合併交付金の仕組みや手続きの流れは、M&Aを検討する際に知っておきたいことのひとつです。
本記事では、交付金合併や合併交付金について仕訳やメリット・デメリットをわかりやすく解説します。新しくできた交付金合併についてぜひ理解を深めましょう。
交付金合併は、M&Aの際に使われる方法のひとつで、合併する際に株式ではなく「金銭」で交付することで成立します。2007年の会社法改正にともない、加わりました。
通常、合併と聞くと「株式」を利用して交付するのが一般的だと考える方も多いでしょう。また、これまでは端数分の株式に対してのみ、金銭での交付が認められていました。
しかし、M&Aが活発になり、手法やスタイルの多様化から株式以外での交付が認められるようになったのです。そのため、交付金合併は新しいM&A手法のひとつであるともいえるでしょう。
交付金合併は、別名「キャッシュアウト・マージャー」ともいわれています。
また、交付金合併は吸収合併であり、消滅する会社と存続する会社がいることで成立するものです。存続側が1社いれば、吸収される側は何社あっても問題はありません。ただし、2社間でおこなわれるのが一般的で、件数ももっとも多いでしょう。
交付金合併と合わせて知っておきたい用語として「無対価合併」があります。無対価合併は、対価として「株式」も「金銭」も交付しないM&A手法です。
たとえば、親会社が子会社を100%吸収した場合や、子会社同士が合併した場合、債務超過企業を合併した場合などに当てはまります。対価として払う資産を準備する必要や、時価評価を算出する手間などが省かれるため、簡易的な合併手法として取り入れられているのです。
合併交付金は、交付金合併によって支払う「金銭」のことです。具体的には、合併して吸収された企業(消滅会社)の株主に支払われる現金を示します。反対に、存続する会社の株主に対しては支払われません。
合併する企業同士の決算期が違う場合や、株式の割当比率における端数調整の際に、株主に対して交付されるものです。合併して存続する側の会社が、消滅する会社の株主に対して交付をおこないます。
また、合併交付金は、消滅会社の最終利益から「株主への最終配当」との意味合いで交付するケースもあるでしょう。
では、合併交付金を発生させる「交付金合併」をおこなうメリットやデメリットはどんなものでしょうか?よい点・悪い点にわけてそれぞれ解説します。
交付金合併によるメリットとして、消滅する会社の株主を引き継がずに済むことが挙げられるでしょう。通常、株式の交付を通した合併であれば、残るほうの会社へ株主も移動します。
そもそも消滅会社の株主が、かならずしも存続会社へプラスの影響を与えてくれるとは限りません。たとえば、消滅会社には悪質な株主が含まれているケースもあり、そういった株主を引き継ぐと、株主総会で取り入れるべきではない意見にも耳を傾ける必要も生じます。
場合によっては、合併後に経営が悪化し、存続会社の評価が下がる場合もあるでしょう。そのため、合併交付金があることで、株主との関係を解消できるのは大きなメリットです。
また、存続する会社にいる既存株主にとってもメリットがあります。通常の場合、消滅会社から株主が移るため、移動した株主にも株式が交付されるのです。そうすると、既存株主が保有する株の比率も落ちてしまいます。持株比率が下がれば、株主に還元される利益も下がる可能性が高まるでしょう。
合併交付金での交付であれば、株式がかかわらないため、持ち株比率には影響もありません。既存株主が合併によって不利益を被らない点も、交付金合併ではプラスのポイントでしょう。
一方で、交付金合併によるデメリットは、非課税対象にならないことです。
株式交付による合併では「組織再編税制」が適用され、移動した資産に対して課税を生じさせない措置を受けられます。組織再編税制は平成13年に導入された仕組みで、株式など時価評価によって判断される資産を用いて吸収合併をおこなう際に、多大な税金が合併後の組織へ負担をかけないように制定されました。適用されると、移転する資産や負債を帳簿価格にて引き継げるため、移転時には課税されないのです。
しかし、「金銭」の交付で合併をおこなう交付金合併では、組織再編税制の適格要件を満たせません。つまり、合併によって交付した資産が課税対象となってしまうのです。
また、合併交付金を用意するにあたっては、現金が必要です。株式交付とは異なり、消滅する会社の時価総額によっては、事前に多額の現金を用意することが求められるでしょう。
課税対象になる点、事前の資金調達が必要な点は、交付金合併を検討するうえで重要な要素といえます。
ここからは、交付金合併を実施する際、具体的にどのような手順でおこなわれるかを見てみましょう。手続きは、以下5つの段階を踏んでおこなわれます。
まずは、双方の取締役会同士で決議をおこない、交付金合併の契約を結びます。
契約では、合併交付金の詳細を定めておくことが必要です。具体的には、以下の項目を定めます。
契約の成立は、この時点で決まった条件をもとに進められるため、契約内容は双方で交渉を重ね慎重に定めましょう。
次に、株主総会で株主から承認してもらいます。株主総会では、3分の2以上の賛同が必要です。特に、消滅会社の株主においては、これまでの関係を交付金によって解消する必要があり、賛同を得ることは難しい場合もあるかもしれません。
反対する株主が多ければ、合併も失敗に終わりますし、交付金の金額も増えてしまいます。そのため、株主総会の前から合併する意向や目的を正しく伝え、状況や会社の今後についても納得してもらうことが必要不可欠でしょう。
ちなみに、略式・簡易合併の場合であれば、株主総会を通さずに手続きを実施することも可能です。
株主総会で賛同を得られたら、株主の利益を保護するための手続きをおこないます。具体的には、合併の効力が発生する日の20日前までに、株主へ交付金合併が実施されることや存続するほうの会社情報(住所や商号など)を通知するのが一般的です。合併に賛同しない株主がいた場合は、保有していた株式を買い取ります。
また、会社の債権者への対応としては、効力発生日の1カ月前までに、官報を通した公告・個別催告・弁済をおこなう決まりです。2社の合併が実施された場合、各社へ金銭の貸付をしていた債権者にはリスクが生じます。
たとえば、業績の悪いA社が業績のよいB社と合併した場合、B社に貸付けていた債権者は、金銭を回収できない可能性が発生します。この事態を防ぐために、事前に合併を知らせて異議を申し立てられる機会を作ります。そして、異議があった場合には、弁済や相当額の担保提供などで対応します。
株主・債権者を保護する手続きの後は、効力発生日が訪れるまでの間に、合併で消滅する会社が存続会社に保有資産や権利を移動させます。
移動する資産には、従業員も含まれます。消滅する会社で勤務していた従業員は、原則引き継がれるため、就業規則の調整や業務を円滑にすすめるための準備なども必要です。
双方の従業員同士でうまくいかず、トラブルが発生する場合もあるため、特に「人材」の移転については慎重に進めましょう。
また、存続会社はこのタイミングで合併交付金を消滅会社の株主へ渡します。合併交付金として利用する現金を事前に準備しておくことも必須です。
最後に、登記変更をおこないます。登記変更は、消滅側では解散する登記を、存続側では変更登記をそれぞれ実施します。登記変更は、効力発生日から2週間以内におこなう決まりです。
また、同時に「開示書類の事後備置」もしましょう。事後備置は、交付金合併に関する書類を6カ月間、存続側の本店にて備え置く手続きです。消滅側は、効力発生日まで書類を備え置きます。
いずれも、当事者だけでは複雑な手続きのため、司法書士や仲介会社へ依頼するのが一般的です。
合併交付金は、株式ではなく金銭で交付します。そのため、仕訳の勘定科目は「現金」となるため覚えておきましょう。
また、仕訳をおこなうのは合併後に存続する側の会社です。存続側では、交付によって資産である現金が減少しているため、合併交付金の金額を「貸方」へ仕訳します。
たとえば、合併交付金が1,500万円であった場合は、それを支払った存続会社が貸方に現金1,500万円を仕訳します。
交付金合併は、株式による交付と異なり、課税対象です。そのため、税金が発生します。
株式を用いた吸収合併では、組織再編税制上で「適格」とされ、消滅会社の持つ資産や負債の評価額をそのまま引き継ぐことが可能です。つまり、資産の移転前後では実質的に変更がなく、編成後も資産の管理を継続できると判断されて、法人税の課税を繰延べられます。
しかし、現金による交付をおこなう交付金合併では、組織再編税制では「非適格」です。というのも、移転時の資産は時価で計上するため、株式とは異なり「譲渡益」が発生してしまうからです。そのため、交付金合併では多額の法人税が発生します。
事前に法人税がかかることを考慮して、交付金合併にするか、通常の吸収合併にするかを検討することが大切です。
また、合併交付金に限らず多くのM&Aでは、税務が複雑になり、双方の経理担当者のみならず顧問税理士ですら判断に迷うケースも珍しくありません。本来の税金よりも多く法人税を払ってしまう場合もあるほどです。
ゆえに、合併の際にはたしかな知識を持つ専門家に依頼して、アドバイスをもらいながら税務処理を進めるのがおすすめです。
交付金合併は、株主に対するメリットも多いM&A手法です。しかし、手続きには専門的な知識や事前の綿密なリサーチが必要不可欠でしょう。
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合併交付金は、交付金合併の手続きにおいて、消滅企業の株主に渡す「金銭」だと解説しました。合併後の運営を考えると、消滅会社の株主との関係を断ち切れたり、存続会社の既存株主にとって持ち株比率を保てたりと魅力も多い取引手法です。
しかし、交付金が課税対象となる点や、事前に十分な資金を用意しておく必要があり、安易には選択するのが難しい方法ともいえるでしょう。
交付金合併をはじめM&Aは、入念な準備や複雑な手続きが必要で、合併後の計画までしっかりと考慮したうえで、ベストな方法を選択することが大切です。
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