会社を買収したときの仕訳や会計処理について、複雑でよくわからないといった声もよく耳にします。
本記事では、買収時の仕訳方法を種類別にわかりやすくお伝えします。
仕訳時に発生する「のれん」や償却方法も合わせて解説しますので、ご活用ください。
企業買収はM&Aとも呼ばれており、中でも「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つが特によく利用されている手法です。まずは、それぞれの違いについて解説します。
株式譲渡は、会社の株主が別の企業に対して、50%以上の株式を譲渡することをいいます。
たとえば、I社の株主がJ社に対して、50%以上の株式を譲渡した場合は、I社はJ社の子会社になるのです。I社の所有者がJ社に変わるため、資産や権利、人材などすべてがJ社に移行します。
事業譲渡は、会社が持つ特定の事業を別の企業へ譲渡するものです。株式譲渡のようにすべてを引き渡す必要がなく、資産や負債などを個別に選定できます。譲渡後は、どちらの企業も存続できるのが特徴です。
ただし、事業譲渡は、権利の許認可や人材の労働契約などをひとつずつ確認しながら手続きを進めるため、株式譲渡よりも複雑だといえるでしょう。
企業買収(M&A)は、その手法だけでなく、会計の種類も以下の3つに分かれています。
ここでは、各会計方法の概要や該当する場面を見てみましょう。
個別会計は、株式取得時や事業譲渡をおこなったときに、会社単体で実施する会計処理のことです。子会社がなく、その会社だけで事業を経営しているときに採用されます。
ただし、子会社を保有している企業でも、個別会計によって企業ごとの決算書は作成します。
また、個別会計は、個別財務諸表に反映されるものとして認識され、株式譲渡であれば買い手側が「株式取得」、売り手側が「株式売却」の処理をおこなうのです。合併の場合には、買い手側が売り手側の会計を合算します。
連結会計は、企業をひとつのグループとして考える会計処理です。
大手の上場企業などでは多くの子会社や関連会社を抱えています。個別会計では、単体ごとの会計しか出せないため、連結会計をおこなうことでグループ全体の決算を確認できるのです。
たとえば、A社がB社の株式を買収し、B社の子会社になったとします。このとき、各企業の会計は個別会計で処理し、A社全体の会計はB社を含んだ状態で連結会計処理します。
また、連結会計では、B社の株式を買収したことは加味されません。連結会計は、あくまでもグループでの決算とすることで、全体を把握することが目的です。
ただし、上場企業の場合でも子会社を持たず1社のみで事業をおこなっている会社では、連結会計が採用されません。
税務会計は、法人税など税金を計算するためにおこなう会計手法です。個別会計と連結会計は「財務会計」に分類され、財務状態や損益を確認するための方法でした。しかし、税務会計は税額を決めるためにおこないます。そのため、正確に計算する必要があり、企業はより慎重な会計処理が求められるでしょう。
また、個別会計などの財務会計と税務会計の差額から、税費用を配分し、各会計を一貫して把握することがかないます。
ここからは、さらに詳しく会計処理時の仕訳を見てみましょう。まずは、株式譲渡をおこなう際の仕訳を確認します。
買い手企業の仕訳は、売り手企業が発行した株式に対する取得割合によって、以下3つの方法から合うものを選出します。
子会社株式は、売り手企業から議決権がある株式を過半数取得した場合に処理する方法です。たとえば、売り手企業の株式60%を現金6,000万円で購入した場合は、以下のように仕訳します。
子会社株式は、買い手企業と買い手の株主を合わせて過半数の議決権を取得した場合におこなうものだと覚えておくとわかりやすいでしょう。
関連会社株式は、議決権のある株式を20%〜50%以下の範囲で取得した場合に採用される仕訳方法です。例として、買い手企業が現金預金4,000万円を使って、売り手から40%の株式を取得した場合の仕訳は以下のようになるでしょう。
また、議決権ありの株式を20%以上取得していれば、もともとが子会社や関連会社関係にあっても、「関連会社株式」として計上します。
そして、議決権のある株式を20%未満取得した場合は、「その他株式」として扱い、仕訳は「投資有価証券」として計上します。こちらも例を見てみましょう。買い手企業が売り手企業の議決権15%を、現金預金1,500万円にて支払ったとします。
ちなみに、株式取得を何回かにわけておこなった場合では、それぞれの割合をもとに勘定科目を変更します。
1回目:20%〜50%だった場合には「関連会社株式」として仕訳
2回目:20%未満の場合には「投資有価証券」として仕訳
株式譲渡では、買収後にも買い手企業は仕訳が必要になる場合があります。たとえば、決算時に評価を見直すための仕訳をするケースもあるでしょう。例として、以下の場合が該当します。
この場合には、同じ株式でも150万円時価が上がっているため、買い手企業が保有した株式15%分も150万円増やす会計処理が必要です。ただし、保有株式が非上場株式、子会社株式、関連会社株式の場合決算時の会計処理は必要ありません。
株式譲渡の売り手企業側は、譲渡によって発生した利益を現預金か債権によって処理します。そして計上済みの有価証券は控除され、譲渡益との差額を「売却損益」として個別財務諸表へ計上するのが一般的です。
連結会計をする場合には、2社が連結したうえで会計処理されるため、簿価と譲渡益との差額を売却損益として調整します。
株式譲渡時に気をつけることは、連結決算できるケースが限られることです。
売り手企業が買い手企業の子会社になる場合には連結決算が可能ですが、それ以外ではできません。連結決算することで、「のれん(売り手の純資産と買収額との差額)」を処理でき、償却費を損金として計上できます。
のれんについてはのちほど解説しますが、連結決算でのみ「のれん」が認められ税効果を得られるのです。そのため、子会社にならない場合はのれん処理が認められないことが注意点として挙げられます。
次に、事業譲渡時の会計処理を見てみましょう。事業譲渡は、「株式」の処理ではなく事業にかかわる資産や負債をひとつずつ処理する必要があるため、会計処理も複雑です。
買い手企業では、譲渡対象の資産や負債を時価評価し「資産」として計上します。ここでは、I社がJ社の事業を総額5,000万円の事業譲渡にて買い取った例を見てみましょう。事業譲渡によって取得した資産は、以下のとおりに仕訳します。
このとき、売り手企業の純資産よりも高い金額で買い取ったものがあった場合は、差額を示す「のれん」が発生し、別途会計処理をおこなう必要があります。のれんについては、このあと詳しく解説します。
売り手企業側でも、個別会計として処理します。事業譲渡では単体の財務諸表にて処理するのが原則であり、連結会計を追加でおこなう必要はありません。
こちらも、売り手企業と同じ条件でI社がJ社の事業を5,000万円で買い取った例(この場合はJ社の仕訳)を見てみます。
時価よりも高い金額で譲渡した場合は、差額を「のれん」として事業譲渡益に計上します。また、税務に関しても、帳簿価格と実際の譲渡価格の差額から売却益を算出して処理されると覚えておきましょう。
事業譲渡時の注意点は、純資産よりも安い価格で事業を購入することがあり得る点です。
買い手企業の視点では、想定よりも安く買収できて得をしますが、売り手側の視点では損をしてしまいます。反対に、時価よりも高い価格で買収した場合は、買い手企業の償却費が増え、売り手企業の譲渡益が増すでしょう。
時価と異なる金額で事業が売買されると「のれん」が発生するため、差額が企業にとってプラスであってもマイナスであっても仕訳が必要となるのです。そのため、事業譲渡では「のれん」処理が発生することを理解しておきます。
最後に、仕訳で企業買収の処理とは別途必要だと伝えた「のれん」について確認しておきましょう。のれんは、買収側にとっても売却側にとっても、事業評価を左右する重要な項目です。
のれんは、企業買収やM&Aの場面でよく使用されている勘定科目です。具体的には、買収時の取引額が売り手の資産を上回った場合に発生する差額を意味し、物理的な資産ではなく「無形資産」に対する価値を示しています。たとえば、土地や設備などは物理的な資産ですが、以下のようなものは無形資産です。
売り手の魅力を示すシンボルとなることから、お店の「のれん」をイメージしてそのまま「のれん」と呼ばれています。
のれんの価値は、経費として計上できるほどに低いこともあれば、数十年かけて減価償却するほど高額となるケースもあるでしょう。実際に、純資産額をはるかに上回り、のれんだけで数千万円〜数億円と評価された企業も存在します。
そのため、のれんとは単純に帳簿上の資産や負債として認識できない、企業の「将来性」や「成長力」を示す指標のひとつといえるでしょう。
のれんの会計処理は、企業買収やM&Aにおいて純資産よりも高い金額で売買されたときにおこないます。例として、I社がJ社の事業(純資産5,000万円)を、500万円多い5,500万円で買い取ったときののれん処理を見てみましょう。
まず、この場合のれん代は、差額の500万円です。買い手企業は、500万円を資産とは別に計上する必要があります。
一方売り手企業は、買い手企業が「のれん」として計上した金額を「事業譲渡益」として「貸方」へ計上する決まりです。そのため、今回の例でいえば、500万円を貸方に「事業譲渡益」の科目で計上します。
のれんは、日本会計基準のうえでは「無形固定資産」です。
そもそも、買い手企業が純資産よりも多い金額を払って買収したため、資金を回収するにはのれん代の分だけ時間がかかるでしょう。
そこで日本会計基準では、20年以内に資金を回収できるように、のれん代を分割して毎年均等に返済していける処理を認めています。のれん代の効果が見込める期間を返済期間に設定するなど、買収側は20年以内であれば任意の償却期間を定められる決まりです。
ただし、一度決めた償却期間は変更できません。また、無理に短い期間に設定すれば、買収後の利益を大幅に下げる要因にもなり得ます。そのため、十分に買収後の運営や成長力を考慮して会計処理を選択しましょう。
国際会計基準は「IFRS」と呼ばれ、日本基準と異なり「のれん」を償却する処理は実施しません。その代わり、減損テストをおこない、のれんの価値や市場が急激に下落した場合に別途減損処理と呼ばれる処理をおこないます。減損テストは、のれんが発生した事業の価値を毎年測定し、簿価と比べて価値が下がっていないかをチェックするものです。
のれんを20年で償却できない点がネックとなり、多くのM&Aでは日本会計基準が採用されています。
ただしIFRSでも、のれんを償却するべきか話し合いがおこなわれている状態であるため、今後は現在の処理が変わる可能性もあるでしょう。
のれんの償却方法は、「定額法」によっておこなわれます。定額法とは、買い手企業が設定した回収期間において毎年同額を償却する処理方法です。たとえば、のれん代3,000万円を6年で回収できると設定した場合は、毎年500万円を償却します。
のれんの償却期間は、のれんの効力がどのくらいであるかを想定したうえで設定されるため、長すぎても短すぎてもいけません。
身近な例を挙げると、私たちが日頃買い物する際に決める、分割払いの回数も「どのくらいの額なら毎月払えるか」「いつまでその商品を使うか」をもとに判断しています。のれん代についても同様で、自社が企業買収によって「この先何年間事業を継続できるか」「のれんの効果はどのくらい続くか」などを基準に決めていくのです。
そのため、のれん代と今後の事業利益予測をよく考えて、償却期間を決めましょう。
のれんを仕訳するうえで注意するポイントは、のれん代を見誤らないことです。のれん代は、目には見えない資産を評価して定めます。そのため、売り手側の需要と買い手のアピールによって、大きく変動するものです。
のれんは、必ずしも正しい金額を算出できるとは限りません。いくら売り手企業の事業が魅力的に感じて高い金額を払っても、買収後に資金を回収できなかったり、事業がうまくいかなかったりしたら本末転倒です。また、のれんの価値を過信しすぎて失敗するケースもあります。
そのため、企業買収やM&Aにおける「のれん」は、買い手側の経営能力や存続力も大きな影響を与えるのだと認識しておきましょう。
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企業買収時の仕訳は、株式譲渡や事業譲渡によって処理も大きく変わるものです。また、M&Aでは「のれん」の評価が今後の事業運営にも影響します。それゆえ、会計処理や正確な事業評価は、専門家や仲介会社に依頼するのが一般的です。M&Aを成功させて、自社の価値をさらに高めたいならまずは専門家への相談をおすすめします。
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