2015年5月21日に開催されたマルケト社主催のイベント「Marketo Marketingup」に参加してきました。
イベント内では国内トップシェアを誇るサービスを運営するスタートアップ企業3社(freee株式会社、トークノート株式会社、Orinoco Peatix株式会社)の経営層によるパネルディスカッションも行われました。
今回はイベントの様子やパネルディスカッションの内容をご紹介します。
シェアを伸ばし続ける企業が実践するマーケティングとはどんなものなのでしょうか?
パネルディスカッションの内容から、そのヒントを探ります。
目次
マルケト社が目指すエンゲージメントマーケティング
最初にマルケトが目指すマーケティングのあり方についての説明がありました。
マルケト社は、日本でも導入する企業が増えつつあるマーケティングオートメーションツールのひとつである「Marketo」を提供している企業です。
アメリカを中心に全世界にサービスを展開しており、導入社数は3,800社・国内120社を超えています。
そのマルケトが目指すマーケティングの形が「エンゲージメントマーケティング」です。
ユーザーを取り巻く環境の変化によって、マーケティングのカタチも変化しています。
これからは企業からユーザーへの一方通行のマーケティングではなく、お客様一人ひとりの行動やニーズにフォーカスし、お客様と長期に渡り関係性を構築する手法が主流になる。そしてこの手法を「エンゲージメントマーケティング」と呼んでいます。
【パネルディスカッション】急成長スタートアップのマーケティングの裏側とは
<登壇者と運営しているサービス>
freee株式会社
東後COO
中小企業・個人事業主向けの「クラウド会計ソフト freee」を提供。
同サービスはリリースから2年で利用事業所数が30万を突破、国内ではシェア40%を占めており、そのシェアは現在も伸び続けている。
トークノート株式会社
湯浅COO
社内SNSサービス「Talknote」を提供。
効率的なビジネスコミュニケーションを助けるための”圧倒的に使いやすい”社内SNSサービスを提供しており、導入社数は15,000社を突破、国内No.1である。
Orinoco Peatix株式会社
藤田VP/Co-Founder
イベント管理サービス「Peatix(ピーティックス)」を運営。
サービス開始から4年でイベント動員数120万人、開催イベントは5万以上、イベント管理サービスとしては国内No.1である。
株式会社マルケト
Lead Business Consultant
安竹氏
<モデレーター>
株式会社マルケト
Vice President
小関氏
マーケティングで注力していることは「コミュニティ作り」
最初の質問は、各社が「マーケティングで注力していること」。
まずはPeatix藤田VP
ですからオーガナイザ―になりそうな人が多くなってくると、自然とPeatix自体も成長していけるということになる。良いイベントを開催していただけるコミュニティを支えていくというところが注力しているところです。
実際にイベント主催者同士をつなげるためのイベントを行うなど、コミュニティを作るために積極的に活動しているとのこと。
ちなみに社内にはマーケティング専門部署はなく、「グロースマネージャー」というサービス全体の成長を担う担当者がコミュニティの運営も行っているのだそうです。
プロダクトを磨き続けることが最大のマーケティング施策
続いてはトークノートの湯浅COO
インフルエンサーマーケティングに最も注力しているというのはすこし意外に感じましたが、その理由はサービスの性質と深く関係しているようです。
依然としてビジネスコミュニケーションの中心はメールであり、社内SNSの必要性を感じていない人がほとんどです。
その中でトークノートが最もこだわっていることは「使う人のリテラシーに依存しない、圧倒的な使いやすさ」。
実際にオフィスワーカーだけでなく、飲食店、医療・介護施設、美容関連の店舗など、普段の業務であまりパソコンを使わないイメージのある業種の方が導入している事例が多いのだとか。
使いやすさに感動したイノベーター、アーリーアダプターによる口コミが最も有効なマーケティングになる、だから誰かに言いたくなるようなプロダクトへと磨き続けるということです。
サービスを認知・体験したもらうために広告などを活用することは重要ですが、デザイナーやエンジニア、サポートスタッフの体制を強化することが、現段階では、もっとも効率の良いマーケティング投資だと考えています。
という言葉が非常に印象的でした。
合言葉は「マジで価値ある?」ユーザーへの本質的価値を追求する
最後はfreeeの東後COO
マーケティングの重要な指標は無料トライアルの増加ですが、一つ一つのマーケティング施策の根底にはある考え方があるそうです。
具体的な施策のひとつとしてfreeeは「経営ハッカー」というオウンドメディアを運営しており、中小企業の経営者や個人事業主に役立つ情報を発信しています。
同サイトは現在100万PVを超えており、サービスの認知度もそれに応じて高まっているそうです。
新規獲得数などの目標を重視するあまり、ユーザーにとっての価値を見失ってしまう感覚は、マーケターにとってはよく理解できるものだと思います。
そういった状況に陥らないための「マジで価値ある?」という問いかけは、今すぐに取り入れたいですね。
2年で30万事業者以上に導入、現在も伸び続けているという実績は「マジで価値ある」ことを地道に続けてきた結果なのだということがよくわかりました。
顧客の生涯価値から逆算してマーケティング費用をかける
次は「マーケティングにおいて参考にしている企業は?」という質問。
その回答として前職で所属していた企業(Google、amazon等)の名前が多く挙がりました。
湯浅COOは参考にしている企業の共通点として「顧客のLTV※から考えてマーケティング施策を適切に行なっている」というものを挙げました。
※LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とは
LTVとは、1人1人の顧客がある製品や企業に対して付き合っている間に支払う金額合計から、その顧客を獲得・維持するための費用合計を差し引いた「累積利益額」です。 つまり企業から見て、ある顧客がその企業と取引している間にどれだけの価値(利益)をもたらしてくれるかを測定する、長期的な視点での指標がLTVです。
出典:LTV(顧客生涯価値)を実際に求める方法とは? - @IT情報マネジメント
クラウド会計ソフトfreeeと社内SNSトークノート、それぞれサービス利用にあたっての最低月額が980円、480円(一人当たり)と導入にあたっての月額費用が安いという特徴があります。
単純に計算すれば1顧客獲得あたりのコストは限りなく低く抑えたいと思うところ。しかしながら、実際には必要なタイミングでテレビCMのような高額の投資も行う。
そういった意思決定ができるのはLTVという考え方を徹底できているからであり、マーケティングで成功するための必須条件と言えるのかもしれません。
freeeもこの考え方を非常に重視しており、すでに確定申告の時期にテレビCMを行っています。
顧客のデモグラフィック属性だけをとることは意味が無い
前職で務めていたamazonを参考にしている企業として挙げた藤田VP
- お客様の声を拾い集めてそれをもとにアクションを決めていくことを徹底している
- 男性/女性、年代など従来のくくりにとらわれるのではなく、実際の行動から適切なコンテンツを提供(レコメンド)する
このようなamazon譲りの考え方がマーケティングからプロダクト開発にまで影響しているそうです。
プラットフォームを磨いていく時や主催者が求めていることを知りたいときには、調査や、エバンジェリストによる直接のヒアリングなど、あらゆる手段でお客様の声を収集し、具体的な施策に落としこむ。
ユーザー登録の時に取得する情報はメールアドレスのみで、行動履歴からおすすめのイベントをレコメンドしていく。
結果として上記のような施策につながっているそうです。
顧客をわかりやすいセグメントでくくるという考え方は今後さらに陳腐化し、一人ひとりの行動から趣味趣向を判断しマーケティングを行うことが重要になっていくのでしょう。
上がっていない声こそ、会いに行ってでも聞く
ここで、ユーザーの声をどのように吸い上げているかという話題になりました。
顧客視点、ユーザー視点を徹底する3社。お客様の声を吸い上げる仕組みづくりにも力を入れています。
Peatixでは、サポートチームにかかってきた電話の内容を詳細に記録、細かく分類し、優先度の高いものからサービスの改善に反映しているそうです。
トークノートにとっての顧客の声は2種類、すでにサービスを利用している顧客の声と、これから使うかもしれない将来の顧客の声です。
前者については基本的にツール(Zendesk)を使って吸い上げていますが、中でも湯浅COOが特に重視しているのは、トークノートを使ってはいるが声を上げていない顧客の声です。
ユーザーと向き合うことへのこだわりがすごいですね。
ただし、さらに多くの顧客に受け入れられるサービスに成長させるためには既存顧客の声だけでなく、将来の顧客の声にも接していかなくてはなりません。
将来の顧客については、実際に経営者と会い、「なぜメール中心業務の非効率性を感じているのに、トークノートのようなサービスを使わないのか?」などの問いかけを通してサービスを成長させるためのヒントを探っているそうです。
freeeでもユーザーサポートに寄せられる声を参考にしているのですが、特徴的なのはメールサポート以外にリアルタイムでチャットでのサポートも行っている点です。
またサービスの改善にあたってはユーザーテストも利用しており、ユーザーに実際にサービスを「愚痴をいいながら」使ってもらっているところを撮影し、その中からサービスの改善点を見つけているのだそうです。
まとめ
「ユーザーに対する価値」を徹底的に考え、必要な施策を愚直に実行している3社の姿勢が非常によく伝わる、学びの多いパネルディスカッションでした。
企業の「刈り取り」視点のマーケティングは終わり、いかにユーザー視点になれるかというのが重要になっているのは間違いありません。
行動履歴によるレコメンドや、水面下に潜っているお客様の声を吸い上げていくなど、ユーザーひとりひとりにフォーカスしたマーケティングが必要であり、それを実践するための手段としてマーケティングオートメーションツールに注目が集まっているのだと思います。