合併といえば、会社の乗っ取りなど否定的なイメージを抱く方もいますが、会社間のシナジー効果を期待して使われるM&A手法の1つです。
この記事では、その中でも「新設合併」について、定義やメリット・デメリット、実例をわかりやすく紹介します。
合併というと、大きい会社が小さい会社を強制的に吸収しようとするイメージが強いかもしれません。しかし、M&Aにおける合併とはそういう意味ではなく、2つ以上の会社が所有する経営資産や負債などを1つにまとめることを総じて言います。
合併後、売り手の会社組織はクローズし、買い手の会社または新設会社に統合されるのが他のM&A手法との違いです。一方、買収は会社の経営権が買い手に移動し、売り手企業の組織はそのまま存続されることが合併との違いです。
合併はさらに新設合併と吸収合併の2つに分類されます。ここではその中でも新設合併について、その定義と吸収合併の違いなどについてわかりやすく解説していきます。
ちなみに、統合される事業に対する許認可がある場合、新設会社には引き継がれませんので、新設合併後、別途許認可に関する手続きを行う必要があります。新設合併に伴う手続きについては、手続きとデメリットの部分でより詳しく説明します。
新設合併の定義は会社法第2条28号に定められています。その内容は、2つ以上の会社が合併を行い、それによって消滅する会社の権利や義務を新しく設立する会社に承継させることを新設合併としています。
M&Aにおける他の手法である株式譲渡や事業譲渡では、取引後も売り手企業は存続します。しかし、新設合併は合併に関わるすべての企業が消滅し、その企業が持っていた事業や義務など、すべてが新しく設立された会社に集約される点で違いを持ちます。統合される事業や義務の中には、株式はもちろん、従業員や資産、取引先、技術などがすべて含まれます。
新設合併は他社同士で行うよりは、同じグループ会社の傘下にある子会社同士、または親会社と子会社間で行われるケースが多く見られます。新設合併を通じて、合併対象の企業間の関係性をさらに強くし、事業展開のシナジー効果を出すことを目的とするためです。
また、新設合併によって会社が持つ経営資源を効率的に配置し、システム集約などによってコスト削減や生産性向上なども図れます。
グループ傘下に類似性のある事業を展開している子会社が複数ある場合は、同じような設備や技術にコストが二重でかかっているでしょう。それらを新設合併を通じて1つの会社に統合した方が技術開発やコストなどの面でより利点があるはずです。
新設合併と吸収合併はそれぞれ合併の1種で、消滅する会社とすべてを統合する会社がある部分が共通点です。また、不要な資産や負債を除いて取引を行える事業譲渡と違い、引き継ぐ権利と義務の内容を自由に選択できない共通点も持っています。
ちなみに、吸収合併については、会社法第753条1項6号に定義されています。その内容は、合併によって消滅する会社が持つ権利と義務のすべてを、合併後に存続する会社に承継させるものとされています。
では新設合併と吸収合併にはどのような違いがあるでしょうか。ここでは4つの違いについて、詳しく説明していきます。
吸収合併も新設合併と同じく、1対1の取引だけでなく、複数の会社の合併を行えます。吸収合併では統合の主体になる1つの会社が、統合の対象になる1つ以上の会社の権利と義務をすべて承継します。つまり、売り手企業が消滅し、買い手企業が存続することになります。
一方新設合併は、言葉のとおり新しく設立される会社を持ちます。その新設会社が統合の主体となり、統合に関わるすべての会社が消滅し、彼らの権利と義務すべてが新設会社に集約する面が吸収合併との違いです。
新設合併と吸収合併は、消滅する会社の権利と義務を統合の主体になる会社が引き継ぐという共通点を持っています。上記でも少し触れましたが、合併において、消滅する会社から受け継ぐ権利や義務の内容は選択できず、すべてを引き継がなければなりません。これを包括的承継ともいいます。
しかし、新設合併では承継の主体が新しい会社となり、吸収合併では存続する会社が主体であることが違いです。
新設合併にて、消滅する会社が所有していた各種免許、許認可は引き継がれません。そのため、合併後も同じ事業を展開する場合は、事業内容に合った許認可を改めて申請する必要があります。例えば、食品の製造・販売業を引き継ぐ場合は、新設会社にて食品衛生法関係の許可を改めて申請します。
しかし、吸収合併の場合は、消滅会社から引き継ぐ権利と義務の中に、各種免許や許認可も含まれます。そのため、合併後も改めて許認可を申請する手間は発生しません。
株式市場上場の取り扱いについても両者の違いがあります。吸収合併では一般的に上場が取り消されることはありませんが、新設合併は以前の許認可がなくなり、全く新しい企業になるため、以前の上場も取り消されます。新設合併後、上場企業として企業を運営するためには、株式市場への上場申請が必要です。
新設合併において、消滅会社の株主は新設会社に集約され、対価として新設会社の株式や債券を受け取ります。新設会社はまだ現金を所有しておらず、株主への対価として現金を利用できないためです。
吸収合併でも消滅会社の株主が存続会社に集約されることは同じです。しかし、吸収合併では存続する会社が既存の法人であるため、既に現金を保有しています。つまり、吸収合併では株主が株式、社債、現金を対価として受け取られるのです。
新設合併と吸収合併の違いの説明を見ると、吸収合併にメリットが多いような印象を受けることも事実です。新設合併は許認可が引き継がれない、株式上場が取り消されるなどの不利益があり、合併後も必要な手続きが多いためです。
では、新設合併にはどのようなメリットがあり、特にどの状況で活用した方がいいでしょうか。ここでは新設合併のメリットを4つに絞って説明します。
新設合併を行うと、今まではあちらこちらに分散していた会社の経営資源を、1つの会社に集約できるメリットがあります。特に同じグループ傘下の会社同士であれば、類似点のある事業を展開していた可能性が高く、システム運営や人的資源管理などを一括できるので、無駄な出費をカットできるでしょう。
また、事業内容においても、統合対象間で重複している部分は1つに統合し、お互いになかった技術などは共有できるので、より効果的に技術開発や事業展開を行えます。
株式譲渡など、他のM&A手法では売り手が子会社化しても、組織はそのまま残るため、完全な経営統合ではありません。そのため、両社が持つ利点を完全な形で融合させることは難しいともいえます。
その反面、新設合併では複数の組織が集まり1つの新しい法人を形成するので、分散されている技術・経営資源を集めてシナジー効果を出すには最適なM&A手法です。
そして、合併対象の企業の1つが、後継者問題を抱えている場合も、新設合併はいい選択肢になり得るでしょう。優れた技術と業績を持った企業を後継者不在で廃業するより、その技術を必要とする他社と新設合併を行うと、技術も承継され、事業も拡大できるのでお互いにウィンウィンな結果になるはずです。
新設合併を通じて類似した事業を展開していた企業同士が統合され、合併後も同じ事業を継続して展開していく場合は、既存事業の領域の拡大に有利です。複数の会社に分散していた技術、特許などはもちろん、取引先や、メーカーの場合は生産工場まで、事業に関わる全ての資源が2倍以上に多くなるためです。
また、生産設備が増えたことにより、生産量も大幅に多くなり、生産する商品の単価を下げられ、市場競争が有利になる利点もあります。このような利点を活かし、既存事業でのシェア拡大はもちろん、新規市場への参入も容易になるでしょう。
そして、もし異なる分野の企業同士で新設合併を行った場合でも、お互いの持つノウハウを活かし、今までと全く違う事業に参入するなど、積極的に事業展開を行えるはずです。
M&Aの中でも合併、さらにその中でも吸収合併は売り手会社が消滅すると同時に他社に吸収されるので、どうしても敵対的合併のような印象を与えがちです。そのため、売り手会社の従業員から反感を買ったり、ときには売り手に残っていた優秀な人材が流出したりするリスクも抱えています。
しかし新設合併は統合に関わる全ての会社が消滅し、彼らが持っていた資源がすべて1つの新設会社に集約されるため、合併対象の企業間に上下関係のようなものは発生しません。お互いが対等な関係で合併を行うという面で、吸収合併よりはポジティブな印象を与えます。
しかし、合併によって既存の組織がなくなり、従業員を取り巻く環境が急激に変化することは新設合併も吸収合併も変わりません。新設合併のメリットを最大限活かしながらプロセスを成功的に進めるためには、M&A手法に関する十分な理解と従業員に対する対応を考えるなど、十分な準備をした方がいいでしょう。
これらの懸念事項を潰すためには、信頼できるM&A仲介会社など、前もって専門家に相談を行うことをおすすめします。
M&A手法の内、株式譲渡や事業譲渡を行うためには、譲渡の対価として多額の現金を準備する必要があります。事業運営資金以外に十分な現金を保有していない会社からすると、M&Aのための費用はかなりの負担になるでしょう。
その反面、新設合併を含め、合併でM&Aを進める場合は対価として多額の現金を準備する必要がないメリットがあります。吸収合併では対価として現金を株主に渡すこともありますが、一般的には合併の対価として、会社の株式や社債を株主に渡します。
株主に対価として渡す十分な現金を保有していないけれど、M&Aを通じて会社をさらに成長させたいという方には、新設合併がいい選択肢の1つになるかもしれません。
新設合併と吸収合併の違いでも説明したとおり、新設合併にはいろいろなデメリットも存在します。引き継がれない権利や義務、許認可などがあることから、手続きが煩雑になることや、株主への対価として現金を使用できない部分などです。
しかし、デメリットについて事前に知っておくと、対象方法も準備できるため、新設合併のメリットを最大限にすることもできるはずです。ここでは新設合併の主なデメリット4つについて詳しく説明します。
既に複数回説明していますが、新設合併に必要な手続きはかなり多く、手間がかかります。それは吸収合併と比較した場合はもちろん、他のM&A手法と比較を行ってもかなりの手間がかかることがわかります。
合併には債権者保護手続きや株主総会での特別決議が義務付けられており、それらはかなりの時間と資源がかかる手続きでもあります。それらに加え、新設合併では引き継げなかった許認可の再申請はもちろん、株式上場取り消しされた場合は再度上場申請も行わないといけないなど、追加の手続きが発生します。
M&Aにおいてもっともよく使われる手法の1つである株式譲渡は、その手続きが比較的にかんたんで、譲渡契約締結まで最短で2カ月かかるケースも存在します。それに比べて新設合併は長くなると1年以上の期間を要するため、スムーズに新設合併を進めるためには専門家の力が必要不可欠です。
新設合併には膨大な手続きがある上、会社新設に伴う登記申請や手続きも発生するため、他のM&A手法と比較すると高いコストがかかります。
会社を設立する際、新設会社の定款の認証を得て、登録免許税を支払う必要がありますが、その手続きだけでも20~30万円以上の費用がかかります。その上、スムーズな手続きのために専門家に業務を委託した場合は、1時間2~5万円の費用が請求されます。
会社新設のために資本金も準備しておく必要があるため、保有する現金に余裕がないと、新設合併を利用したM&A締結は難しいでしょう。
また、登録免許税の計算方法も吸収合併とは異なるので、注意が必要です。吸収合併では、合併で増加した資本金の部分のみに0.15%の税金がかかります。しかし、新設合併では新設会社の資本金全体に0.15%の税金が課されるため、かなりの金額になります。
上記のように、新設合併には各種手続きに対する費用がかかることに加え、税金の対象となる資本金の範囲も広く、ケースによっては数千万円から数億円が費用として請求される可能性があります。
新設合併に伴う費用に関しては事前に専門家との相談を通じて、綿密な概算をし、十分な資金を準備した上で行うようにしましょう。
吸収合併にも該当することですが、もともと違う組織だった複数の会社が統合されるため、合併後の統合作業にかなりの時間と能力がかかります。
登記上で複数の会社を統合したとしても、その中身はまだバラバラであり、PMI(Post Merger Integration)と呼ばれる正式の統合作業を通じてこそ、完全に1つの会社となります。
それぞれの消滅会社が本来持っていた経営方針から人事制度を含め、会社運営システムにさまざまな違いがあるはずです。それらを1つずつすり合わせし、共通点と差異に分けて、1つのシステム化する過程すべてがPMIと呼ばれます。2社間のPMIも大変ですが、対象会社が2社以上になるとPMIにかかる時間や能力がよりかかることは当然でしょう。
PMIプロセスにはシステムや社風を統合する手続き以外にも、将来の事業運営のための戦略作成なども含まれます。
PMIにかかる能力を最小限にするためには、新設合併プロセスの中で専門家との相談を通じて、PMI計画を予め作成しておくべきでしょう。
株主は新設合併の対価として、現金を受け取れないことは前項でも説明しました。もちろん消滅会社の方にも対価としての現金は渡らないため、もしM&Aを通じて新事業に対する資金を獲得したい場合、新設合併はいい選択肢にはなれません。
また、新設合併の対価で株式や社債を獲得したとしても、新設合併による非上場状態が持続されると、株価が変動し、損をするケースもあり得ます。
新設合併による現金の対価が発生しないことで、そもそも株主が新設合併に反対する可能性もあります。新設合併の準備プロセスの中で、このような株主の反対に対応する方法も備えておくべきでしょう。
新設合併を行うためには、まず社内で承認手続きを踏む必要があります。社内で承認が下りた後は各種書類と契約書の作成、株主総会の開催などが行われ、合併が正式に締結してからも登記申請などの手続きが残ります。
また、新設合併では手続き前後に情報の開示が求められる他、債権者保護手続きや反対株主に対する対応も必要です。
このように、ざっくりまとめただけでも膨大な手続きがある新設合併の流れですが、実際は各ステップでどのような手続きが行われるでしょうか。実際は多少前後する場合もありますが、新設合併手続きの一般的な流れを10ステップに分けて詳細内容まで説明していきます。
新設合併に向けて下準備をする段階です。この段階では、既にM&A手法に関する論議は終わっており、新設合併の相手候補も決まっている状態です。
事前準備の具体的な内容としては、新設合併の契約書に記載する内容の検討、債権者の確認、相手会社のデューデリジェンスと価値評価も含まれます。会社を新設するための準備や債権者保護手続きの準備に関してもこの段階で行います。
新設合併の手続き中、締結後に債権者保護手続きと新設会社に対する各種申請を行いますが、この段階で必要書類等をしっかり準備しないと、スムーズに手続きを進めなくなります。必ず専門家との事前相談を通じて、この段階での準備に抜け漏れがないようにしましょう。
準備段階で新設合併の方向性や必要書類が整ったら、取締役会にて新設合併案の決議を行います。この段階で、事前準備段階でまとめた新設合併案に問題やリスクはないか確認する作業も行われます。問題がない場合、取締役会で新設合併案が正式な案として決まります。
取締役会で正式に決まった内容をもとに、相手会社と新設合併契約書を作成します。契約書に記載すべき内容は、会社法第753条によって定められております。必須事項をまとめると次のとおりです。
上記の項目はあくまでも必須事項ですので、案件ごとに必要な項目を追記することももちろん可能です。しかし、契約書は法的効力があり、作成法を間違えると後々トラブルになりかねます。契約書作成は必ずM&A仲介会社や弁護士など、専門家との綿密な相談のもとに行いましょう。
新設合併により消滅する予定の会社は、会社法第803条によって新設合併に関する各種次項を書面にて開示する義務を持ちます。会社法において書類の備置き、備置という表現を使います。
この情報が開示は電子公告も認められ、主に自社のホームページや任官新聞などに掲載されます。書類の備置きは、新設会社の設立日まで継続することも義務付けられています。
事前情報の備置きに記載すべき項目は次のとおりです。
また、備置きを開示するタイミングは、株主総会の2週間前、または株主向けに通知を行う日のどちらかで、より早い日程を選んで開示する必要があります。
債権者保護手続きは、新設合併によって消滅予定の会社と債務関係を持っている債権者が、新設合併によって損失を被ることがないようにするための手続きです。債権者が会社に現金などを貸しているのは、後日会社の収益から投資金を回収できると信じているためです。しかし、新設合併を行うと、今まで安定していた業績が急に変動し、投資金を返してもらえないリスクが発生します。
会社法ではこのようなリスクを未然に防ぐため、新設合併時に必ず債権者保護手続きを行うように定めています。その内容については、官報による公告と債権者への個別催告の2つに分かれます。また、債権者が異議を唱えることに備えて1カ月以上の期間を設定すべきです。
官報は政府発行のもので、法令などの公的な情報を告知する目的を持っています。新設合併について、官報に告示すべき内容は新設合併を実施することや消滅会社の住所、称号などがあります。
債権者への個別催告の対象は、会社が把握しているすべての債権者です。その催告内容は官報に公告する内容と同じです。個別催告は会社法によって定められたことではありますが、電子公告や日刊新聞での広告を実施した場合、個別催告の省略が認められるケースもあります。
新設合併には株式総会での決議も必要です。株主総会を開催するためには、事前に株主へ招待状を出す必要があります。また、新設合併は株主総会でいう特別決議事項であり、普通決議とは条件が異なります。事前に確認しておきましょう。
公開会社は株主総会の1週間前、非公開会社は2週間前までに株主宛に召集通知を出すことが、会社法第299条にて定められています。通知は基本的に電子通知でも構いませんが、取締役会を設置しているなど、一部の条件に当てはまる場合は書面での通知が義務付けられます。
株主総会では、参加する株主の決議権を合わせて全体の過半数以上になること、そして参加した株主が持つ決議権の2/3以上の賛成を得ることで、特別決議が可決します。
特別決議は普通決議に比べると可決の条件が厳しく、新設合併における可決条件にも例外ケースがあります。事前に専門家と相談し、株主への説明内容や可決条件などをしっかりチェックしておきましょう。
消滅予定会社の株主の内、新設合併に反対する株主は、自分が所有していた株式に関する対価を消滅会社側から受け取る権利を持っています。これは会社法第806条に定められた内容で、消滅会社は反対株主から請求を受けた場合、それに応じる必要があります。
株主総会での決議から2週間以内に、株主に新設合併に関する内容を公告し、それに反対する株主から消滅会社側に所有している株式分の対価を請求します。株式の対価は原則新設会社の設立から60日以内に支払う義務が発生します。
上記の手続きをすべて終えてからこそ、新設合併の効力が発生します。新設会社の設立日に、消滅会社が所有していた権利と義務をすべて引き継ぐことが、会社法第754条にて定められています。また、会社を設立するためにはそれに伴う各種登記が必要で、登記の申請日から新設会社の効力が発生します。
登記申請の内容については、次項で詳しく説明します。
登記を申請する際、新しい会社の設立登記はもちろん、消滅会社に対する解散登記もあわせて行う必要があります。ケースによって書類が増えることもありますが、最小限必要な書類は次のとおりです。
新設登記に関しては、さまざまな添付書類が必要ですが、解散登記は申請書のみの提出で受理されます。各ケースによって異なる様式や添付書類などを事前に確認しておきましょう。
すべての手続きを終え、新設会社の効力が発生してからも情報開示を行う義務があります。会社法815条により、新設会社の成立日に新設会社に関連する事項を書面、または電子公告する必要があります。
書類の備置きは新設会社の設立日から6カ月間、本店所在地にて行われることが義務付けられており、株主や債権者はそれを閲覧する権利を持ちます。この書面の事後開示を持って、新設合併のすべての手続きが終了します。
新設合併のわかりやすい13事例を紹介します。
2015年、野村不動産マスターファンド投資法人(NMF)は野村不動産オフィスファンド投資法人(NOF)とび野村不動産レジデンシャル投資法人(NRF)と新設合併を通じて新法人を設立すると発表しました。
日本のREIT(投資家から資金を集めて不動産投資を行う事業)市場は当時、日本銀行が追加融資緩和を行ったことなどにより、成長を続けている状況でした。その中、NMFとNOF、NRF3社は野村不動産HDを親会社とする野村不動産投資顧問株式会社に資産運用を委託しており、それぞれ違う分野のREIT商品を販売していました。
その後も成長が予想されるREIT市場において、該当3社はさらなる成長と安定した収益を確保するため、新設合併に踏み切りました。合併後の新会社は野村不動産マスターファンド投資法人という名前で株式市場への再上場も果たし、今も優秀な業績で運営されています。
参考
https://www.nre-mf.co.jp/file/nmf/tmp-kUJLS.pdf
大阪府が運営していた大阪府立大学と大阪市が運営していた大阪市立大学が、2016年9月、新設合併により1つの大学法人化すると発表しました。
大阪府立大学は理系中心の大学で、大阪市立大学が総合大学として医学部を保有する大学として、優秀な人材を輩出してきました。大阪府や大阪市としては、両大学は知的インフラとしても、成長戦略としても重要な役割を果たしてきました。
しかし、少子化による入学者数の減少やグローバル化による大学間の競争が深刻化してきたことから、両大学は新しい突破口として統合を選びました。両法人は2019年4月付で統合し、公立大学法人大阪として生まれ変わりました。
統合後しばらくは両大学それぞれ新入生を受け入れてきましたが、2022年4月からは大阪公立大学の名前で一元化して新入生を受け入れる予定です。
参考
https://www.upc-osaka.ac.jp/integration/
https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/about/info_university/integration
https://www.upc-osaka.ac.jp/about/ideas/idea/
2003年、三越百貨店を運営していた三越は、千葉三越、名古屋三越、福岡三越、鹿児島三越と新設合併を通じて、新・三越を誕生させました。全国の三越百貨店の運営主体を1つにすることにより、流通網や顧客層の強化を図るための合併で、新設合併により一度上場廃止されましたが、後日再上場を果たしました。
2011年には伊勢丹を吸収合併し(株)三越伊勢丹となった三越は、現在は三越伊勢丹HDの傘下企業として、百貨店などの流通事業を活発に行っております。
参考
https://www.imhds.co.jp/content/dam/imhds/assets/pdf/ja/news_release/2003/03_0522_news_m.pdf
https://www.imhds.co.jp/ja/company/history_imhds.html
ソフトウェアの開発、販売業を行っていたサイバネットシステムが2019年、カナダに所在する連結子会社CYBERNET HOLDINGSCANADA, INC.(CHCA)と連結孫会社であるWATERLOO MAPLE INC.(Maplesoft)の2社を新設合併して統合しました。新設会社の称号はWATERLOO MAPLE INC.です。
本来CHCAはカナダの企業の買収推奨と、現地におけるグループ事業の統括のために設立された会社であり、Maplesoft社を株式取得を通じて子会社化していました。その後、組織再編を通じて、CHCAとMaplesoftの経営資源を統合し、より効率的な経営のために新設合併に至りました。
この新設合併はサイバネットシステムの連結子会社間で行われたことであったため、彼らの親会社であるサイバネットシステムに大きな影響はありませんでした。
参考
https://www.cybernet.jp/documents/pdf/press/2019/190523.pdf
富士ゼロックスは2010年1月、新設会社である富士ゼロックスマニュファクチュアリングを設立しました。富士ゼロックスイメージングマテリアルズ・鈴鹿富士ゼロックス・新潟富士ゼロックス製造・富士ゼロックス竹松工場を統合させた、新設合併の形でした。
この合併はグループ内の生産・技術力を再編し、経営の効率化を通じて生産性と技術力を向上させるためのものでした。
なお、2021年4月からは社名を富士ゼロックスから富士フイルムビジネスイノベーションに変更しました。米国のゼロックス社と合弁関係にあった富士フイルムは、2018年にゼロックスの買収に乗り出しましたが、買収合意を破棄されたことにより長年訴訟が続いていました。この社名変更はゼロックスの買収を断念し、独自ブランドで新しく事業を展開するためのものと見られます。
参考
https://br-succeed.jp/content/knowledge/post-3189#chapter-6
https://maonline.jp/news/20200106jp
2010年3月、投資法人のアドバンス・レジデンスは日本レジデンシャル投資法人との新設合併で、新しい会社を設立しました。当初吸収合併を予定していたものを新設合併に変更し、新社名はアドバンス・レジデンス投資法人としました。2010年3月2日には株式市場への再上場も果たしました。
この合併は、日本レジデンシャルが持っていた住宅系REITでの強みと、アドバンス・レジデンスが持つスポンサーサポート力を掛け合わせ、日本のREIT市場でさらなる成長を果たすためのものでした。なお、この合併は日本REIT市場における初めての合併でした。
アドバンス・レジデンスは現在も伊藤忠グループとサポート関係を構築し、マンションや学生寮など、住宅系REITを中心に事業を展開する日本最大級の投資法人として運営を継続しています。
参考
https://www.adr-reit.com/former/financial/pdf/gappei_090928.pdf
https://www.adr-reit.com/company/talks/
https://www.adr-reit.com/company/about/
2016年、当時北越紀州製紙株式会社だった北越コーポレーションは、カナダの連結子会社3社(Alpac Forest Products Inc.(AFPI)、Alberta Pacific Forest Industries Inc.(APFI)、Alpac Pulp Sales Inc.(APSI))を統合し、新しい会社を設立することを発表しました。
2015年、北越コーポレーションは、単一工場としては北米市場最大のパルプ工場を保有するAFPI社と、そこで製造された紙製品を全世界に販売する子会社APFI、APSIを株式取得を通じて子会社化しました。
この新設合併は現地法人の管理機能を効率化すると同時に、世界製紙市場での競争力を強化するためのものとして行われました。
その後、2018年に称号を北越コーポレーションに変更し、SDGsを踏まえた事業戦略を展開し、環境保全と事業対策の調和を考える企業として活躍しています。
参考
http://www.hokuetsucorp.com/pdf/OSIRASE/20160630_release01.pdf
http://www.hokuetsucorp.com/company/greetings.html
http://www.hokuetsucorp.com/company/history.html
医療法人である病院間の統合にも新設合併が使われた事例があります。2019年4月、大阪の堺温心会病院と浜寺中央病院が経営統合し、堺平成病院として新しく誕生しました。両病院はそれぞれ1966年、1951年に設立され、地域に根付いた医療サービスを提供してきました。
しかし、病院建物の老朽化で設備投資の必要性が出てきた状況下で、立地的部分も近かったことから新しく病院を建設し、経営も統合することに合意したのでした。
統合後は地域密着型の中規模病院として、入院患者はもちろん各種外来診療や救急医療の受け皿として活躍しています。この事例の他にも、特に地方における病院の統合は今後も活発になる見込みです。
参考
https://sakaiheisei.jp/blog/id_728
https://sakaiheisei.jp/about/greeting
自治体間の統合でも新設合併が使われたケースが存在します。2010年、福岡県の前原市と二丈町、志摩町を統合し、糸島市として生まれ変わりました。
福岡県は面積や人口において中小規模の自治体が多かったことから、1999年~2006年にかけて自治体間の合併を活発に行ってきました。糸島氏の合併のこのような自治体間合併の一連の流れとして、以前から合併が論議されてきましたが、該当地域間の意見差により、なかなか合併が決まらずにいました。
その後、住民の意識変化により、2008年に過半数以上が合併案に同意し、2010年には正式に自治体が統合されました。自治体の合併は地域面積と人口を集約させることにより、より便利な住民サービスと重点的な地域開発を行うためのものであり、日本各地で行われています。
参考
http://www.lib.pref.fukuoka.jp/hp/tosho/renkei/2009/genkou/p26.pdf
http://www.gappei-archive.soumu.go.jp/db/40huku/0273ito/site/syoukai/aisatsu.html
2018年、PR会社ベクトルの子会社だったLAUGHTECH、OPENERS、JIONの3社が統合し、新会社のスマートメディアが誕生しました。統合対象の3社はそれぞれ特徴的なWebメディアを運営しており、根強い人気を持っていました。彼らが持つWebメディア制作のノウハウを活かし、スマートメディアではより幅広いジャンルを網羅して情報を発信しています。
現在スマートメディアはWebメディアでのノウハウを活かし、オウンドメディア制作からSNS運用、Webコンテンツ制作などの事業を展開しています。
参考
https://www.wwdjapan.com/articles/731081
https://sma-media.com/about
東洋製罐グループホールディングスでも海外子会社間の新設合併を行った事例があります。2013年、当時東洋製罐だった東洋製罐グループHDは、タイにおける連結子会社のWell Pack Innovation Co., Ltd.(WPI)、Toyo Pack International Co., Ltd.(TPI)、Toyo Seikan Technical & Administration Service Center(Asia) Co., Ltd.(TAS)の3社を新設合併することを発表しました。
統合により、プラスチック製品の製造販売とグループ会社への技術支援機能を集約したことはもちろん、当時タイにて深刻な問題だった洪水の復興への効率化を図ったものでした。
東洋製罐グループホールディングスは現在もプラスチックをはじめとする紙やガラス素材の製造容器の製造、販売を中心に、国内外に事業を展開しています。
参考
http://ke.kabupro.jp/tsp/20130501/140120130501029141.pdf
https://www.tskg-hd.com/company/
農協組合においても、新設合併が活用された事例があります。2018年3月、JAグリーン鹿児島、JAかごしま中央、JA東部が新設合併し、鹿児島みらい農業協同組合して、県内の組合員数最大の農協として再誕生しました。
鹿児島みらい農業協同組合は都市型農協として、信用事業や共済事業にも強みを持っています。その他にも、産地と販売店が近い利点を利用し、軟弱野菜の栽培と直売所への展開に力を入れています。他にも地域性の強い作物の展開も強みとしています。
また、特産品の桜島小みかんを活用しサイダーを生産するなど、農産物の加工製造業にも力を入れています。
このような農協間の統合も自治体統合と同じく、長年行われてきました。組合員数拡大による利益向上と運営効率化のメリットがあるためです。今後も中小規模の農協間で同じような事例が発生すると予想されます。
参考
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO21514580V20C17A9LXC000/
https://mainichi.jp/articles/20180302/ddl/k46/020/547000c
福岡県の糸島市と類似事例ですが、栃木県でも自治体間の統合が行われました。2010年3月、栃木市、下津加群大平町、下津加群藤岡町、下津加群都賀町が新設合併し、新しい栃木市としてスタートを切りました。栃木市はその後も2011年、2014年にそれぞれ編入合併を行いました。
このような自治体間の合併は、地方都市の過疎化が進む限り継続されると見込まれています。住民の高齢化により人口が減ると、自治体の収入減である税金も減少し、住民サービスが行き届かなくなります。自治体合併を行うと、広域における資源が集約できるので、医療や福祉などのサービス内容向上を図れます。
また、統合前の自治体がそれぞれ持っていた強みを活かし、地域発展を達成することで自治体の価値も上がり、将来的には若い世代の移住なども図れるでしょう。
参考
https://www.city.tochigi.lg.jp/uploaded/attachment/6219.pdf
https://www.pref.tochigi.lg.jp/a02/pref/shichouson/gappei/1174633899527.html
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新設合併は新しく設立した会社に合併対象になる企業の資本をすべて集約し、1つにするM&A手法です。同じく合併カテゴリーの吸収合併に比べると、手続きに膨大な手間と時間がかかるデメリットも持っていますが、合併対象が対等な関係であり、合併からくるマイナスなイメージがないことがメリットでもあります。
また、複数の会社が持つ利点を1つにまとめてシナジー効果を出すためには、最適なM&A手法ともいえます。
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