コンテンツマーケティングという言葉が日本のWebマーケティング市場に根付いてからというもの、巷ではその有効性についてポジティブ・ネガティブ両方の声が聞かれるようになりました。
コンテンツマーケティングとは単なるマーケティングの手法(理論)の1つにすぎません。大事なのは理論を理論で終わらせず、それをどのように実践できるかです。
今回取り上げる不動産賃貸業界は日本及びグローバルでもコンテンツマーケティングの成功事例が多い分野のひとつです。本稿では
- SUUMOジャーナル
- HOME’S PRESS
- イエマミレ
- HEYAZINE
という老舗系2つ新興系2つの4サイトを分析の対象とし、各種比較を通して成功への糸口を探りたいと思います。
目次
不動産賃貸業界におけるコンテンツマーケティングの狙い
不動産賃貸業界は規模も大きく、それに伴って多くの広告を投じることができる分野であるため古くから刈り取り型のキーワードでSEO及びリスティング等の広告を運用してきました。
しかしながら刈り取り型広告の価格が高騰しており、その効率は悪化する一方になっています。そこで、今まであまり目を向けられることのなかった潜在層に対してコンテンツを主としたマーケティングを展開する流れが生じました。
SUUMOを例に取ると、「SUUMOジャーナル」経由でトラフィックとナチュラルリンクを獲得し、それを本体サイトに還元することを目的としていると考えられます。
もちろんSUUMOやHOME’Sという古参プレーヤーの方が、サイト運用履歴及びブランド力的にも有利です。そのようななかで振興プレーヤーがどのように違った角度からマーケティングを展開しているかにも注目して分析しています。
各サイトのご紹介
まずは調査対象の4サイトをご紹介します。
リクルートが運営する不動産サイト「SUUMO」のオウンドメディアです。
説明の必要はないかもしれませんね。
不動産関連の記事はもちろんのこと、広く暮らしに関する記事を配信しています。
■HOME’SPRESS ~住まいの「本当」と「今」を伝える情報サイト~
ご存知不動産賃貸の雄HOME’Sが運営するオウンドメディア。
自社で抱えているライターから住まい・不動産系の専門家が記事の作成を担当しており、レベルの高いメディアになっています。
コンシュルジュ型賃貸Webサービスを展開するiettyのオウンドメディア。主に賃貸系のお役立ちネタを中心にコラム記事を配信しています。
■HEYAZINE ~賃貸マンションを『賢く探せる』賃貸情報ポータルサイト
仲介手数料ゼロのネット専業不動産賃貸サービスを展開するHEYAZINE。
リニューアルを経て現在ではドメイントップが情報サイトの体裁になっています。
徹底比較!コンテンツの企画・生産力編
まずは継続的にコンテンツを配信していくために欠かせないコンテンツの企画力、生産力を比較します。
記事の企画/生産力比較
コンテンツ分析の結果は下記のようになっています。
やはりコンテンツのバリエーションと生産力(コンテンツ量)に関しては、大手2社と新興2社との間に差がつく結果になりました。
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※ページ数はコンテンツが含まれるディレクトリを「site:」検索した際の表示件数を記載。2015年7月15日に計測。
HOME’S PRESS、SUUMOジャーナルの2社で比べるとHOME’S PRESSが若干内容として固めのテーマを扱っているのに対してSUUMOジャーナルが生活術系などのやわらかいネタもふんだんに取り入れている印象。
2社とも「専門家」を囲い込んでいる点に関しては自社ならではの強みを活かしたコンテンツ制作リソースを持っているようですがカラーに違いが出ています。
コンテンツの性質をプロットすると上記のように少し差が出る形に。
特徴的なのは、HEYAZINEが「関連性が低くバイラル性の高い記事」を他サイトよりも多めに配信している点かと思われます。
例:関連性が低くバイラル性の高いHEYAZINEの記事
ハーバード大学「人生で幸福度に一番影響を与えるのは、幼少期の両親との人間関係」
藤田 晋「ぼくは、この人とは揉めちゃいけないなと思うと、すぐに会いに行くようにしている。」
ロバート・キヨサキ「すべての人がお金を使うのだから、なぜ学校でお金について教えてないのか、不思議でしょうがない。」
コンテンツの流通力比較
次にコンテンツの流通・拡散力を比較していきます。
1.ソーシャルメディアを使った拡散
ソーシャルメディアでの波及力では新興メディアに軍配が上がりそうです。
各ソーシャルメディアで人気があったコンテンツ上位5つのシェア数を比較します。
※各表は弊社のコンテンツ分析ツールを用いて作成。2015年7月17日時点の数値を抽出。
HEYAZINバイラル要素の強い記事がFacebookいいね!を集めているようです。
Facebookいいね!がつく記事とtwitterで拡散される記事の違いがわかります。twitterの方が「自分も何か言いたくなる」ようなコンテンツが拡散されているようです。TOP5の平均値ではまたもやHEYAZINがトップに。
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▼はてなブックマーク
こちらも上記2つとは性質が少し違い、「あとで役に立ちそうだから保存しておこう」と思われるようなコンテンツが人気です。1,000はてブを超えるような記事は無く、そこまで注力していないというサイトも多そうです。
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2.検索エンジン集客力分析
検索エンジンからの流入は、古参の2メディアが大きく新興系の2サイトを引き離す結果となりました。
関連語での検索結果順位の比較
上位表示を狙いたいであろう「賃貸」「引っ越し」等の関連語での上位表示状況を調査対象の4サイトで比較しています。
SUUMOジャーナルとHOME’S PRESSは多くのキーワードで5位以内に表示されているのがわかります。
それに対して新興メディアのイエマミレとHEYAZINEは、今回の調査キーワードにおいては上位表示はまだほとんどできていないようです。
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※弊社のSEO分析ツールを用いて、「賃貸」「不動産」「一人暮らし」等の不動産関連用語のサジェストキーワードを選定し、2015年7月17日時点の順位を抽出して作成しています。
ナチュラルリンク構築力を比較
上記の検索エンジン集客力を生んでいる背景を「被リンク」の観点から分析を行いました。
数値面ではSUUMOジャーナルが頭ひとつ抜き出ています。
※ASEを用いて作成。2015年7月17日時点のデータを抽出。
いくつものリンクビルディング手法をうまく実施しているSUUMOジャーナルですが、中でも自社の強みを活かしたものが「メディア掲載リンク」です。
これは「SUUMOジャーナルに対して記事を寄稿、もしくは取材を受けた旨をニュース欄等からリンクしているもの」です。
寄稿側、インタビュー対象者も建築家や古くからのサイト運用者、業界のオーソリティが多く非常に高いページランクからリンクを受けています。
リクルート社が運用するSUUMOというブランド力をうまく活用した良い事例といえるでしょう。
リンク獲得例:日本最大のリフォーム団体 耐震補強なら木耐協
メディア提携の有無
メディア提携状況は目視でざっと確認できるかぎり下記のようになっています。
※コンテンツタイトルの検索結果、およびASEの被リンクを筆者が目視で確認して抽出。
新興2サイトは提携メディアへの配信が確認できませんでした。
Yahoo!ニュースと提携できている点はSUUMOジャーナルにとってありがたい流入元になっている可能性が高いと考えられます。
またトラフィック量の観点と別にコンテンツの書き手の確保という意味でも、「Yahoo!ニュースに載るかも」という点がプラスに働いているであろう点も見逃せません。
まとめ:総合力で勝る古参2サイト。ソーシャルを用いた拡散と提携メディア配信がポイントか?
上記分析結果をまとめるとやはり総合的にコンテンツ企画・生産、及びその流通力ともに古参2メディア、とくにSUUMOジャーナルに軍配が上がる結果となりました。
今後新興系メディアがSUUMOジャーナルやHOME’S PRESSと戦っていく上でポイントになる点がいくつかあるかと思います。
- ソーシャルを中心としたコンテンツ拡散
古参2社は、古くから運用している強力なドメイン配下にコンテンツを設置することによって検索エンジンから多くのトラフィックを獲得しており、その差は簡単に縮められるものではありません。
しかしながらソーシャルでの拡散力はそこまで大きな差ではなく、むしろ新興系2社の方が上回っている面も少なくありません。
比較的関連性が低くフロー系になりがちなソーシャルトラフィックをいかに成果につなげる事ができるかがポイントになるのではないでしょうか。
検索エンジントラフィックを狙うのであれば、不動産系の関連性の強い記事に対してはてブが多くつくような仕組みを整えてナチュラルリンクを獲得し、検索結果の上位を獲得していくこともできるかもしれませんね。
- 切り口を差別化して他メディアと提携
もちろん自社メディアの地力を伸ばすことも重要ですが、それだけでは簡単に先行者との差を埋めることはできません。
コンテンツ面で差別化を図り、他メディアから見て魅力的なコンテンツを用意することで短期的にトラフィック面は強化できる可能性があります。
ただし、メディア提携するためにはコンテンツ量の確保が必要なため、1日に数本は記事を更新できるような生産体制を構築しなければならないでしょう。
以上いくつかの観点から分析を行いましたが、
前述の4社以外にも独自の観点からコンテンツマーケティングを展開しているプレーヤーはまだまだ多く存在します。
今後もプロモニスタではそうしたコンテンツマーケティングの成功事例にフォーカスをあてて、読者の皆さんにご紹介していければと思っています。
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