廃業届とは、個人事業を廃止する際に税務署や都道府県税事務所に提出する書類であり、法人の廃業には必要ありません。法人が廃業するには株主総会の決議や登記が必要なため、事業を譲渡したほうが手続きを簡略化できる場合もあります。
この記事では、廃業届の提出手続きの流れや提出先、書き方や費用などを解説します。
廃業届とは、文字通り事業を廃止する際に提出する書類です。ただし廃業届は個人事業で用いるものであり、法人の廃業には必要ありません。単に事業をやめるときのみならず、個人事業から法人に移行する「法人成り」の際も提出が必要です。
法人が自主的に廃業する場合は、発行済株式総数の過半数が出席する株主総会を開催し、3分の2以上の同意を得て解散を決議します。
そもそも廃業とは、個人・法人が自らの意思で事業をやめる行為を意味します。個人事業主の場合は個人の資産と事業資金がイコールであり、廃業届は自らの意思で提出可能です。一方で経営破綻、いわゆる倒産に陥った法人は廃業できません。
一般的に法人の倒産とは、借入金を返済できなくなるか、手形の不渡りが6カ月以内に2回起きて資金繰りに行きづまる状態を指します。倒産した法人は民事再生・会社更生により再建を目指すか、破産・特別清算によって法人を消滅させるかの選択が必要です。
では、なぜ倒産していない法人が廃業する必要があるのでしょうか。やや古いデータですが、中小企業庁の平成29年(2017年)版中小企業白書によると、「業績の低迷」や「後継者不足」が廃業の理由に挙げられています。
つまり、法人の廃業は「まだ倒産していないが、今後倒産する可能性が高い場合」の自主的な選択です。業績が低迷して資金繰りに行きづまった、しかし債務超過には陥っていない場合に、従業員の給与や株主への利益を分配してから会社を消滅させることになります。
法人の廃業は再就職が必要になる従業員にとっては重い負担であり、経営陣の説明が求められます。対する個人事業主の廃業届提出は自分自身の身分しか変更しませんが、従業員の雇用や債権者に対する責任が消滅することはありません。
個人事業主が廃業届をもらうには、税務署および都道府県税事務所を訪問して窓口で請求する必要があります。ただし現在は廃業届のPDFファイルをインターネットでダウンロードし、プリンターで印刷する方法でも入手可能です。
個人事業をやめる際は複数の書類を作成する必要があるものの、廃業届自体は税務署と都道府県税事務所に提出する2枚のみであり、書式もシンプルです。開業届とほぼ同様の手続きであると考えてよいでしょう。
法人の場合は廃業届を提出する必要がないため、税務署・都道府県税事務所でもらえる廃業届は使えません。法人が自主的に廃業する場合は、定款に従って株主総会を招集し、決議の上で清算するといった手続きです。
法人が株主総会で解散を決議すると、2週間以内に法務局での解散登記が必要です。解散登記申請書は自ら作成する必要があり、法務局ではもらえません。法人の解散登記後に税務署・都道府県税事務所および市区町村でもらう異動届出書が個人の廃業届に相当するといえます。
個人事業主による廃業届の提出先は、税務署および都道府県税事務所です。直接窓口に出向いてもよいですが、郵送でも廃業届を提出できます。なお廃業届を提出するのは「納税地」であり、基本的には開業届提出時に記入した場所と同一です。
法人に廃業届はありませんが、株式会社の場合は解散を決議する株式総会開催のために招集通知の発送が必要です。次に法務局へ解散登記申請書を提出し、税務署や都道府県税事務所などに異動届出書を提出する流れになります。
個人事業主が廃業届を提出するのは、所得税法229条により「事業を廃止した日から1カ月以内」と定められています。事業を廃止した日とは、他社との取引や従業員の雇用を終了し、完全に事業の実態がなくなった日です。経費の支払いが残っている場合は事業が継続していますが、個人名義の債務は廃業後にもなくならないため、廃業届の提出とは無関係です。
個人事業では、廃業届とは別の書類を提出する必要もあり、提出先や提出時期が異なります。たとえば「所得税の青色申告の取りやめ届出書」は廃業翌年の3月15日までに税務署に、「事業開始(廃止)等の申告書」は都道府県ごとに定められた10日または15日以内の期間に都道府県税事務所への提出が必要です。
法人は廃業届ではなく株主総会によって解散を決議するため、基本的には決算後の定時株主総会にタイミングが設定されます。ただ、法人を解散しなければならない差し迫った事情がある場合は、臨時株主総会の招集も可能です。
税務署などの役所に対して書類を提出する際に発生する費用は、登記費用または窓口手数料が中心です。個人事業の廃業届は登記に該当せず手数料もかからないため、基本的には無料といえます。当然ながら、廃業届を窓口に提出するための交通費や郵便費用は別途必要です。
廃業届の提出自体は無料ですが、廃業手続きには費用が発生します。2019年版中小白書122ページによると、廃業した中小の法人や個人事業主が「登記や法手続などの費用」として支払った費用は、36.2%が100万円以上です。
廃業届が必要ない法人が解散する場合も、税理士や司法書士に支払う報酬が発生します。法人の解散には登記が義務づけられているため、解散・清算人登記および官報公告に約8万円必要です。
法人には株式会社以外にも有限会社や合同会社がありますが、登記・官報公告費用は形態にかかわらず約8万円です。非営利の財団法人・社団法人でも費用は変わりません。
廃業届は個人事業の廃止に使うものであるため、基本的な手続きはただ税務署や都道府県税事務所に提出するだけです。廃業届の目的は「自分は個人事業の確定申告が必要なくなりました」と申告することですから、登記などの手続きはありません。
廃業届の提出が必要なのは、実際に個人事業を廃業する場合だけではありません。個人事業を会社組織に発展させる「法人成り」をする際も、廃業届が必要です。一般的には、利益が年間800万円を超えると、個人事業の所得税より法人税が安くなるといわれています。
個人事業の廃業届は事業廃止から1カ月以内と決められているため、法人設立と同時期に提出するのが一般的です。廃業届に加えて「所得税の青色申告の取りやめ届出書」や「事業開始(廃止)等の申告書」も提出します。
廃業届は個人事業主が1人で提出できますが、法人の場合は登記が必要になり廃業手続きがやや複雑です。まず、株式会社の場合は株主総会で解散を決議します。決議の成立によって法人は「清算株式会社」となり、2週間以内の解散登記および清算人選任登記が必要です。
清算段階の法人が行う税手続きは、税務署への異動届出書や事業廃止届出書の提出、都道府県税事務所への異動届出書などです。個人事業の廃業届と同じく、同一名称の書類を複数機関に提出する必要があるので注意してください。
法人が従業員を雇用していた場合は、日本年金機構・ハローワーク・労働基準監督署に社会保険に関する書類の提出が必要です。特に日本年金機構は「事業廃止から5日以内」に書類を提出しなければなりません。
次の手続きは債権取立と債務弁済、官報への解散公告です。清算人が解散日時点の財産目録と貸借対照表を作成し、株主総会に提示します。資産現金化と株主への残余財産分配が確定すると、1カ月以内に法人税等の確定申告が必要です。
最後に決算報告書を株主総会に提出して承認を受け、清算決了の登記をすれば、法人の解散が完了します。廃業届を出すだけで済む個人事業主と違い、法人の廃業(解散)には株主総会の決議や登記を何度も要するのが特徴です。
個人事業主による廃業届の書き方はさほど難しくありません。税務署に提出する廃業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」で、開業届と同一です。開業時と同じように、納税地、氏名と生年月日、マイナンバーや屋号、届出の区分(廃業の理由)などを記入していきます。
青色申告を行っていた場合は「青色申告の取り止めの届出書」、消費税課税事業者であったならば「事業廃止届」への記入と提出も求められます。従業員を雇用していた場合は、廃業届の「給与等の支払の状況」欄にも記入が必要です。
都道府県税事務所に提出する廃業届は、自治体により正式名称が異なりますが、税務署の廃業届と同じく開業届を兼ねています。確定申告や従業員に関する項目はなく、住所・氏名や屋号を記入するだけのシンプルな内容です。
法人が解散する事例では、税・社会保障関連の手続きはあらかじめ用意された書類に記入して行いますが、登記は自分で登記申請書を作成して提出することになります。役員・株主が経営者1人だけの法人ならば自力で行うのも不可能ではありませんが、従業員や役員・株主が複数人存在する場合は、税理士や司法書士に解散手続きを依頼するのが現実的です。
個人事業主の廃業届は、管轄の税務署および都道府県税事務所に提出します。必ず窓口に行かなければならないわけではなく、税務署の場合は郵送またはインターネットのe-Taxによる提出も可能です。都道府県税事務所は地域により対応が異なりますが、東京都の都税事務所では郵送および電子申告を受け付けています。
法人では廃業届ではなく登記申請書を法務局に提出しますが、所定の収入印紙を貼れば郵送による申請もできます。年金事務所や労働基準監督署への書類提出も郵便で行えるものの、控えを作成して保管するなどの注意が必要です。
なお、法人の解散には株主総会など社員(従業員ではなく、出資者という意味)の決議が必要ですが、必ず対面で集まらなければならないのでしょうか?経済産業省によると、現行の会社法上もオンラインでの株主総会開催は可能です。
本人確認などの課題をクリアする必要はありますが、法人の解散も廃業届の提出などと同じく、郵送やオンラインで完結させられる手続きが増えています。
法人は廃業届の提出が必要ないため、出さない場合の罰則はありません。法人が自主廃業・解散する場合は株主総会の決議や登記が必要です。手続きしなければ廃業・解散できないため、廃業届を提出せずに罰則が生じるケースは想定しにくいといえます。
個人事業主が廃業届を出さなくても罰則はありませんが、毎年2月頃に行われる確定申告書の送付を止められません。個人事業の開業届・廃業届は「私は確定申告する義務があります」と税務署や自治体に通知するものであり、個人事業の開始・廃止自体は自由に行えるからです。
また、法人成りをしても一部の事業を個人で続けている場合や、休業した場合も、廃業届の提出は必要ありません。
個人が廃業届を出す場合も、法人が株主総会などの決議によって廃業を決める場合も、注意しなければならないのは事前の準備を万全に行うことです。事業を継続できなくなったという理由で急に廃業を決めると、顧客や取引先、そして従業員に迷惑がかかります。
個人事業の廃業届を出しても業務用の資産は個人が保有し続けられますが、法人が廃業すると所有者が消滅するため、処分手続きが煩雑です。資産の売却や従業員の解雇などに数カ月単位の時間がかかることも珍しくありません。廃業前に、社内で廃業手順を綿密に検討しましょう。
また、そもそも廃業する必要があるのか検討が必要です。法人は株式を売却するだけで事業譲渡できるため、廃業手続きや従業員の解雇を行わずに事業を手放せます。「事業が赤字だから買い手が現れないだろう」などと考えず、M&A仲介業者などに相談するのが良い選択肢です。
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廃業届は個人事業の廃止に使うものであり、法人の廃業には必要ありません。一方で法人は株主総会の決議や登記といった手続きを経なければ廃業できず、資産の売却や従業員の解雇に時間と手間がかかることに注意が必要です。
法人の廃業を検討する際は、M&Aによる事業譲渡も考えましょう。ウィルゲートM&Aは完全成果報酬制で相談無料ですし、9,100社以上の経営者ネットワーク活用により譲渡先を見つけられます。廃業か事業譲渡かで迷ったら、まずは無料でウィルゲートM&Aに相談してください。
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