日本企業の多くは負債の圧縮を進め、自己資本率を高めてきた背景があります。昨今では経営者の高齢化による事業承継の問題やコロナの影響による事業環境の悪化が顕著となり、M&Aによる企業再編のニーズが高まっています。
この記事では、LBOファイナンスの特徴とメリットやリスク、LBOとの違いなどを解説します。
LBOとは、「Leveraged Buyout(レバレッジド・バイアウト)」の略称で、日本語では「てこの原理を用いた買収」を意味します。自己資金が少なくても、買収対象の企業が持つ資産やキャッシュフロー、信用力を担保に、銀行借入れなどで買収資金を調達して、企業を買収するM&A手法のことを指します。
LBOファイナンスは、LBOによる資金調達の一種であり、買収が成功することで、譲受企業は大きな出費を抑えて譲渡企業を傘下に入れることが可能です。M&Aでは株式取得や合併、会社分割、バイアウトなどさまざまな手法があります。通常、バイアウトは譲渡企業の過半数の株式を買収して、経営権を取得します。
LBOファイナンスは、買収ファイナンスやM&Aファイナンスなどとも呼ばれており、M&A・買収時に用いられるファイナンス手法です。LBOファイナンスはLBOの特徴である、買い手の投資額が削減できる点や対象会社の信用力に依拠して行われる点が共通しています。
LBOファイナンスを利用すると、譲渡企業は融資を受けて負債比率が高まる一方で手元資金が減少するため、純資産の割合も減るといった特徴があります。
一般的なM&Aでは、譲渡企業は譲受企業から譲渡代金を受け取るので、金銭的な余裕が生まれるのが特徴です。一方LBOファイナンスでは、譲渡企業が負債を抱える形となるため、譲渡企業だけではなく、貸し手の金融機関にとっても、リスクを伴うファイナンスといえます。
LBOファイナンスには、ノンリコース(非遡及型)という特徴があります。ノンリコースとは、遡らないという意味で、買い手側が担保や保証責任を持たないため、譲渡企業が返済不能な状態に陥っても、金融機関などの債権者は譲受企業に遡及(リコース)はできません。
債権者のリスクが高まるノンリコース型のファイナンスであるがゆえに、審査基準をクリアできるだけのキャッシュフローや信用力を譲渡企業に求めるわけです。
LBOファイナンスの特徴として、買収のためだけに作られる会社、特別目的会社(SPC)を利用する点が挙げられます。SPCはSpecial Purpose Companyの略で、買い手がSPCを設立し、SPCがLBOファイナンスで資金調達を行います。
調達した資金を元手に譲渡企業の株式を買い取って企業を買収し、最終的にSPCと譲渡企業を合併することで、譲渡企業は返済義務を負うことになります。LBOファイナンスで借り入れた買収資金は、譲渡企業が得た事業利益から返済していきます。
LBOファイナンスは、事業会社も利用しますが、主にPE(Private Equity)ファンドが利用するファイナンスで、M&A手法の中でも、やや特殊な性質を持ちます。PEファンドとは、投資家から集めた資金を資産運用する投資ファンドの一種であり、未上場の株式に対して投資を行うファンドのことをいいます。
PEファンドがLBOファイナンスを利用する理由には、投資効率の向上や買収価格の引き上げ、投資額・リスクの限定、分散投資によるポートフォリオのリスク低減などがあります。
SPCを設立するPEファンドは、厳密にはGP(ジェネラル・パートナー)が運営しており、LBOファイナンスもGPが実施しています。GPはPEファンドの運用成績によって報酬が変わるため、できるだけ運用成績を上げようと動きます。そのためLBOファイナンスによるレバレッジ効果を利用することで、投資効率の改善を図ります。
LBOファイナンスは買収価格を引き上げる目的で利用されます。M&Aの売却方法には、相対方式と入札方式があり、複数の買い手の中から譲受企業が決まる入札方式は、ほかにもさまざまな決定打となる条件はあるものの、買収価格が特に重要な要素といえます。
そのためPEファンドは買収を成功させるために、できる限り入札価格を高くして、入札で優位に立とうとLBOファイナンスを利用します。
PEファンドに残る資金が少ない、分散して投資したい案件がある、リスク回避のため投資額を限定したいといった理由で、自己資金を抑えて投資を行いたい場合、LBOファインナンスで資金の一部を調達して、自己資金を低減できます。
万が一、対象企業の業務が悪化して潰れてしまっても、損失は投資額に限定されるため、一般的なM&AよりLBOファイナンス方がリスクも抑えられます。
LBOファイナンスで個別の投資案件への投資額を限定できれば、より多くの案件への投資が可能となり、分散投資によるファンド全体のポートフォリオのリスク低減につながります。
投資の一般的な考えとして、「卵を一つの皿に盛るな(投資を分散せよ)」という発想があります。LBOファイナンスは個別の投資効率の改善とともに、ファンド全体のリスク抑制にも寄与します。
LBOファイナンスの特徴でも言及したように、LBOファインナンスは、LBOの特徴である譲渡企業の信用力を活用する点は同様ですが、負債増加や純資産の減少、ノンリコース、SPCの利用などの特徴がLBOとは異なります。
LBOファイナンスは、債権者である金融機関のリスクが高いファイナンス手法のため、融資してもらうためには譲渡企業が持つ返済能力が証明できるよう、具体的な事業計画を提示する必要があります。
LBOファイナンスにはさまざまなメリットがあります。買い手、売り手、融資元とそれぞれの立場で得られるメリットについて見ていきましょう。
LBOファイナンスを利用する買い手のメリットは、少ない資本で大規模な買収が行えることです。LBOファインナンスで譲渡企業の信用力を活用して大規模な融資を受けられれば、自己資本だけでは不可能だったM&A買収が可能になります。
返済義務は譲渡企業に負わせることになるため、売り手の事業計画が失敗して倒産してしまっても、買い手側に返済義務はなく、投資分の自己資産を失うだけで済みます。LBOファイナンスによる失敗が他事業に悪影響を及ぼすことがないので、積極的にM&Aが実行できるといったメリットもあります。
売り手にとっての大きなメリットとして、株式を高値で売却できる点が挙げられます。LBOファインナンスで株式を買収する際には、TBO(株式公開買付)というM&Aの手法が用いられます。
TBOによるM&Aでは、市場価格より高いプレミア価格で取引されるのが一般的なため、TBOファイナンスを利用すれば、株主は売却益が得られます。
また、金融機関から借り入れを行うと、買収後に元金の返済以外にも、利息も返済する必要があります。返済条件を満たせば、利息は損金として処理できるため、状況によっては法人税の節約も可能になります。
融資元のメリットは、高い金利で貸し付けができる点です。LBOファイナンスは融資元にとってリスクが高いため、返報として高金利設定になることの多い手法です。また、短期間で返済する設定になることが多いので、短い期間に資産が増やせるLBOファイナンスは、大きなメリットといえます。
PEファンドは複数のLBOファイナンスを同時に利用して、買収を繰り返す傾向にあります。数年の間で資本回収を見込んでおり、金融機関もまた短期間で資本が回収できる場合が多いでしょう。
LBOファイナンスを利用するうえで生じるデメリット・リスクを確認しておきましょう。
買い手のデメリット・リスクとして考えられるのは、LBOファイナンスによって負債を譲渡企業に負わせることになるので、印象が悪くなる、信頼を失う恐れがある点です。買い手側にリスクが生じることなく、売り手側にのみ返済義務が発生することから、身勝手な買収とみなされがちです。
LBOファイナンスがうまくいかなければ、無計画な買収を行う会社と判断され、評判や社会的信用を落とす危険もあります。
売り手のもっとも大きなデメリット・リスクは、経営の自由度が狭まることです。
LBOファイナンスによって返済義務を負うことになった売り手側は、短期間で事業の利益を生み出して、負債を返済しなければなりません。そのため経営戦略が制限され、追加融資や大規模な設備投資が難しくなります。負債が完済するまで、策定された事業計画をもとに経営をしていく必要があります。
LBOファイナンスでは譲渡企業のキャッシュフローや資産を担保に融資を行うため、事業が失敗に終われば、融資した資金が回収不能になる危険性があります。不良債権が発生する事態を避け、融資すべきか判断するには、高い専門性が求められます。
LBOファイナンスを利用してM&Aを行う流れ・スキームを紹介します。
まずは買い手側が資金調達の受け皿となるSPCを設立します。資金の金額は問いませんが、LBOファイナンスで買収金額に充てる自己資金は、SPC設立後に資本金として移しておくのが一般的です。
買い手がSPCを設立したら、金融機関などから借り入れを行い、譲渡企業の株式を買い付けるための資金調達を実施します。受け皿会社であるSPCには、この段階で買収資金と借金の返済義務が両方ある状態です。LBOファイナンスによる借金のことをLBOローンと呼ぶこともあります。
買収資金の調達に成功したら、SPCがTBOの手法を用いて譲渡企業をM&A買収します。売り手の株式を取得するのに資金を払い、譲渡企業をSPCの傘下に加えます。SPCが支払った買収資金は譲渡企業の株主が取得します。
LBOファイナンスの最後の流れ・スキームは、SPCと譲渡企業の合併です。SPCは資金の受け皿として存在しているため、売り手の親会社にはなりますが、事業に関わることはありません。株式取得後、合併によってSPCは消滅し、借入金は譲渡企業に残る形となります。
LBOファイナンスを活用する際には、返済不能を回避すること、前もってコストを見立てておくことが大切です。返済不能に陥ってしまえば、せっかく取得した事業を頓挫させることになります。
将来的に得られるキャッシュフローを正しく見積もるのは難しいので、事業内容をしっかり吟味し、リスクが生じる危険性を把握したうえでLBOファイナンスは実行しなければなりません。
また、TOBで株式を取得するため、株式を買い付けるのに必要なコストに関しては見通しが立てやすい性質があります。ただ敵対的TOBの場合は、防衛策を講じられてしまえば、予想以上に買収価格が高くなる可能性があるので注意が必要です。
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LBOファイナンスは、やや特徴的なM&A手法ですが、買い手側にとってリスクを抑えて、大規模な買収を行う際に最適な方法です。メリット・デメリットを踏まえて、よりメリットが享受できるときに利用することで、大幅に事業拡大を進めていけるでしょう。
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