事業の一部を売却する事業譲渡は、M&Aでもよく利用される手法です。事業譲渡は不採算事業だけを売却できるため、本業に集中したい方に向いています。
事業譲渡では株主総会が必要な場合と不要な場合があるので、それぞれの条件を確認しましょう。
事業譲渡とは、事業の一部を売却するM&A方法です。事業とは人材やモノ、権利も含まれています。事業譲渡は、不採算事業など思うように成長ができなかった事業を売却して、本業やほかの業務に集中できるのがメリットです。
ただし、売り手側は事業の売却益が発生するため税金が発生します。株式譲渡などとは異なり、事業譲渡では売却する資産や事業が選べるため、手続きが複雑になるのがデメリットです。また、事業譲渡では株主総会が必要となる場合があるので覚えておきましょう。
株主総会とは、株式を持つ企業の所有者たちが集まり、多数決にて決議を行うものです。事業譲渡で株主総会が必要になるケースと、不要なケースについて詳しく紹介します。
事業譲渡で株主総会が必要となる条件は、大きく分けて以下の3つです。
「事業の重要な一部を譲渡する場合」とは、株式に利害に大きくかかわる事業を指します。また、売却する帳簿上の価額が総資産の5分の1以上であるかどうかも判断の基準です。
設立して2年以内の企業である場合、条件にかかわらず株主総会が必要ですので留意しておきましょう。
事業譲渡の買い手が売り手側の株式を9割以上取得している場合は、株主総会が省略されます。売り手企業の株式を9割以上保有している企業は「特別支配会社」と呼ばれ、事業譲渡は基本的に特別支配会社の意向通りとなります。
特別支配会社以外の会社が買収する場合も、対価や財産の帳簿価額に比べて、法務省令の定めによって算出された純資産額が5分の1以下であれば株主総会は不要です。
ただし、一定数以上の株式を保有している株主から事業譲渡に対する反対の声が挙がれば、効力発生日の前日までに株主総会を開かなければなりません。
事業譲渡の流れや手続きについて紹介します。相手企業と友好的な契約を結ぶためにも、1つずつ丁寧に必要な手続きをこなしていきましょう。
事業を売却する側は、経済的な問題や本業へ集中したいといった理由から事業譲渡を検討します。一方、買い手側は新規事業への参入や事業規模の拡大を目的に買収を行うケースが多く見られます。事業譲渡を行う際は、相手先とニーズがマッチしているか確認することが大切です。
お互いのニーズを確認するためにも、きちんと事業譲渡の準備を行いましょう。M&Aではすぐにマッチングする売買先が見つかるとは限りません。まずはM&A仲介会社に相談をするなどしながら、売り手と買い手の両社が希望の条件に合う事業を探しましょう。
売買ニーズにマッチした企業が見つかった方は、さっそく交渉を開始します。お互いに譲れない条件などがあれば、交渉の段階で伝えておきましょう。M&A仲介会社を通して事業譲渡を行う場合は、担当のアドバイザーが仲介に入ってくれる可能性があります。
M&Aでは今度の経営も踏まえ、友好的な交渉が望ましいといえます。経営者同士で理解を深めながら交渉を進めていくためにも、事業譲渡契約をするかどうかの判断がしやすい企業の情報や事業の現在の状況などを、資料などにわかりやすくまとめておきましょう。
秘密保持契約とは、交渉の段階で提示した企業の秘密や個人情報などを外部に漏らさない約束をする契約です。きちんと秘密保持契約を結ばずに交渉や条件の擦り合わせを続けると、自社の情報が漏れたり、利用されたりする可能性があるので注意してください。
交渉が進み事業譲渡の可能性が高まれば、トップ面談を行います。経営者同士で事業に対する目標や目的などを話し合い、お互いに協力できる体制を整えていきましょう。
基本合意とは、買収監査の前に事業譲渡に関わる売り手と買い手で合意した条件を示すものです。基本合意契約書を締結し、改めてM&Aの手続きを進めるスケジュールを組みます。基本合意契約は事業譲渡を確実に約束するものではありませんので、留意しておいてください。
基本合意契約は独占交渉権ともなり、この後行うデューディリジェンスを進める旨を約束するものです。デューディリジェンスは多額の費用がかかるため、一方的に交渉が打ち切られると買い手側のデューディリジェンス費用が無駄になります。このようなリスクを回避するためにも、基本合意契約の締結は必ず行いましょう。
デューディリジェンスとは、買収監査のことです。事業譲渡のデューディリジェンスでは、一部の事業財産だけを監査するのではなく、ノウハウや技術、従業員などの組織一帯を調査します。
M&Aでは、売り手企業の債務調査など基本情報だけでは知り得ない企業の実態を調べることが大切です。デューディリジェンスは買い手側が経済的または経営上のリスクを事前に調べるために行うものです。デューディリジェンス費用は基本的に買い手側企業が負担します。
事業譲渡の条件や売却価格などの擦り合わせを終えたあとは、取締役会で決議を行います。取締役会とは会社の業務を担う代表者の集まりです。株主総会を開くべきかどうかなど極めて重要ではない事柄について話し合う場です。事業譲渡では取締役会の承認を得て、はじめて株主総会へと進みます。
株主総会でも事業譲渡の承認が得られたら、次はいよいよ事業譲渡契約の締結です。事業譲渡契約書は会社法上の取り決めは特にありませんので、法律や公序良俗に反しない内容で契約書を作成しましょう。
事業譲渡契約書では、売却対価の支払い方法や譲渡日、従業員の引継ぎなどについて記載するケースが一般的です。
事業譲渡契約の締結を終えたら、各種手続きを行います。有価証券報告書の提出が必要な方は、臨時報告書を内閣総理大臣に提出します。また、株主総会の承認を得た後に、公正取引委員会に事業譲渡届出書を提出しましょう。
事業譲渡後に再び監督官庁からの許認可が必要な場合は、速やかに申請を行ってください。事業譲渡により不動産などの財産の名義変更が必要な場合は、登記変更手続きを行いましょう。
株主総会の議事録は、株主の閲覧謄写請求の対象となるため必ず作成しなければなりません。議事録は5年間、各支店に備え置きするルールですので覚えておきましょう。
株主総会の議事録は「取締役」と名の付く方が作成します。取締役以外の方は議事録を作成できませんが、取締役と名の付く方であれば2人以上で作成しても構いません。取締役の方が議事録を作成するのが難しい場合は、取締役会の規則に沿って作成義務者を決めることも可能です。
株主総会の議事録の作成方法について、以下2つのポイントで詳しく紹介します。
株主総会の議事録では、必ず記載しなければならない項目があります。会社法で定められている記載事項は以下の6つです。
株主総会の議事録を作成する取締役などは、きちんと正しい情報を議事録に残さなければなりません。虚偽の記載や記録、記載すべき事項を記載しないといった問題が見つかると科料に処せられる場合があるので注意してください。
具体的な雛形を以下に紹介します。
臨時株主総会議事録
平成○○年○○月○○日(○曜日)午前○○時、株式会社○○○○○○の本店において臨時株主総会を開催した。
発行済株式の総数 ○○○○株
議決権を有する総株主の数 ○名
総株主の議決権の数 ○○○○株
出席株主の数 ○名(委任状出席も含む)
出席株主の議決権の数 ○○○○個
以上のとおり総株主の議決権の過半数に相当する株式を有する株主が出席したので、本会は適法に成立した。よって、代表取締役○○○○が議長席に着き臨時株主総会開会を宣言した。
第1号議案 事業譲渡の件
議長は、参考書類にある事業譲渡契約所のとおり、下記の者に事業譲渡をしたい旨を述べ、議場に承認を求めたところ、満場一致をもって本議案は承認可決された。
記
氏名 ○○○○株式会社
住所 東京都○○区○○町○-○-○
以上をもって本日の議事を終了したので、議長は閉会を宣し、午前○○時に解散した。
上記議事の経過およびその結果を明確にするため、この議事録を作成し、議長及び出席取締役の全員がこれに記名捺印する。
平成○○年○○月○○日
株式会社○○○○○ 臨時株主総会
議長・議事録作成者 代表取締役 ○○ ○○ ㊞
出席取締役 ○○ ○○ ㊞
出席取締役 ○○ ○○ ㊞
出席監査役 ○○ ○○ ㊞
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事業譲渡は、不採算事業を抱えて悩んでいる売り手と、新規事業の進出や事業規模拡大を目指している買い手のニーズがマッチしてはじめてM&Aが成立します。事業譲渡を成立させるには、株主総会で承認を得る必要があるため、手続きの流れなどをきちんと確認しながら契約締結に向けて準備を進めます。
株主総会の議事録には必ず記載しなければならない項目があるため、しっかりチェックしながら作成しましょう。
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