会社に承継させることです。吸収合併を行うにはしっかりと手続きの流れを把握し、計画を立てる必要があります。
この記事では、吸収合併の手続きの流れや必要な書類などを解説します。
\成約例や支援の特徴・流れを紹介/
合併はM&Aの手法の1つで、2つ以上の会社が合併して1つの会社になることです。吸収合併とは会社がほかの会社と合併することにより、消滅する会社の権利義務すべてを、存続する会社に承継させることです。会社を吸収して存続する会社を吸収合併存続会社(存続会社)、消滅する会社を吸収合併消滅会社(消滅会社)といいます。
吸収合併をする場合、規模の大きな会社が小さな会社を吸収するのが一般的です。また、シナジー効果などを目的に、親会社が子会社を吸収合併するケースもよく見られます。
合併には吸収合併の他に、すべての会社が消滅し、新たに設立する会社に権利義務を承継させる「新設合併」の2種類があります。合併をする場合、ほとんどが吸収合併を選択されています。吸収合併が選ばれるのは、新設合併と比べ手続きが少ないこと、コストを抑えられることなどが理由です。
会社の種類は会社法で定められた株式会社、合資会社、合名会社、合同会社の4種類と、会社法施行前に設立された特例有限会社があります。吸収合併はどの形態の会社でも行えますが、特例有限会社を存続会社とする吸収合併はできません。特例有限会社を存続会社にする場合は、株式会社などに移行する手続きが必要です。
吸収合併では、取締役会や株主総会で承認を得たり、株主への通知・告知などをしたり、さまざまな手続きが必要です。吸収合併の手続きの主な流れは、次のようになります。
吸収合併を行うには、存続会社と消滅会社の当事者間で合併契約の作成をします。合併契約書では次のような事項を定めます。
その後、合併契約に対し取締役会で承認を得ます。存続会社と消滅会社の双方で、承認が必要です。承認を得たら、合併契約を締結します。
株主総会での承認は、合併の効力発生日の前日までに行う必要があります。原則として、特別議会による承認が行われます。株主総会の招集通知は、公開会社は開催日の2週間前、非公開会社は1週間前までに発送します。
吸収合併する際には、存続会社および消滅会社はそれぞれ官報に公告しなければなりません。官報とは政府が発行する機関紙です。
また、知れている債権者に対し、個別に催告する必要があります。債権者は合併に対し意義の申し立てができます。異議申し立てができる期間は、1カ月以上設けるよう定められています。
吸収合併に反対する株主は会社に対し、保有する株式を公正な価格で買取する請求ができます。請求できる期間は、合併の効力発生日の20日前までです。
合併契約書で定められた日から、効力が発生します。登記申請をした日に効力が発生するのではなく、合併契約書に定めた効力発生日に効力が発生します。そのため法務局の閉庁日にあたる土日や祝日でも、効力発生日に定めることが可能です。
吸収合併の効力発生日から2週間以内に、法務局で登記申請を行います。登記申請は存続会社の登記変更と、消滅会社の解散登記を同時に行う必要があります。
吸収合併の効力発生日に遅滞なく、事後開示書類を本店に備えておきます。効力発生日から、6カ月間を経過する日まで備える必要があります。
吸収合併は一定の手続きが必要で、期間は2カ月程度がかかります。効力発生日の数カ月前から始めないといけない手続きもあるので、スケジュールを立てて、早めに準備をしておきましょう。
吸収合併を行う際には、合併に要する手続きの期間を把握して、スケジュールを立てるのがポイントです。効力発生日をあらかじめ決めて、効力発生日から逆算して各手続きを進めていくとよいでしょう。
吸収合併の効力発生日を4月1日とした、スケジュール例を紹介します。
1月中旬:合併の準備を始める
2月上旬:取締役会で合併承認決議、官報公告の申し込み
2月中旬:合併契約の締結
2月下旬:債権者に対する催告および公告、合併契約書などの事前開示書類の備置
3月上旬:株主総会招集通知、反対株主への通知
3月下旬:株主総会の承認、債権者異議申述期間の満了
4月1日:合併の効力発生
4月1日以降:登記申請(効力発生から2週間以内)、合併に関する書類の事後備置
吸収合併を行うときは、登記手続きが必要です。期日までに法務局で手続きし、登記に関する書類も用意しなければなりません。登記申請は多くの書類を提出するので、吸収合併の手続きと同時進行で準備しておくとよいでしょう。
存続会社と消滅会社で、登記手続きに必要な書類は少し異なります。それぞれが準備しておく必要書類を見ていきましょう。
存続会社は吸収合併の効力発生日から2週間以内に、管轄の法務局で登記手続きを行います。また、吸収合併により資本金が増額した場合は、登録免許税が発生します。登録免許税は期限内に、管轄の税務署で支払う必要があります。
登記手続きには「変更登記申請書」を提出します。変更登記申請書には次のような項目を記載します。
変更登記申請書に必要事項を記入し、収入印紙を貼り付け、登記に必要な書類と一緒に提出します。登記に必要な書類には次のようなものがあります。
吸収合併契約書は法務局への提出とは別に、開示書類として効力発生日から6カ月間、存続会社と消滅会社の本店に備え置く必要があります。
消滅会社での登記変更に関する手続きは、存続会社に比べ少ないです。必要書類は「解散登記申請書」のみで、効力発生日から2週間以内に法務局へ提出します。
解散登記申請書には次のような項目を記載します。
法務局へ提出する書類は解散登記申請書だけですが、存続会社に登記手続きで必要な書類をあらかじめ準備しておく必要があります。存続会社へ準備しておく書類には次のようなものがあります。
吸収合併の手続きにかかる費用には、登記に関わる費用などがあります。また司法書士などに依頼する場合は報酬として、別途費用がかかります。手続きにかかる主な費用を解説します。
吸収合併契約書には収入印紙を貼り付ける必要があります。吸収合併契約書1通につき、4万円の収入印紙代がかかります。収入印紙は吸収合併契約書の原本1通だけに貼り付ければいいので、コピーを利用する場合には収入印紙は必要ありません。
存続会社の登録免許税は、吸収合併により資本金が増加しない場合、一律3万円です。
吸収合併により資本金が増加した場合の登録免許税の計算方法は、増加した資本金の額に1000分の1.5を乗じて算出します。
増加した資本金の額が、消滅会社の資本金の額を上回る場合は、超過した額に1000分の7を乗じて算出します。
算出した金額が3万円に満たない場合は、登録免許税は3万円です。
なお、消滅会社の登録免許税は3万円です。
合併契約の締結後は、株主や債権者に対して広告などで通知を行います。広告に用いる媒体は官報公告や電子公告、新聞などが一般的です。費用は広告の媒体や掲載期間などにより異なりますが、5~15万円程度かかります。
吸収合併を行うには、社会保険の手続きも必要です。消滅会社の従業員が存続会社に移る際に不利益が出ないよう、しっかりと社会保険の手続きを行わなくてはなりません。社会保険手続きは健康保険、雇用保険、労働保険の3つの手続きが必要です。3つの手続きについて解説します。
存続会社では年金事務所または健康保険組合で、社会保険資格取得届と被扶養者異動届の手続きを行います。消滅会社では、社会保険資格喪失届と適用事務所全喪届の手続きが必要です。
健康保険の手続きが遅れると、消滅会社から存続会社へ移る従業員の、新しい保険証の発行が遅くなります。存続会社は消滅会社の従業員情報を事前に得るようにし、手続きがスムーズに行えるよう準備しておきましょう。
雇用保険はハローワークで手続きを行います。失業給付金や高年齢雇用継続給付などは、一定の被保険者期間がないと受給できない場合があるので注意が必要です。受給できる場合でも、給付額は被保険者期間の長さで変わってきます。
吸収合併によって、消滅会社の従業員が一度退職した形になってしまうと、被保険者期間がリセットされた状態になり、従業員に不利益が生じる可能性があります。
不利益が生じないように、存続会社と消滅会社の双方で「同一事業主の認定手続き」を行います。
労働保険は労働基準監督署で手続きを行います。消滅会社は、労働保険料の精算と納付の手続きが必要です。それにより還付金が発生した場合は、還付金の請求手続きも行ってください。
存続会社においては吸収合併によって、事前の申告より労働保険料が大幅に増加すると見込まれる場合、増加概算保険料の申告と納付を行う必要があります。
事業種類が同一で、消滅会社を存続会社の営業所などにする場合は、労働保険成立手続きと継続事業一括手続きを行いましょう。
吸収合併を行うには多くの手続きが必要で、効力発生日までに一定の手続きを済ませなければなりません。そのため、手順に漏れがないようにスケジュールを立てて進めていくのが重要なポイントです。
吸収合併では存続会社での手続きが多いですが、消滅会社でも登記手続きに関する書類の準備や、社会保険手続きなどを行う必要があります。消滅会社での手続きも忘れずに行いましょう。
また、消滅会社の従業員の対応にも注意が必要です。吸収合併を行う際には、従業員への事前の告知義務はなく、雇用契約などもそのまま引き継がれます。しかし、吸収合併を行うことで不安に感じる従業員も出てくるでしょう。
組織統合がうまく進まず、従業員の反発や不満が生じる可能性もあります。そのことにより、従業員が退職するケースもあるので、早い段階で従業員と面談し、待遇などの労働契約について丁寧に説明を行うことが大切です。
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吸収合併には多くの手続きが必要で、それぞれの手続きは期限内に行う必要があります。契約書も法的に定められている部分が多く、漏れがないように作成しなければなりません。法務や財務、税務などの専門的な知識が不可欠なので、M&A仲介会社に相談することをおすすめします。
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